アメリカ最高裁が女性の中絶の権利を認めた判決ロー対ウェイドを覆す決定を下したことを受けて、多くの米企業が女性たちのリプロダクティブ・ヘルスの権利を守るために動いている。(フロントロウ編集部)

ロー対ウェイドに対する最高裁の決定受け、米企業が動く

 1973年に人工妊娠中絶の権利を認めたロー対ウェイド判決がアメリカ最高裁によって24日覆され、アメリカで約50年守られてきた女性たちのリプロダクティブ・ヘルスの権利が奪われた。この決定を受けて、米企業の間では従業員への新たな社内規定の発表が相次いでいる。

 今後、中絶をめぐるルールは各州に委ねられることになり、20以上の州で中絶が禁止される見通しとなっている。そのため、中絶が違法となった州の女性たちが中絶手術を受ける場合は州をまたいで移動する必要がある。それを受けて、MetaやJPMorgan Chaseは従業員が州外で治療を受ける場合に渡航コストなどを負担すると決めた。Googleは中絶が禁じられた州に暮らす従業員からの拠点変更願いを受けつけると社内メモで通達。UberやLyftといった配車サービスは、中絶に向かう乗客を乗せたことで訴訟に発展した場合はドライバーを法的にサポートすると宣言。さらに、Apple、Tesla、Citigroupなどの企業も最近、中絶を必要とする従業員の渡航コストをカバーする方向で社内規定を拡大した。

 Patagoniaでは判決後、「パタゴニアは長年にわたり、中絶医療、働く親、そして家族を支援してきました。そしてこれからもそうしていきます」という声明と共に、「従業員へのケアは、企業の責任です」と題された文書の中で従業員を対象とした社内制度をクリアにし、その中で、「リプロダクティブ・ジャスティス(生殖に関する正義)のために平和的に抗議する」すべてのパートタイムおよびフルタイム従業員を「訓練」と「保釈」の提供という形でサポートをするとした。

 9人いるアメリカ最高裁の判事は終身制(※)で、席が空いた場合の後任はその時の大統領が任命するルールになっている。ドナルド・トランプ政権時代に新判事の任命が異例の3回(※)もあった結果、現在のアメリカ最高裁は6対3で保守派に傾いている。その中で最も保守的なクラレンス・トーマス判事は24日の意見書で、避妊具へのアクセスや、同性同士の結婚、さらには同性愛に関する過去の判決に関しても「再検討するべき」としており、アメリカ国内の人権に対する脅威は今後さらに大きくなるかもしれない。

※職を失うのは、自ら選んで引退した場合、死去した場合、または弾劾裁判によって罷免された場合。
※1人の大統領が4年で3人の最高裁判事を任命するのは近年としては異例。

(フロントロウ編集部)

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