アメリカでLGBTQ+や人種に関する本が保守派によって図書館から撤去されている禁書運動。イリノイ州では、J・B・プリツカー知事が全米で初めて禁書運動を禁止する法律を制定。その記者会見で知事が力強い訴えを行なった。

7割の保護者が反対するブックバン(禁書運動)とは

 アメリカにおいて、保守政党である共和党が多数派を持つ州で頻発しているブックバン(禁書運動)。公共の図書館から“不適切”とする内容の本を撤去するこの行為のターゲットになっているのは、性的な内容や汚いとされる言葉が出てくる本のほか、性的指向やジェンダーに関連した本や、アメリカの人種差別の歴史に触れた本なども含まれている。

 アメリカ図書館協会(ALA)が2022年に実施した調査では、民主党・共和党支持に関係なく7割の親がブックバンに反対しているにもかかわらず、2022-2023学年度上半期には前期から28%増となる1,477冊の本が禁書扱いとなり、調査したPEN Americaは「禁書の動きは、検閲を要求する声の大きな少数派によって引き起こされています」とした。

【スピーチ訳】イリノイ州知事が禁書運動に“禁止”に

 そんななか6月、イリノイ州がアメリカの州として初めて、ブックバンをバン、つまり禁書運動を禁止する法律を制定した。2019年に知事に就任して現在二期目になるJ・B・プリツカー知事は法律制定の記者会見でこう語った。

画像: イリノイ州のJ・B・プリツカー知事。写真は2018年より。

イリノイ州のJ・B・プリツカー知事。写真は2018年より。

「2022年、ここイリノイ州では67冊の本を禁止しようとする動きがありました。青春やメンタルヘルスに関する本、LGBTQの子どもや10代の若者に関する本、黒人の経験や人種差別に関する本。『カイト・ランナー』や『アラバマ物語』のような有名な名作。

このような動きは歴史上初めてのことではありません。アメリカでは、チャールズ・ダーウィンやマーク・トウェイン、J.D.サリンジャーといった作家の作品に対して抗議が起こる時代もありました。本を禁止する側はいつも、子どもたちを守るためだ主張します。もちろん、私たち全員が子どもたちを守りたいと思っています。だからこそ彼らには、年齢に適した本が与えられるのです。禁書はナチス・ドイツやイタリアのファシスト党、アフガニスタンのタリバンのような独裁政権が行なうものです。民主主義国家が行なうものではない。私たちは、白人ナショナリズムの辛辣な圧力が、誰の歴史が語られるべきかを決めることを拒否します。

イリノイ州では許しません。ここはリンカーンの地であり、黒人初の大統領の出身地である。イリノイ州は、奴隷制を廃止する修正第13条を全米で最初に批准した州である。女性に選挙権を保障する修正第19条を批准した最初の州でもある。そしてこれから、イリノイ州は全米で初めて公的に禁書を禁止する州になります。

イリノイ州は真実から隠れません。真実を歓迎します。すべての真実を。私は2人の子どもの父親であり、誇り高きアメリカ人でもある。私たちの国には偉大な遺産があり、誇るべきものがたくさんあります。そして私は、子どもたちに私たちの真の歴史を、魅力的ではない部分も含めて学んでほしいのです。イリノイの若者たちが世界の現実を学ばないようにするべきではありません。子どもたちには、クリティカル・シンカー(※さまざまな角度から客観的・論理的に物事を考えるひとのこと)になり、同意しない意見にも触れ、我が国が克服してきたことを誇りに思い、未来について思慮深い人になってもらいたいと思います。

イリノイ州のすべての民は、彼らが読む本、見る芸術、学ぶ歴史に自分自身が反映されているのを見る資格がある。LGBTQの著者が書いた本を禁止しておいて、メディアにファクトチェックされると検閲だと主張する偽善的な知事たちもいます。ここイリノイ州では、自由のために立ち上がるということがどういうことなのかを全米に示します。そのくらい単純なことなのです。

イリノイ州民の皆さんには、自分とは異なる経験について本を読み、自分が同意しない意見や自分の考えに挑戦してくる考えに触れることを奨励します。もしかしたら、いつの日かあなた自身がペンを取り、自分自身の本物の物語を書く日が来るかもしれない。きっとその本は、ここイリノイ州の図書館の本棚で見つけることができるでしょう」

 この法律の制定後、イリノイ州では本を禁止した学校や図書館は州からの資金を失う可能性がある。

This article is a sponsored article by
''.