テニス界の権威ある大会として知られるマドリード・オープン。国際的なプロテニスプレイヤーが活躍するこの大会が今、性差別問題で揺れている。一体何があったのか。(フロントロウ編集部)

権威あるテニスの大会でボールガールがミニスカで登場

 スペインの首都マドリードで毎年行われるテニスの大会、マドリード・オープン。2023年はカルロス・アルカラスとアリーナ・サバレンカが男女シングルス優勝を果たして閉幕した。ところが、トーナメント中に起こった多くの性差別的な事件が論争を呼んでいる。

 その一つがボールガールの服装。男子メインコートでは女性のボールクルー全員が短いスカートと黒のピッタリとしたへそ出しトップスを着ていた。テレビ視聴者がメインコートよりも少ない外のコートではより露出の少ない服装だったことから、テレビ放送向けの判断ではないかと、テレビで観戦していたファンなどから苦情が相次ぎ、主催者は服装を変更。決勝戦にはミニスカートが膝丈のパンツに交換された。

画像: 権威あるテニスの大会でボールガールがミニスカで登場

 プロスポーツ女性協会の広報であるピラール・カルボ氏は、「男性はこのような服装をしていないなか、女性は“女性化”されようとする」と、スペインのメディアPúblicoで指摘する。「結局のところ、これは性差別的暴力の一種であり、気づく人がいないために蔓延してしまっている」。

優勝者の男女に与えられた誕生日ケーキの大きさ問題

 物議の2つ目は、誕生日ケーキだった。偶然にもシングルスで優勝を果たした男女が5月5日に誕生日を迎えたことから、大会関係者から2人に誕生日ケーキが贈られたのだが、問題なのはその大きさ。

 男子シングル優勝者のカルロス・アルカラスは3段重ねの大きなケーキを受け取って大々的にコートで祝われた一方、女子シングルの優勝者アリーナ・サバレンカには一般的なケーキが贈られた。

画像: ©Victoria Azarenka/Twitter

©Victoria Azarenka/Twitter

 誕生日ケーキの大きさの違いを示す2枚の写真をファンがTwitterに投稿。アザレンカはこのツイートを引用し、「実際の扱いを正確に表している」と、男女選手に異なる扱いをする大会主催者を批判した。

 すると、トーナメントディレクターを務めるフェリシアーノ・ロペス氏は、アザレンカの反応に「驚いた」とツイッターで反論。ケーキの大きさが違う理由については、アルカラスがセンターコートでプレーしたいたほか、彼が地元スペインの選手であることを挙げて、性差別を否定。加えて、男子選手のホルガー・ルーネも大会序盤に一段のケーキを受け取ったことに触れ、「ルーネも我々の扱いに怒っていないといいのですが」と、舌をペロリと出した絵文字と共にツイートした。ちなみに、アルカラスとサバレンカは優勝選手で、ルーネは準々決勝を前にサードラウンドで敗退した選手。

女子ダブルスの選手のスピーチが中止

 物議はまだ続く。マドリード・オープンの女子ダブルス決勝後、優勝したビクトリア・アザレンカとベアトリス・ハッダッド・マイア、準優勝となったジェシカ ペグラとコリ・ガウフ全員にスピーチの時間が与えられず、米選手のガウフは「今日は決勝戦後に話す機会がなかった」とツイート。スピーチの代わりとして、ツイッターでファン、チーム、大会スタッフらに感謝を述べた。

 本大会では、男子選手にはスピーチの時間が与えられていたという。

画像: 女子ダブルスの選手のスピーチが中止

 大会後、米選手のペグラは取材陣に、「トロフィー・セレモニーの時に、スピーチが出来ないと伝えられて非常に残念な気持ちになりました」「発言させてもらえないなんて聞いたことがない。失望しています」と語り、「彼らは何世紀の考えで、この決断をしたのか理解ができません」と主催団体を批判した。

 マドリード・オープンのCEO兼トーナメント主催者のジェラルド・ツォバニアン氏は声明で、「マドリード・オープントーナメントに期待を抱いているすべての選手とファンに心よりお詫び申し上げます」とコメント。スピーチがカットされたことは容認できないとし、ファイナリストの4人に直接謝罪したという。

 今回挙げた3つの騒動は、すべてメインコートに関連して起きたこと。そのため、大会主催者がテレビ放送での“映え”や時間を優先した結果だった可能性が考えられる。こういう場合、“差別の意図があったわけではない”として性差別が否定されやすいが、差別の多くは無意識・無自覚にしてしまっていることが多く、意図がなかったから性差別がなかったことにはならない。

 スピーチがカットされたのが男子ではなく女子だったのはなぜか? 女子テニス世界2位のアリナ・サバレンカが男子のノバク・ジョコビッチだったら同じケーキを渡していたか? 女子テニスでは、レポーターや関係者からの軽視をはじめ、男子との扱いの差がたびたび問題になる。“考えすぎだ”と切り捨てるのは簡単だが、本当にテニスの繁栄を求めるならば、それを支えるテニス選手たちから挙がり続けている声に向き合うべきではないだろうか。(フロントロウ編集部)

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