『スカーレット』でピンク&キラキラ期を卒業したドージャ・キャット
ドージャ・キャットが、グラミー賞の年間最優秀アルバム賞にもノミネートされた2021年リリースの前作『プラネット・ハー』以来、2年ぶりとなるニューアルバム『スカーレット』をリリースした。

日本語で、濃い赤色である緋色を意味するタイトルがつけられた『スカーレット』は端的に言えば、いずれも全米1位を獲得した「Say So」(2ndアルバム『ホット・ピンク』収録)や「Kiss Me More」(3rdアルバム『プラネット・ハー』収録)に象徴されるようにメインストリームでも大きな成功を収めたドージャが、そうした“万人受け”するようなサウンドからは離れることを目指して、とにかく自分がやりたい音楽を追求した作品。
ピンク→スカーレットへ!ドージャのイメチェンをおさらい
ドージャは『スカーレット』のリリースに先立って行なったインタビューで、「これまでピンクでソフトなものをたくさんやってきた。ポップで、キラキラしたサウンドのものをね」とVarietyに語っている。
ここで言う「ピンクでソフトなもの」とは、ドージャが『ホット・ピンク』や『プラネット・ハー』でやってきた音楽を指しているのだが、同じインタビューでドージャは、「けど、この次の新時代においては、よりマスキュリンな方向に舵を切るつもり」ともコメント。
X(旧ツイッター)にも「『ホット・ピンク』と『プラネット・ハー』は金儲けのための作品で、みんなはそれに騙されたわけ。みんなが平凡なポップを求めて泣いているあいだに、私はどこかへ消えて愛する人たちと現実に触れることにするよ」と投稿して、そうした作風とは完全に決別することを宣言した。
『ホット・ピンク』&『プラネット・ハー』期から『スカーレット』期への移行期間を通して、ドージャのヴィジュアルにも変化が。現代のショービズ界を代表するファッションアイコンの1人として、ファッション界でも常に注目を集めてきたドージャだったが、移行期間の中でバズカットにして頭部をスッキリさせたほか、眉毛も全部剃るというイメチェンを行なった。
イメチェン後にもファッション面で多くの話題をさらったドージャだが、世間を特に騒然とさせたのが、2023年1月にパリで開催されたスキャパレリ(Schiaparelli)のオートクチュールコレクションに参加したときの“全身真っ赤”ルック。今になって見ると、“スカーレット=緋色”期に移行する予兆とも捉えられるこのルックは、集合体恐怖症の人は閲覧注意レベルのショッキングさも手伝って、それまでのキラふわピンクなドージャのイメージを上書きすることとなった。

歌詞と共に『スカーレット』を紐解く!絶対に抑えておくべき6曲
「Paint The Town Red」
私には関係ない 街を真っ赤に染めてやる
『スカーレット』は、スキャパレリのコレクションで披露した全身真っ赤ルックへの言及とも取れるような、全部赤で上書きしてやると言わんばかりの、直訳すると「街を真っ赤に染めてやる」(※)というタイトルがついた「Paint The Town Red」から幕を開ける。ピンク路線からスカーレット路線への変更に触れた、「イメチェンして新しい自分になったっていい」という歌詞も登場するこの曲で、「私にはボウズ頭の方が似合ってる」「ウィッグをつけてまで好かれる必要もない」と、誰の意見にも左右されることなく自分を貫くという、ドージャ節を炸裂させている。
※英語で“Paint The Town Red”はイディオムとして「街に繰り出してわいわい楽しむ」という意味でも使われる言葉で、ミュージックビデオではドージャが外の世界へと繰り出そうとするシーンも描かれている。
ドージャはさらに、前2作に寄せられた“金儲けのためにポップ路線へ行った”というアンチコメントに「ポップ音楽はお金になるんだって ならやってみなよ」と挑発的に反論しながら、「私には大物とのコラボも別の仲間も必要ない」と、誰の力を借りなくても成功できると宣言。その歌詞を証明するように、「Paint The Town Red」は全米シングルチャートの1位にランクイン。ドージャにとって、フィーチャリングのいない楽曲で1位を獲得するのはこれが初めてで、どんな路線を歩もうと、その根底には確かな実力があることを証明してみせた。
ポップ音楽はお金になるんだって ならやってみなよ
イメチェンして新しい自分になったっていい
私には大物とのコラボも別の仲間も必要ない
カレのことをいうなら私のファンにならなくてもいい
ウィッグをつけてまで好かれる必要もない
私は2度ヒットを飛ばした 私の勝ちだってわからない?
「Paint The Town Red」歌詞抜粋
「Attention」
愛情はいらない ただ注目してほしいだけ
『スカーレット』から最初にリリースされたシングルは、ポップ(ピンク期)からラップ(スカーレット期)への移行を象徴するような、ラップが主体となった「Attention」だった。この曲で歌われているのは、自身のイメチェンに対してファンから寄せられた「『D、超ショックだよ』とか」そういう類の意見への反論。
ドージャは「なんだかあんたたちガッカリしてるみたいね」「いい感じ でも今はボールドヘッドの方が似合ってる…いい感じ でも今はみんなに『醜い』って言われる」と、現在の自身に寄せられる否定的な意見に触れながら、「ねえ、あんたに抱かれなくても悲しくないの」と、そうした意見は気にしないとラップする。
(愛してよ) 愛がほしくて探し求めてる
(ステキね) たまらない とにかくこっちを見て
(たまらない) 愛がほしくて探し求めてる
(ベイビー) たまらない とにかく
「Attention」歌詞抜粋
フォロワー150万人減!ファンとのビーフを振り返る
「Attention」を聴く上で頭に入れておきたいのが、ドージャがファンとビーフ(口論)になったことをきっかけに、現在までにインスタグラムで約150万人ものフォロワーを失うことになった一件。

一連の騒動の前には2,590万人以上のフォロワーをインスタグラムで抱えていたドージャ。日本時間10月25日現在の時点では2,440万人にまで減少している。
きっかけとなったのは、ドージャがファンのことを「愛してない」と発言したSNSへの投稿。それに対してファンから送られた「私たちは良い時も悪い時もあなたを応援してきた」というリプライに、ドージャが「誰もそんなことあなたに強制していないし」と応じたことで、事態はさらに悪化することとなり、「携帯を置いて仕事に就いて、家でご両親のお手伝いをしたほうがいいよ」と続けてドージャがファンを煽ったことで、急速に“ファン離れ”が進むこととなった。
その後、ドージャはインスタグラムストーリーズに「本当に大切で、過去の私ではなく今の私のことを愛してくれる人たちと改めて繋がれたような気がしている」と投稿して、むしろ、ありのままの自分を愛してくれるファンが残ってくれたことに感謝しているとした。

一方で、「愛情はいらない ただ注目してほしいだけ」と、愛情をくれなくていいから注目さえしてくれればいいと歌う「Attention」では、「悪い話題って実際良くない?」ともラップしているドージャ。彼女にとっては、物議をかもすような発言も、あくまで話題作りの一環として捉えているのかもしれない。事実、『スカーレット』のポップアップイベントに出席した際には、集まったファンに投げキッスを何度も送って、ファンへの愛情を伝えていた。
doja cat showing love to her fans at the scarlet pop up event�️� pic.twitter.com/r6nCXVdF3Z
— ꩜ (@lmlynasty) September 22, 2023
また、ドージャの中で既にファンとのビーフはネタになっているようで、彼女は『スカーレット』期のグッズとして、「RECOVERING DOJA CAT FAN(回復中のドージャ・キャット ファン)」と描かれたアパレルを発売。ファンの間でも大好評で、すぐにソールドアウトした。

「Demons」
邪悪な私はどう?
「Paint The Town Red」の「私は魔王(I'm a demon lord)」という歌詞から、「F* *K The Girls (FTG)」の「666って叫んでやる(I’m yelling 6-6-6)」という歌詞、「Skull And Bones」の「『悪魔がどうのこうの』って騒いでるけど(Y’all been pushing “Satan this” and “Satan that”)」という歌詞に至るまで、『スカーレット』に何度も登場するのが悪魔的なモチーフ。
これは、以前、ドージャについて“悪魔崇拝者”なのではないかという噂が立ったことを逆手に取ったものと見られていて、『アダムス・ファミリー』などで知られるクリスティーナ・リッチが出演するミュージックビデオにも注目してほしい楽曲「Demons」を筆頭に、ドージャはこのアルバムで何度も自身を悪魔になぞらえ、その才能や収めた成功の大きさから、自分は人々に恐れ慄かれる存在だと誇らしげにラップしている。
邪悪な私はどう?
ポケットはカネでいっぱい
邪悪な私はどう?
あんたら震え上がってるの?
ほら邪悪な私はどう?
「Demons」歌詞抜粋
「Skull And Bones」
27までは生きてやる、疑ってるみたいね
ファンに喧嘩を売ったり、自身を「悪魔」になぞらえたりと、強気な姿勢を貫き続けるドージャだが、一方で、『スカーレット』では弱い部分も見せている。そもそも、二匹の蜘蛛を描いたアートワークについて、ドージャは「二匹の蜘蛛は、恐怖に打ち勝つことを意味している。アンタらに受け入れてもらえないということが、かつては私にとっての恐怖だったの。もう、アンタらを満足させることなんて気にしない」とXで説明しており、本作がかつて抱いていた恐怖を克服したことについての作品であることを示唆している。
そんなドージャがかつて抱いていた弱さを晒して、それを克服したことについてラップしている楽曲の1つが、「アタシが屈した唯一の相手、それはプレッシャー」とラップする「Skull And Bones」。ドージャはアルバムの中で最もメロウな楽曲とも言えるこの曲で、ここまで辿り着いた自分の強さを自分で肯定しながら、アーティストとしての確固たる魂を持っていることを宣言している。
キャットが神様に選ばれて、チャート上位で世界制覇したら
アンタらは相当腹を立てるんだろうね
そう自分に言い聞かせてりゃいい、全てはアタシのタトゥにある
ヤツらの顔を真っ青にしてやる
私はタンク満タン
誰に言われても退かないよ
「Skull And Bones」歌詞抜粋
「Agora Hills」
アナタのこと見せびらかしたいの
では、ドージャが普段、プライベートで自分の弱みを晒け出せる相手は誰か? 「Agora Hills」で「アナタのこと見せびらかしたいの/自慢したいのよ/結婚したい」と堂々と惚気ている、現在のパートナーは間違いなくその1人だろう。「Say So」や「Kiss Me More」でドージャに魅了されたファンにはぜひオススメしたいキュートなこの曲には、「じゃ9時半ね? あとでね/アナタから電話切ってよ/先に切ってってば」という、カップルらしいやりとりも挿入されている。
この曲で表現されているのは、交際中の自慢のパートナーをみんなに見せびらかして、みんなにも認めてもらいたいという思い。「アナタこそがアタシの唯一の男」と愛を囁きながら、「スペースが必要な時は 尊重してくれる/アタシを傷つけた時は ビーチの長い散歩で癒やしてくれる」と、ボーイフレンドがいかに完璧な存在かをラップしている。
手をつないで
見てよ
そういうことよ、ボーイ
「Agora Hills」歌詞抜粋
ドージャの現在のパートナーって?
ドージャはこれまで公に交際を認めた相手はいないものの、ライブストリーミングプラットフォームのTwitchでストリーマーとして人気を博しているJ・サイラスと交際していると報じられている。ドージャとJは2022年11月にニューヨークで初めて一緒にいるところを目撃されて以来、仲睦まじくしているところがたびたび激写されており、2023年6月にはメキシコでヨットに乗りながらキスをしている写真も報じられた。

ドージャは『スカーレット』に収録した「Can't Wait」でも、現在のボーイフレンドとの順調な交際についてラップ。「アナタについてもう一言/ベイビー、色々言いたくてたまらないの」と、ラブソングが1曲だけでは物足りないとラップしながら、「アナタみたいにわかってる男に会ったことがない/めちゃ貴重」「これが永遠に続きますように/最低でも二人が100歳になるまで」と、永遠の愛を誓っているので、Jとの交際は順調なよう。
「Love Life」
こんな感じの人生が最高
ファンと口論になってフォロワーを失っても、とてつもないプレッシャーに悩まされても、自分流を貫いてきたドージャ。だからこそ、それでチャートも制して、好きな服を着て、最高のパートナーもいて、ツアーに出ればファンが大勢集まる、そんな今の人生が最高だと「Love Life」で歌っている。
人生への賛歌となっているこの曲で、ドージャは「ファンの愛が変わる時が好き/そうやってゲームを変えてくの」と、イメチェンを経てもありのままの自分を好きでい続けてくれるファンに感謝したり、「チームの結束が固いと最高」とチームに感謝したりしながら、「ダイヤはキラキラ輝いてて 服もフレッシュな香り」「オッパイもツンと上向きだし」「自分のウエストがきゅっと締まってて お尻が大きく見える時が最高」と、今の人生は何もかもが最高だとラップしてる。
とにかく愛してくれてるでしょ
メーン、皆のことが超大好き
人生がこんな感じの時が最高
「Love Life」歌詞抜粋
ファンを「愛してない」と発言したり、「『ホット・ピンク』と『プラネット・ハー』は金儲けのための作品」と発言したり、髪の毛も眉毛も剃った上で“全身真っ赤”ルックで登場したりと、何かと世間を騒がせてきたドージャだが、その根底にあるのは、“自分は自分!”という強い意志と姿勢。
「Paint The Town Red」で全米シングルチャートの1位も獲得した『スカーレット』でドージャが証明したのは、ありのままの“ドージャ・キャット”がいかに愛されているかということと、その実力の大きさ。けれど、「Skull And Bones」で歌われているように、その成功はドージャが苦労せずして手に入れたものでは決してない。『スカーレット』で歌われているのは、お騒がせで強気なドージャの言動から、その姿勢を手に入れるまでの苦労、そして、それを支えてくれた人たちへの愛まで、ドージャを構成するすべて。ドージャにとってのここまでの集大成のような作品でもありながら、“ドージャ・キャットとは本当はどんな人か?”を垣間見ることのできる、ドキュメンタリーのような作品でもある。
【リリース情報】
ドージャ・キャット | Doja Cat
最新アルバム『スカーレット | Scarlet』
再生・ダウンロードはコチラ
国内盤
価格 ¥2,640 税込み
解説・歌詞・対訳付 SICP 6563
ご購入はコチラ

<収録曲>※国内盤の収録曲は15曲となります。
1. ペイント・ザ・タウン・レッド
2. デーモンズ
3. ウェット・ヴァジャイナ
4. ファック・ザ・ガールズ
5. アウチーズ
6. 97
7. ガン
8. ゴー・オフ
9. アゴラ・ヒルズ
10. キャント・ウェイト
11. オフテン
12. ラヴ・ライフ
13. スカル・アンド・ボーンズ
14. アテンション
15. バルト
<『スカーレット』を聴いたあとは、ドージャのかっこいいラップ曲をプレイリストでチェック!>
ドージャのピンク期=ポップ期の楽曲を中心にまとめ!
BEST POP COLLECTIONはコチラ
Photo:ゲッティイメージズ,Instagram