アレクサンダー23のルーツはジョン・メイヤー
デビューアルバム『アフターショック』のリリースおめでとうございます! ついにデビューアルバムがリリースされたわけですが、心境はいかがですか?
「最高の気分です。このアルバムの制作は感情が込み上げてくるようなプロセスでしたが、すごく満足していますし、完成したこの作品のことを誇りに思っています」
シンガーであり、ギターやピアノなどを弾くマルチプレイヤーでもあるアレクサンダーですが、音楽にハマったきっかけは何だったのでしょう?
「物心がついて自分が初めて音楽をやりたいと思うようになったのは、父親がギターを弾いているのを見たことがきっかけです。『僕もこれをやらなきゃ』と思い、そこからギターを弾き始めました。それから、自宅に小さなピアノもあったので、13歳か14歳くらいの頃から、ピアノにも挑戦し始めたという感じですね。すべてはそこから始まりました」
初めて曲を書いたのは何歳の時ですか?
「初めて曲を書いたのは、たしか11歳の時です。笑える話で、当時付き合っていたガールフレンドと別れてしまったのですが、僕としてはヨリを戻したくて。それを彼女に伝えたら、『思いの強さを証明して』って言われたんです。それで曲を作ったところ、彼女も告白を受け入れてくれて、またヨリを戻すことができたっていう(笑)」
それはすごいですね(笑)。ところで幼少期のアイドルはジョン・メイヤーだったそうですが、今年に入ってからサポートアクトとしてジョンのツアーに参加していましたね。
「最高でしたよ。ジョン本人や彼のバンドから、ツアーで毎晩学ぶことができたのはこの上なく光栄なことでした。本当に親切な人たちばかりで、寛大に接してくれました。ツアーのうちの1つの公演では、ジョンが僕のステージに来てくれて、一緒に共演することもできました。素敵な経験になりましたね」
ジョン以外でご自身にとってのアイドルのようなアーティストはいましたか?
「幼少期の頃は、元ニルヴァーナのメンバーで、今はフー・ファイターズにいるデイヴ・グロールが僕にとっての憧れでしたね。それから比較的最近になってからのヒーローで言うと、ケイシー・マスグレイヴスです。素晴らしいソングライターですし、彼女が書く楽曲はとても素敵です。ソングライティングもプロデュースも美しいなって思います」
同感です。ケイシーは今週末(※)に日本へ来て、サマーソニックというフェスティバルに出演するんですよ。
「今週末に!? その時まで滞在できていたらよかったのに(笑)。それは残念だな!」
※取材したのは2022年8月15日。
ソングライティングは感情を整理するセラピーのようなもの
ここからはデビューアルバム『アフターショック』について伺います。(日本語で余震を意味する)“Aftershock”というタイトルは、このアルバムを表現するのにぴったりだと思いました。このタイトルはどのように思いついたのですか?
「このアルバムは失恋から生まれた作品で。失恋が地震だとしたら、このアルバムはその後に訪れる感情面での“余震(アフターショック)”に当たるんじゃないかって考えたんです。後から訪れてくる、感情や心情の余波がテーマになっています」
このアルバムは「Hate Me If It Helps」の「君のセラピストは僕に好感を持っているだろうか」という歌詞から幕を開けます。あなたの楽曲を聴いていると、楽曲を書く過程は一種のセラピーのようなものなのではという印象を受けますが、ソングライティングはメンタルヘルスを安定させる助けになっているのでしょうか?
「まさしくその通りです。具現化するような形で曲を書くようになったのもそれが理由で、曲に書き留めながら、自分の感情を整理しています。ソングライティングはいつだって僕にとってのセラピーのようなものでしたし、もし楽曲を書いていなかったら、抱えてきたあらゆる感情はどうなっていただろうと思います」
楽曲制作以外に、感情を整理するために心がけていることはありますか?
「大抵の場合は、家族や友人に連絡を取ることですかね。僕は家族や友人をすごく頼りにしていて、よく近況を聞いたり、挨拶を送ったりしています。あとは、バスケットボールもよくするのでそれもすごく助けになっています」
ご友人といえば、「Hate Me If It Helps」でも共作したオリヴィア・ロドリゴについても伺いたいのですが、オリヴィアとはどのように出会ったのですか?
「出会ったのは何年前だったかな? 2〜3年前か、もしかしたらもう少し前だったかもしれませんが、オリヴィアと仕事をしていた共通の友人がいて、その人から『このオリヴィアという子にぜひ会ってみてほしい』って紹介してもらったんです。『素晴らしい子で、君なら一緒に楽しく楽曲制作ができると思う』って。それがきっかけで彼女と出会い、一緒に曲を作るようになりました。今ではとても良い友人ですよ」
ソングライターとして、オリヴィアのすごいところはどんなところだと感じていますか?
「ドラマチックにパフォーマンスできるところだと思いますね。オリヴィアの音楽を聴けば、彼女の感情をそのまま感じられるというところです」
共作したオリヴィアの「good 4 u」で初となるグラミー賞でのノミネーションも獲得しました。
「あの時は、まさに夢が叶った瞬間でした。子どもの頃から、いつかはグラミー賞にノミネートされたいと思い続けていたので。特別な瞬間でしたし、オリヴィアや(プロデューサーの)ダン・ニグロと一緒にノミネートされたという事実が感慨深かったです」
オリヴィアやコナン・グレイなどのプロデュースを手掛けているダン・ニグロは、今の時代に欠かすことのできないプロデューサーの1人だと思います。ダンは『アフターショック』にもプロデューサーとして参加していますが、ご自身が感じる、プロデューサーとしてのダンの魅力を教えてください。
「まさにそうだと思います。彼は世界最高のプロデューサーですよ。僕の大親友でもありますし、ただ一緒に座って音楽に取り組んでいるだけで、音楽や人生について彼からは多くのことを学ぶことができます。僕にとっての兄のような存在でもありますね。(彼のすごいところは)スタジオで実験を試みることができるというところだと思います。彼はいかなるルールにも縛られていませんし、(楽曲について)すべてに納得ができるクオリティが整うまで待つという選択ができる人です」
自分が書く音楽は「“thoughtful(思慮深い)”な音楽」と捉えてほしい
あなたの音楽はそのエモーショナルな歌詞などから“sad(悲しい)”という言葉で紹介されることが多いと思うのですが、ご自身ではどのように捉えていますか?
「“サッド・ミュージック”という言葉が個人的に気に入っているかと言えばそれは分かりません。もちろん、悲しみについて歌っていることは多いのですが、どちらかというと、“thoughtful(思慮深い)”な音楽と捉えてもらえたら嬉しいです。実生活では、僕はずっと悲しんでいるというタイプではないので。自分としては必ずしも“サッド・ミュージック”というジャンル分けに納得しているわけではなくて、多くの曲で悲しみを歌ってはいるものの、その言葉にはちょっぴり複雑な思いがあるというのが正直なところです」
そんなご自身のキャラクターを3つの形容詞で紹介するとしたら、どんな言葉を選びますか?
「smart(賢い)で、stupid(馬鹿げている)で、happy(幸せ)ですね」
先ほど“サッド”ではないとおっしゃっていましたが、一方でご自身の音楽も含めて、以前共作もされたテイト・マクレーもそうですし、ビリー・アイリッシュやコナン・グレイなど、現在は“サッド・ミュージック”とされる音楽が一つのムーブメントになっているとも思います。このようなムーブメントについてはどのように感じていますか?
「確かに人気ですよね。それはすごくポジティブなことだと思います。シンガーたちがよりオープンになり、より無防備になって自分たちの感情と向き合えているということが分かるので。美しくてエモーショナルな楽曲が多くあるのは素晴らしいことだと思います」
個人的には、『アフターショック』の収録曲では、「君は僕を地獄に連れ出して週に一度戻ってきた/その間のどこかでどうにか天国を見つけた僕ら/だから安らかに眠れ 君と僕よ」という歌詞が歌われる「RIP You And Me」が特にお気に入りなのですが。
「それは嬉しいです! 僕は誰かからお気に入りの曲を教えてもらうのが大好きで。嬉しいです。ありがとうございます」
この曲にはチャーリー・プースがピアノで参加していますが、彼との共演はどのように実現したのですか?
「これはマイアミで書いた曲なのですが、元々は全編をピアノで書いていて。そんな時にスタジオでチャーリーに会う機会があって、彼にこの曲を聴いてもらったら気に入ってくれたので、『この曲でピアノを演奏してもらえない? もっと良い曲になるはずだから』ってお願いしたんです。ご存知の通り、彼は素晴らしいピアノ奏者でもあるので。彼は快諾してくれて、ピアノのところをすべて弾き直してくれました。結果として完成したこの曲には本当に満足しています。彼が仕上げをしてくれて、特にアウトロのパートはアルバム全体の雰囲気と見事にマッチしていると思います」
この「RIP You and Me」もそうですし、あなたは失恋ソングの名手だと思っていますが、やはり楽曲を作る上では失恋がインスピレーションになることが多いですか?
「たしかに多いですね。失恋は、“受容”や“衰弱”、“混乱”といった過程を伴うものだと思いますが、自分は1人のソングライターとして、自分の感情を整理するためのスペースや時間に関して、多くの人たちよりもキャパシティがあると自負しています。なので、できる限りの思いを表現することはある意味で自分の義務だと思っていますし、自分が明白に描写することで、他の人たちの助けにもなればと願っています。それから、名手と言ってくださって、ありがとうございます」
「歳を重ねていく道のりで一番辛いのは/愛する人の中には歳を取らなくなる人もいるってこと」と歌われる「The Hardest Part」は亡くなった友人を悼む楽曲ですが、この楽曲は実体験に基づいているのでしょうか?
「悲しいことに、実体験です。この楽曲を書くのは複雑でした。パーソナルな楽曲を書くのは好きなのですが、自分自身や、自分な感情の遥かに外側のことに着いて書く時には、注意して表現するようにしています。元々はリリースしないつもりで書いた楽曲だったのですが、その人の家族や友人たちに聴いてもらった時に、この曲で多くの人を救うことができるのではって思えたんです。最終的にリリースすることになりましたが、とても嬉しく思っています。多くの人から、楽曲に救われたという連絡をいただけて、リリースするに至りました。すごく温かい気持ちになれました」
『アフターショック』の収録曲はいずれもパーソナルなので曲なので選ぶのは難しいと思いますが、このアルバムのなかで最も書くのが難しかった曲はどの曲ですか?
「『The Hardest Part』だと思います。悲しい曲ですし、最期についての曲なので。楽曲を書くことで多くの場合、僕は感情を整理できるのですが、『The Hardest Part』は未だに歌うたびに胸が痛みます。今も向き合い続けている感情なので」
「自分が人生で経験したのと同じような真理」を発見できる歌詞
『アフターショック』の収録曲のなかで、特に気に入っている歌詞はありますか? 個人的には、「Cosplay」の「だって僕は君の中に彼女を見ているから そして君が僕の中に彼を見ているのも分かっている(Cuz I’m seeing her in you/And I know you’re seeing him in me)」という歌詞が大好きです。
「ありがとうございます! その歌詞は僕もお気に入りです! すごくいい質問ですね。『Somebody's Nobody』の『世の中にはどうしても変わらないことがある/そして人を変えてしまうこともある(Some things never change/And some things well they change you)』でしょうか。この歌詞はずっとお気に入りですね。それから、『Fall 2017 (What If?) 』の『ごめんね 連絡を絶っていて/傷つく時間が少し必要だったんだ(I'm sorry I/I fell off the face of the earth/I just needed a little bit of space to be hurt)』という歌詞もお気に入りです」
1人のリスナーとしては、どんな歌詞に最も魅力を感じますか?
「いい質問ですね。これは訊かれたことがありませんでした。自分で音楽を作る上で歌詞には重きを置いているのですが、こういうことはあまり考えてこなかったですね。個人的には、すごく具体的で、パーソナルな歌詞に惹かれると思います。その歌詞にそのまま共感できないとしても、自分が人生で経験したのと同じような真理を見つけることができて、似たような感情を抱けるような歌詞です。なので、具体的なものに惹かれますね。それから、クレバーな言葉遊びにも魅力を感じます。例えばケイシー・マスグレイヴスのような。彼女は言葉遊びが見事だと思います」
<リリース情報>
アレクサンダー23『アフターショック』
発売中
歌詞対訳解説付き / UICS-1389 / 2,750円(税込)
日本盤ボーナス・トラック収録/シリアルナンバー封入
試聴・購入はこちらから。https://umj.lnk.to/Alexander23_AftershockMB
(フロントロウ編集部)