『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』1冊のチェス本でナチスと闘った男
『帰ってきたヒトラー』(15)でヒトラー役を演じたオリヴァー・マスッチが主演を務め、木村拓哉が出演し話題になった海外ドラマ『THE SWARM』(23)のフィリップ・シュテルツェル監督の最新作『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』が7月21日(金)よりシネマート新宿他全国順次公開する。
本作の原案は、世界的ベストセラーにもなった文豪シュテファン・ツヴァイクの傑作小説『チェスの話』。ナチス占領下のオーストリアを舞台に、ヒトラーの命令でホテルに監禁された男が、1冊のチェス本を武器にナチスとの心理戦に挑む驚愕のサスペンス映画。
主人公のヨーゼフ(オリヴァー・マスッチ)は、久しぶりに再会した妻アンナ(ビルギット・ミニヒマイアー)とロッテルダム港を出発してアメリカへと向かう豪華客船に乗り込む。かつてウィーンで公証人を務めていたヨーゼフは、ヒトラー率いるドイツがオーストリアを併合した時にナチスに連行され、彼が管理する貴族の莫大な資産の預金番号を教えろと迫られた。それを拒絶したヨーゼフは、ホテルに監禁されるという過去を抱えていた。一方、船内ではチェスの大会が開かれ、世界王者が船の乗客全員と戦っていた。船のオーナーにアドバイスを与え、引き分けまで持ち込んだヨーゼフは、彼から王者との一騎打ちを依頼される。ヨーゼフがチェスに強いのには悲しい理由があった。王者との白熱の試合の行方と共に、衝撃の真実が明かされる。
注目のドイツ人俳優、アルブレヒト・シュッヘが「恐ろしい」と言う役を語る【オフィシャルインタビュー】
本作で、主人公と敵対する重要な役を演じるのは、今注目のドイツ人俳優アルブレヒト・シュッヘ。1985年生まれの37歳であるシュッヘは、ライプツィヒ音楽劇場で演技を学び、2011年の『Westwind』で映画デビュー。95回アカデミー賞Ⓡで計9部門にノミネートされた『西部戦線異状なし』(22)では、古参兵カチンスキー役を好演。ドイツ映画賞最優秀助演男優賞のほか、英国アカデミー賞(BAFTA)助演男優賞にもノミネートされた、今最もその演技力に注目が集まるドイツ人俳優のひとり。
インタビューでは、まず本作の原案であるツヴァイクの傑作小説『チェスの話』が話題にあがった。その魅力について聞かれると、「この物語には多くのことが詰まっていると同時に、どこかおとぎ話めいている」と答え、「視覚が鋭い人が読むと、映画を見ているような感覚を抱くだろうね」と原作への愛を簡潔に語った。
次に、自身が演じたゲシュタポのフランツ=ヨーゼフ・ベームについて聞かれると、「このキャラクターはフランツ=ヨーゼフ・フーバーがモデルなんだ。オーストリアの国家社会主義の中心人物だよ」と驚きの事実を明かした。
フランツ=ヨーゼフ・フーバーは、ナチス・ドイツの親衛隊(SS)の将軍だった人物。ユダヤ人移送中央事務所の監督を務めたこともある。そんなフーバーをモデルにした役について、「彼はとても短い期間で名を上げ、ウィーン市警のトップに躍り出た人物なんだけど、彼は道徳観やキリスト教の価値観を理解せず、夜な夜な祝杯をあげるような男だった。ただ、仕事を楽しんでいたんだ。僕はそれが何よりも恐ろしい。彼は完全に“正常な”人間だったという事実がね」と語った。
実は本作でシュッヘが演じたキャラクターはもう一人いる。つまり、今回、彼は一人二役に挑戦している。その点について、「この二人のキャラクターを同じ俳優が演じたら、この物語は実に筋が通ると僕たちは考えたんだ。二人は対照的なキャラクターで、まったく異なる身体性を持つ別人だけど、その二人が最後には一つになる瞬間がある。僕はそこが気に入ったんだ」と、本作の核心にも触れつつ、その意図について説明した。
最後に、『チェスの話』と現代との関連性について問われると、「関連がある」と答え、その理由について「この映画を通じて、国家社会主義の“白い拷問”という言葉を意識するようになったんだ。それまでは、この用語を本当の意味で理解していなかった。人は誰しも、どこかで犯罪に手を染めている可能性がある。でも、白紙のように“白い”ままでいようとする。何も関係ないふりをしても、実際には糸を引いて、全責任を負っているんだよ」と語った。
スリルに満ちた展開から目を離せない、観る者の心をかき乱すヒューマン・サスペンス。文豪ツヴァイク最期の傑作『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は7月21日(金)よりシネマート新宿他全国順次ロードショー。