マイルズ・テラー主演、『ゴッドファーザー』制作に関わった“3つの家族”の物語
『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』は、映画の金字塔『ゴッドファーザー』のプロデューサーを務めたアルバート・S・ラディ(マイルズ・テラー)を主人公に、この名作が誕生するまでに彼がいかなる困難を乗り越え、危機的状況を回避して制作に至ったかを、原作者マリオ・プーゾ、フランシス・フォード・コッポラ監督、俳優陣アル・パチーノ、マーロン・ブランド、プロデューサーのロバート・エヴァンス等の視点を通して描いた壮大なドラマシリーズ。
クリエイター兼脚本家マイケル・トルキンは、同シリーズでは3つの家族を描きたかったという。「名作『ゴッドファーザー』は家族を描いた映画で、今作『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』も家族に関して描きたかった。今作は、まず映画の制作に関わったラディ中心の映画の家族、パラマウント・ピクチャーズのスタジオを含めた家族(上層部)、そしてこの『ゴッドファーザー』に関わった実在のマフィアの家族の3つの家族から構成されているんです」と教えてくれた。
そんなトルキンは、現在92歳という高齢だが存命の『ゴッドファーザー』の製作者アルバート・S・ラディに実際に会って、その内容から今作の脚本を手がけたそう。「実は、パラマウントTVのトップのニコル・クレメンスが、僕に今作の企画を引き受けることに興味はないかという電話をくれたことから、実際に1週間、全部で10時間くらいかけてアルバートから『ゴッドファーザー』の制作過程を聞き出しました。その時に、さまざまな逸話やストーリーを文面に収めながら、TVシリーズに充分な内容で、執筆したいと思ったんです」と制作経緯を明かしてくれた。
原作小説を書いたマリオ・プーゾ役を演じたパトリック・ギャロは、『ゴッドファーザー』執筆以前に書いた、退役軍人の恋をテーマにした小説『The Dark Arena』や、プーゾの母親の移民としての苦労を書いた『The Fortunate Pilgrim』など、他の執筆作品もリサーチしたという。「プーゾに関するあらゆる書物を読みました。なぜなら、プーゾの仕事を通して彼の内面を探したかったからです。その過程で、プーゾはすごく自分の仕事に気を配り、その全てを注ぎ込み、詩人でもあったことがわかり、それら全てが彼の言葉としてページに記されていたのです。彼の仕事を掘り下げることが最良の(役柄への)アプローチ方法になりました」と振り返った。
パチーノ起用否定論、本物のマフィアが果たした役割
当時、パラマウント・ピクチャーズの社長を務めていたロバート・エヴァンスは、エヴァンスを主人公にしたドキュメンタリー映画『くたばれ!ハリウッド』などを通して、映画『ゴッドファーザー』の制作に重要な役割を果たしたと思っていたが、今作を鑑賞すると、制作過程においてマイルズ・テラー演じるプロデューサーのラディによる判断が大きな比重を占めていることがわかる。
トルキンは「もちろん、今作はラディのストーリーに頼って描いているが、(亡くなる前の)エヴァンスは、日焼けした体に真っ白な歯で、誰も彼のことをシリアスに捉えていない感じだったのですが、今作では真剣なエヴァンスを捉えていて、映画を手がけるうえでエヴァンスのダイナミックさと、様々な人物と共に働こうとした過程も捉えています」と説明。さらにトルキンは、エヴァンスが当時、なぜ俳優アル・パチーノを主役に雇うことを拒んでいたのかについても語ってくれた。「エヴァンスは、実績のあるスターを探していたが、当時のパチーノはまだスターとしては確立していなかった。当時のパチーノは、2、3作のオフブロードウェイの舞台劇に、一本の映画に出演していただけで、誰も彼がどんな人物か理解していなかった。だから、もっと有名な人をこの役柄に望むのは、完全にエヴァンスの懸念の範囲内だった。もっとも、エヴァンスはパチーノの演技に納得し、受け入れて、(最終的には)彼に感謝していたのです」。
当時、映画『ゴッドファーザー』の製作過程ではジョー・コロンボによるマフィアとの関わりなどもメディアで取り沙汰されたが、ラディと実在したマフィア、ジョー・コロンボとの関わりについて「マフィアのストーリーを描きたかったものの、(人々がマフィア映画で見てきた)馴染みのあるマフィアや、マフィアならではの陳腐なものにはしたくはなかった。だからこそ、(実在した)ジョー・コロンボをキャラクターとして描きました。コロンボは自己破壊的だが、ヒーロー的な部分もあって、そのコロンボがラディの(『ゴッドファーザー』の制作の)ために何をしたかも伝えたかったのです。コロンボは、ラディが実直な男、信じられる人物だとわかると、ラディのためにマフィアの世界のドアを開けた。だが、それと同時にラディはコロンボからマフィアとの境界線を出ないように警告もされる。なぜなら、一度どの境界線を越えるともう戻れないからです」と明かした。現場では野心とビジョンを明確に持ったラディが、この原作を最良の方法で、映画として人々に伝えるように奮闘することになる。
そしてプーゾは当時、俳優マーロン・ブランドに、『ゴッドファーザー』の撮影前に手紙を書いたという。「(この手紙に関して)ブランドはとても感動したそうです。当時のブランドは、映画業界からそれほど愛情を受けていない時期だった。彼の(気難しい)存在が人々に恐れられ、本当に仕事がなかった時期でもあった。そこでプーゾは、ブランドへの敬意を手紙を通して払ったのです。ブランドもそれを気に入った。プーゾは『私は本当にあなたの仕事が大好きで、あなたにこれをしてほしい』という勇気を持って言ったと思うんです。ブランドはそんな勇気を尊重し、『ぜひ、一緒にやってみたい』と思ったはずです」。
さらに、映画『ゴッドファーザー』に登場するキャラクター、ジョン・フォンテインというキャラクターは、歌手のフランク・シナトラをモデルに描かれているとされているが、実際にプーゾとシナトラは会ったことがあったかについてギャロは「別々のレストランで2、3回接触したことがあったらしいものの、深いつながりにはならなかったようです。『調子はどうだ?』というような挨拶程度で、率直に言ってお互い会うことに熱心でもなく、当時のシナトラは問題を抱え、決して暖かいタイプでもなかった。もちろん、これらの情報は人から聞いた話やリサーチで知っただけのものですが…」。
劇中で共同執筆しているシーンが描かれているプーゾ(パトリック・ギャロ)とコッポラ監督(ダン・フォルガー)について、「プーゾとコッポラ監督は芸術的な相互の尊敬と信頼があり、フォグラーと僕もその関係を構築したんです」と答えたギャロは、「コッポラ監督は(監督できることを)証明するために、みんなに『(「ゴッドファーザーの映画化は)できない」と言われながら、(ファイナルカットの権限もなく)不安と欲求不満を持ちながら取り組んでいました。一方、プーゾは小説『ゴッドファーザー』を執筆し、一生分の成功がそこにあったが、脚本を書くことで、作家だけでなく、脚本家になれることも証明しなければいけなかった。だからプーゾとコッポラ監督は興味深い異なる挑戦をお互い抱えていたが、どちらも同様に複雑な問題も抱えていたのです」。
プーゾと彼の妻エリカとの関係についてギャロが「プーゾはエリカを尊重し、彼女の言うことに耳を傾けていました。エリカは、プーゾ自身が信じていなかった新たな挑戦をするための少しの自由を与え、作家としての軌道を変える新たな道へと導いたのです。この世界には、私が何をする必要があるのか教えてくれる人がいて、プーゾにとってはそれがエリカだった」と語る通り、それまでシリアスな小説を書いていたプーゾが、初めて商業的な作品に挑戦したのが、この小説『ゴッドファーザー』だった。
最後にギャロは、今でも映画『ゴッドファーザー』が多くの人に高く評価されている理由についてこう語った。「プーゾは、俳優ジェームズ・ギャグニーやエドワード・G・ロビンソンなどのギャング映画に出てくるキャラクターとはまた異なり、誰も読んだことのないような素晴らしいマフィアの観点で原作を書き、そんな日々のマフィア家族を幾重の層にもなったストーリーで綴ったことで、人々のマフィアに対する見方を変えたと思うんです。人々にとって怖いくらいリアルなものに映ったのだと思います」。
ドラマ『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』はU-NEXTで見放題独占配信中。(取材・文:細木信宏/Nobuhiro Hosoki 編集:フロントロウ編集部)