MeToo運動が起こるきっかけとなったジャーナリストたちの闘いを描いた映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を見ても社会の構造的性差別が理解できないのなら、その人は一生それを理解することはないだろう。(フロントロウ編集部)

女性が「連帯できない」のは何故か

 世界中で“女性たちが連帯”し、性暴力や女性差別に大きく反旗を翻したMeToo運動。今も続くその流れは、ハリウッドの超大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたって数えきれないほどの女性に対して続けていた性暴力を、ニューヨーク・タイムズ紙の記者であるミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが2017年に報じたことで始まった。

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 MeToo映画と聞けば、女性の連帯が描かれると予想した人が多いかもしれない。しかし本作は、女性がどれだけ“連帯できない”かを描く。

 ミーガンとジョディは、何人もの被害者に会ってきた。そのなかには、正義が自分をやっと見つけてくれたと泣く女性もいた。でも、多くの女性たちは2人に協力できなかった。なぜなら、ハーヴェイ側が女性たちに、被害を告発できないように法的文書を結ばせていたから。また、権力者は他の権力者と繋がっている。告発したら自分の生活がどうなるのかも分からない。

 そして、ハーヴェイの弁護士として当初、性暴力や性差別被害者のために活動してきたことで有名なリサ・ブルームが雇われたことにも衝撃が走った。ミーガンとジョディは、リサが以前からハーヴェイと付き合いがあり、彼に性暴力疑惑から逃れる方法についてアドバイスしていたことも報じた。ハーヴェイのスタジオがリサによる著作の映像化の権利を獲得していたことで、彼女はハーヴェイの弁護を引き受けることになったと見られている。リサは、ハーヴェイは政治家や人権活動家とも仲良くしていたため、人望を疑わなかったと話した。最終的にリサはハーヴェイの弁護から降りたが、リサの母親であり、女性の人権のために闘ってきた大物弁護士グロリア・オルレッドも娘の判断を批判している。

 女性であっても倫理観を持たない人というのは、もちろんいる。そしてさらに、そこに男性社会という枠組みや、権力を持つ男性たちからの介入・妨害があると、女性たちが散り散りにされて連帯できない、時には対立するという構造がどれだけ確固たるものになってしまうのかが分かる。

性暴力は人生を壊す

 被害に遭わないようにハーヴェイからの性的要求を拒否した女性は、ハーヴェイの根回しによって仕事を失った。被害によって仕事に行けなくなった女性も、仕事を失った。社会には、性暴力が原因の精神的被害によって仕事ができない女性もいる。トラウマによってフルタイムで働けない女性もいる。

 性暴力によって負った精神的な傷は、ある程度の期間が過ぎれば治るものだと思っている人は残念ながら多い。しかし精神的な傷というのは何十年と癒えないことが多い。また、傷が癒えたとしても、仕事を失ったことや仕事ができない業界があるといった状況は変わらない。

画像: 性暴力は人生を壊す

 社会構造的にも、法的にも、この社会は性暴力被害者に厳しく、性暴力加害者には甘い。声を上げるのがここまで難しいなかで、声をあげたら売名だと誹謗中傷することが、どれだけ厚かましいことか。本作は、見ているととても苦しい。女性たちは女性であるだけで被害に遭い、連帯したくとも男性社会では非常に難しく、バラバラにさせられる。この映画を見てもなお、“女の敵は女”という差別的発言を続ける人がいるなら、その人が社会問題を理解することはないだろう。

自分の母親も性暴力被害者かもしれない

 筆者は本作を鑑賞した時、劇場にいた50代から60代と思われる女性が泣いていたことが心に刺さった。最近では、以前よりはフェミニズムについて話せる環境がある。でも、昔はそうではなかった。あの女性は、この作品のどの女性に共感し、どの立場を思って涙したのだろう。

 自分や女友達が経験してきた女性差別や性暴力はすぐに想像できる。でも、自分の母親がレイプの被害者である可能性を考えたことがある人は、少ないのではないだろうか。きっと、私の母親は深刻な性暴力の経験があっても、私にその被害を話さない。そして多くの母親が、きっとそうするだろう。

画像1: 自分の母親も性暴力被害者かもしれない

 そのことに気がついた時、鳥肌が立った。女性への性暴力は人類史と同じだけ、つまり数千年続いてきた。ならば当然、自分の母親や祖母やおばなどがなんらかの性暴力を受けている可能性は高い。ハーヴェイからの性暴力を隠し、子どもたちを育てていた彼女のように。どれだけ多くの女性が被害を受けて、そして口を塞がれてきたのだろう。

 みんな、昔はあの少女たちだったのだ。夢を追い、希望に溢れていた。そんな少女たちが引き裂かれた理由はただ1つ。女性だったから。それだけで人生が壊される可能性がある。

 しかし、ミーガンやジョディ、そしてハーヴェイを告発した女性たちは世界を変えた。これからは、少なくとも連帯できる世界になっていってくれることを願わざるにはいられない。

画像2: 自分の母親も性暴力被害者かもしれない

(フロントロウ編集部)

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