アメリカの各州で人工妊娠中絶が禁止に
アメリカでは、1973年に「ロー対ウェイド」裁判によって女性の人工妊娠中絶の権利が認められた。この裁判は妊婦であるジェーン・ロー(仮名)がヘンリー・ウェイド地方検事に対して、中絶を禁止する州法は違憲であるとして裁判を起こし、連邦地方裁判所および最高裁判所が州法は違憲だと判断したことで中絶の権利が認められた歴史的なものだった。
しかし、保守派のドナルド・トランプ氏が大統領だった期間に、彼は異例となる3名もの最高裁判事を指名。これにより、終身任期である米最高裁判事9名のうち保守派が6名、リベラル派が3名に。
そして、2022年6月24日にアメリカの最高裁判所は「ロー対ウェイド」の判決を覆し、女性の中絶の権利が憲法で保障されなくなった。アメリカの13の州では、最高裁が判決を覆せば自動的に中絶を禁止するトリガー法が成立していたため、すでに7つの州で中絶が禁止となり、今後もその数は増えていくと見られる。
中絶を違法にすれば、中絶が社会から消えるわけではない。中絶を禁止する一方で女性への暴力、女性へのケアの欠如、児童福祉、貧困といった問題への取り組みが薄い社会では、中絶の禁止は違法で危険な中絶手術を増やすと予想されている。
メドウ・ウォーカー、パンデミック中に中絶を経験
中絶の権利の重要性を訴えるために、人工妊娠中絶手術を受けた経験を明かしている女性著名人は少なくない。そして、最高裁の判断を受けて、2021年10月に結婚したばかりのメドウ・ウォーカーが、2020年に中絶をするという決断をしていたことを明かした。メドウは、2013年に交通事故で急逝した『ワイルド・スピード』俳優のポール・ウォーカーの娘として知られる。
「今日は、歴史における大きな後退の日。アメリカ中の女性に対する深い不正義が示された。数えきれないほどの女性たちが、中絶をするという決断をすることに苦しんできました。パンデミックで世界が崩壊していた2020年に、私もその選択をするという闘いを経験し、中絶手術を求めました。それは非常にプライベートで個人的な話で、そうあるべきです。私には、(精神的・身体的に)消耗するそのプロセスのなかで、自分をサポートしてくれる素晴らしい医師がいてくれたことは幸運なことでした。医師たちの助けで、今日の自分である幸せで健康な人間になることができました。今、より多くの女性たちが、安全な中絶手術を求めることや、自分の身体を第一に選ぶことができないと知ることは、本当に心が壊れる思いです。女性たちを絶えず軽視する世界のなかで、これは女性たちに対する最も重大な暴力だと感じます。中絶を禁止することは、中絶を防ぎません。それは安全な中絶を妨げるだけです」
医師による安全な中絶が禁止されれば、医学的に安全ではない中絶手術を受けたり、女性が自ら流産しようとして危険な行為を行なったりする出来事は増えるだろう。中絶の権利を訴えるデモで、“ハンガー”がシンボルになってきた(※)のには理由がある。
※歴史のなかでは、女性がハンガーといったものを使って自分で中絶をしようとした事例があり、ハンガーは中絶の権利の重要性を訴えかけるシンボルとなっている。
中絶費用が非常に高額に設定されており、低用量ピル・IUD(子宮内避妊具)・緊急避妊薬の入手といった妊娠を防ぐための方法も制限されている日本にとっても、アメリカの問題は他人事ではない。
(フロントロウ編集部)