アラン・リックマン、大人としての姿勢
10年をかけて主人公ハリーの成長や魔法の世界を描いた映画『ハリー・ポッター』シリーズは、元子役のダニエル・ラドクリフやエマ・ワトソン、ルパート・グリントを一躍スターにし、マギー・スミスやレイフ・ファインズ、フィオナ・ショウといったイギリスが誇る俳優たちが脇を固めた。
大人である俳優やスタッフたちは、撮影現場では子どもたちの親的な存在でもあった。ドラコ親子を演じたマルフォイ役のトム・フェルトンと、ルシウス役のジェイソン・アイザックスは、現実でも親子のような関係を築いていることで有名。
そしてアラン・リックマンも、リアルスネイプ先生かとでもいうように、子役たちに厳しくしながらも愛情を持って接していた。例えば、撮影中でありながらトムに「俺のマントを踏むな」と強い口調で指示したり、ルパートとネビル役のマシュー・ルイスに、自身の愛車のBMWに近づくなと禁止令を出していた一方で、ルパートが描いた“可愛くないアランの落書き”を気に入って家に持ち帰ったり、ルパートとマシューを車に載せたりしていたという。
トムはアランと初めて会ってから、「こんにちは」以外のことを言えるようになるまで数年がかかったそうで、彼がアランに対して緊張していたことが分かる。しかし子役である彼のために、アランはあることをしてくれたという。
トムが、自伝『Beyond the Wand(原題)』で綴ったところによると、アランは子役のためにも、大人の俳優たちが使っているのと同じ種類のディレクターズチェアを用意するように指示してくれたのだそう。
「それは小さなことでした。でも、その優しさの瞬間を忘れることはありません。アランは子役も先輩たちと平等に扱われてほしいと思っていました。彼がそれをする必要はなかった。でも彼がそうしたという事実は、彼がどのような人物だったかを語っています」
メインキャラクターを演じているのは子役たちとはいえ、多くは『ハリー・ポッター』でデビューしたため、それまでのキャリアはない。子どもだから大人ほど良いものでなくても良いと考えられていたのか、子役には大人が使っているものとは違う椅子が用意されていたのだろう。
しかし、年齢に関係なく同じものを用意するようにと指示したアランの行動からは、子どもたちにも敬意を払っていることが感じ取れる。2016年に69歳という若さで亡くなったアランについては、共演者がたびたび思い出を語ってきたが、そこには、人々に敬意を払い、そして払われた彼の日々があった。
(フロントロウ編集部)