実際の事件に対する「想像の応対」を描く『Women Talking』
2006年に『アウェイ・フロム・ハー君を想う』で鮮烈な監督デビューを果たしたサラ・ポーリーが、2012年の『物語る私たち』以降10年ぶりに監督としてカムバックした映画『Women Talking』は、宗教コミュニティ内で日々起こっているレイプの被害に遭った女性達が、ある事件をきっかけに小屋に集まり、話し、目覚めていく物語。
本作は実際にあった事件に影響を受けている。2009年にボリビアで、キリスト教の教派メノナイトの女性100名以上が数年にわたりレイプされていたことが発覚。2011年に詳細が明らかになり、女性達は動物用精神安定剤などを調合したスプレーをまかれ、被害は悪魔や幽霊のせいにされていた。また、女性達が被害を訴え始めた時、他のメノナイト達は「女性達のバカげた想像」だと批判した。
メノナイトは電気や自動車などを使わず、一般的な社会から離れたコミュニティを築いている。そのため、女性や子どもへの性暴力が問題になったり、女性が加害から逃げられたりする機会も少なく、この事件は宗教コミュニティにおける性暴力の深刻さに光を当てた。
『Women Talking』はミリアム・トウズによる同名小説を原作としており、作品は実際の事件に対する「想像された返答」だという。小説のあらすじは以下のとおり。
「読み書きが出来ず、自分達のコミュニティ以外の世界についての知識も一切なく、住んでいる国の言葉すら話せない8人の女性達が、自分や娘達が傷つけられる未来からどうやったら身を守れるのかと決断するために草小屋に隠れて集まる。彼女達には2日間ある。コミュニティの男達が、レイプ犯(幽霊ではなく住民の男だったのだ)の保釈金を払うための金稼ぎに街へ出て行き、そして犯人達を連れ帰ってくるまでの間に。私たちはどう生きるべきか?どう愛すべきか?どうお互いを扱うべきか?どう自分たちの社会を形作るべきか?それが『Women Talking』の女性たちが互いに話し合う問いであり、ミリアム・トウズはその問いかけを私達自身にすべきだとしている」
サラ・ポーリーが監督として復活
映画『死ぬまでにしたい10のこと』や『あなたになら言える秘密のこと』で有名な俳優でもあるサラだが、監督として才能があることは、『アウェイ・フロム・ハー君を想う』や『物語る私たち』で証明されている。そんな彼女の久しぶりの作品は12月2日に全米公開予定だが、すでにトロント国際映画祭で鑑賞した批評家からは絶賛の声があがっている。
米Colliderは、「監督業から10年離れた後に、ポリーは彼女史上最高かもしれない映画とともに帰ってきた。女性の人権に対する印象的で力強い視点、私達が真実を避けるために語る物語、そして正しい選択をすることの難しさ」と評し、A-のランクをつけた。
本作で注目なのは、その俳優陣。“話すこと”が非常に重要な要素となる本作でメインキャラクターを演じるのは、映画『ドラゴン・タトゥーの女』や『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』のルーニー・マーラ、映画『MEN 同じ顔の男たち』やドラマ『チェルノブイリ』のジェシー・バックリー、ドラマ『ザ・クラウン』のクレア・フォイ、映画『007』のベン・ウィショー、『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンド、映画『父親たちの星条旗』のジュディス・アイヴィー、ドラマ『アンブレラ・アカデミー』のシーラ・マッカーシーなど。
そして映像の完成度も高く評価されており、米Varietyは、「紳士淑女の皆さん。あなたたちは新しい国家の誕生を目撃しています。ここにいるのは、新しく、進化した家母長制を創設した女性達です。ここではすべての人が平等で、信仰は許され、女性達は考えることを奨励されています。そのような独立の宣言が草小屋の中に閉じ込められるのは不条理だが、それでもなおポリーと撮影監督のリュック・モンテペリエは想像できるかぎり最高の画質とワイドスクリーンフォーマットで撮影した」と絶賛した。
日本公開は未定だが、ぜひ見られることになってほしい。
(フロントロウ編集部)