今や誰もが知る動物の多くが脅かされている絶滅の危機。あの動物もこの動物も、このままでは見られなくなるかもしれない…。そんな絶滅危惧種について、野生生物を絶滅から救うことで、広い地球の環境保全を目指すWWFジャパンに取材。自然保護室でコンサベーションコミュニケーション グループ長を務める三間淳吉氏が、絶滅の危機に瀕する野生生物たちの今について教えてくれた。(フロントロウ編集部)

絶滅危惧種はどれくらい増えている?

 このままでは絶滅してしまう可能性が高い野生生物の種類は年々増えていて、動物園や図鑑などで目にしたことがあるような生物も絶滅危惧種に指定されている。

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 絶滅危惧種は具体的にどれくらい増えているかについて、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストによると、2000年には1万1,046種が絶滅危惧種に指定されていたのに対し、2023年にはなんと4万2,108種に! 23年で4倍近くにまで増えているが、三間氏いわくこれには注意点がある。それは母数も増えていること。

 三間氏は、「2000年の調査対象は1万6,507種だったのに対し、2023年は調査対象が15万388種にまで増えています。これには調査研究が世界的に広がってきているという背景があります」と説明。

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 でもだからといって、絶滅の危機に瀕している動物があまり増えていないというわけではなく、加速度的に増えているのは事実だと三間氏。

絶滅危惧種ってどう決められているの?
三間氏:IUCNのレッドリストでは、世界中の研究者の先生たちが野生生物の分類群ごとにグループをつくり、それぞれの特定のグループについて調査研究し、さらに世界中の調査研究を集めたうえで生き物ごとに絶滅の危険度の度合いを評価して絶滅危惧種に指定し、発表しています。レッドリストには、各国版や各県版などいろいろありますが、世界の野生生物を対象にしたもっとも有名なものが、1986年に初めて作られた、このIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストだそうです。

【動物ごとに解説】絶滅の危機に瀕する理由はひとつじゃない!

画像: 【動物ごとに解説】絶滅の危機に瀕する理由はひとつじゃない!

 野生生物が絶滅の危機に瀕するのには、必ず複数の要因があると話す三間氏。「生き物すべてに共通しているのが、乱獲や開発などひとつの原因により絶滅の危機に瀕していることはまずなく、確実に何かしら複合的な原因が組み合わさっているということです」と明かした。
※ 資源状況からみた適正水準を超える過剰な漁獲及び捕獲のこと

 そのうえで、私たちがよく知る動物たちが絶滅の危機に瀕している要因について三間氏に解説してもらった。

コアラ:森林火災が絶滅危機の決定打に

画像1: コアラ:森林火災が絶滅危機の決定打に

 世界でオーストラリアにだけ棲息するコアラ。1930年代ごろまでに一度劇的に減少したコアラは、保護活動により状況が回復。でも2010年頃から、気候変動による干ばつによって再び絶滅危惧種に。

 三間氏は、「長い間雨が降らないことで、コアラが食べるユーカリも枯れるという事態が頻発し、コアラの減少が指摘されるようになりました」と説明。そこに追い打ちをかけたのが森林火災

画像2: コアラ:森林火災が絶滅危機の決定打に

 「数年前にオーストラリアで大規模な森林火災が起こったことが、コアラの生態系に大きな打撃を与えてしまいました」と三間氏。この影響で、オーストラリア政府が独自に作成しているレッドリストでは、コアラの絶滅危機のレベルが引き上げられたという。

ケープペンギン:漁業の影響で食物が確保しにくくなった

画像1: ケープペンギン:漁業の影響で食物が確保しにくくなった

 別名アフリカペンギンとも呼ばれており、アフリカ大陸に唯一生息しているケープペンギンも、絶滅の危機に瀕している。その要因のひとつが、人間の漁業とのあつれきによるもの。

 三間氏は、「食魚を主食とするケープペンギンが暮らす海は、魚類などが豊富な、豊かな漁場でもあります。しかしそのため、そこでの漁業が拡大することで、人間とケープペンギンが魚を奪い合う形になってしまいます」と明かし、漁獲圧が絶滅の危機に瀕している一因だと説明。安全に食物を確保しにくい状況が生じ、海の生態系も脅かされてしまっているという。

画像2: ケープペンギン:漁業の影響で食物が確保しにくくなった

 さらに海面で空気を吸って海に潜ってを繰り返す必要があるケープペンギンが、海中で漁網に引っかかって溺れてしまう「混獲」などの問題や、繁殖のために巣をつくる沿岸部の自然が開発されてしまい、営巣場所が減っている問題も、ケープペンギンが絶滅の危機に瀕している要因だという。

アオウミガメ:温暖化によってメスばかりが増加

画像1: アオウミガメ:温暖化によってメスばかりが増加

 世界各地の熱帯や亜熱帯の沿岸地域に生息し、日本でも小笠原諸島などが繁殖地となっているアオウミガメ。そんなアオウミガメは、土地開発による産卵場所の減少や、乱獲、混獲、温暖化などさまざまな理由で絶滅の危機に瀕している。

 なかでも近年深刻な問題となっているのが、温暖化によって起こるアオウミガメの性別の偏り。

 三間氏は、「アオウミガメを含む爬虫類の中には、卵が孵化するときの温度によって性別が決まるものがいます。アオウミガメはこのときの温度が低いとオス、高いとメスが生まれるのですが、温暖化でどんどん気温が上昇していることで、メスばかりが増えているんです」と説明。

画像2: アオウミガメ:温暖化によってメスばかりが増加

 アオウミガメはオスとメスのペアのみで繁殖するため、気温上昇によってメスだけが増えてしまうと、結果的に繁殖可能な個体数が減少。これにより、絶滅の危険度が高まっているそう。

チョウザメ類:流域の分断と水不足が追い詰める結果に

画像1: チョウザメ類:流域の分断と水不足が追い詰める結果に

 30種近くの種類が存在しているチョウザメ類。以前は、その卵を塩漬けにした高級食材のキャビアを狙った乱獲や過剰な取引により、数が激減した。現在は、国際的な取引の規制が強まりその影響はかなり減っている。

 しかし、その一方でチョウザメ類の生態系を脅かしているのが、生息できる流域の分断と劣化。「チョウザメは大きな川を何百kmも上ったり下ったりする生物ですが、その途中にダムがつくられてしまったりすると、流れが遮断され、結果的に生きられなくなってしまいます」と三間氏。

画像2: チョウザメ類:流域の分断と水不足が追い詰める結果に

 さらに干ばつと開発、農業による流域の水の減少も絶滅の危機を深刻化させる要因に。河川や湖、地下水などから水を引く灌漑(かんがい)農業による水の使いすぎや、土地開発もチョウザメ類を減少させている。三間氏は、「自然な水の流れの分断と水の過剰な利用が、現在チョウザメを決定的に追い詰めてしまっている」と総括した。

アフリカゾウ:気候変動や人口増加による水不足が大きな問題に

画像1: アフリカゾウ:気候変動や人口増加による水不足が大きな問題に

 現存する陸生哺乳類の中でもっとも大きい草食動物であるアフリカゾウは、象牙のための密輸によってその数が激減。現在は、1970年代頃と比べれば、密猟は減ったものの、貧困の問題や、武装勢力が武器調達のための資金をつくるための密猟は続いており、年間2万頭ともいわれるアフリカゾウが今も犠牲になっている。さらに近年は、気候変動や水不足、それに伴う人との衝突が、より大きな問題になっている。

 三間氏は、「元々乾燥しているアフリカゾウが生息する東アフリカのケニアやタンザニアは、開発や人口増加、温暖化、干ばつによって水が不足しています」と解説し、以前はほとんどゾウがいなかった地域まで水を求めて移動し、その地域に住む人々との間で問題が生じていることを指摘した。

画像2: アフリカゾウ:気候変動や人口増加による水不足が大きな問題に

 実際、水を求めたアフリカゾウが人の暮らす集落にまで現れ、家を壊したり、畑を荒らしたり、時に人の命を奪ってしまうといった事態も頻発。また、開発によって生息できる地域自体が減ってしまっていることも、同様にアフリカゾウと人の間の問題を深め、絶滅の危機を高めている要因になっているという。

ツキノワグマ:海外では密猟によって絶滅の危機に

画像: ツキノワグマ:海外では密猟によって絶滅の危機に

 ここ最近ニュースでもよく目にするツキノワグマ。東アジアを中心に広く生息しているツキノワグマは、日本国内では生息域を広げているものの、海外では絶滅の危機が高いとされている生物。

 日本以外の生息国では、密猟がツキノワグマ減少の要因のひとつに。「クマの内臓の胆嚢は熊の胆(クマノイ)と呼ばれ、高価な漢方薬の原材料として使われてきました。これを狙った密猟が、絶滅の危機に瀕している要因のひとつです」と三間氏。

 またこれも日本以外の国々の話だが、本来の生息域である山林が開発され、生きられる場所が奪われていることや、害獣としての駆除などによってもツキノワグマが減っているそう。

絶滅危機の要因に共通しているのは“人間の行動”

画像1: 絶滅危機の要因に共通しているのは“人間の行動”

 上記の通り、野生生物が絶滅の危機に瀕しているのには、複合的な原因が組み合わさっているが、そのほとんどすべてに共通にしているのが人間の行動が招いているということ。

 三間氏は、「レッドリストでは、絶滅危惧種がどういった要因で危機にあるかを示す項目があり、種ごとに該当する項目にチェックが入るようになっています。この全11項目のうちの10が人間由来のものです」と説明。
※その他を入れると全12項目

画像2: 絶滅危機の要因に共通しているのは“人間の行動”

 唯一人間由来ではないものは、火山の噴火や地震といった地質学的な事象という項目で、絶滅危惧種に指定されている約4万2,000種のうち約1,080種のみに該当するきわめてレアな要因。これを除いたほとんどすべての絶滅危機は、人間の活動が直接的もしくは間接的な要因になっているのだという。

絶滅の危機に瀕する野生生物を保全するのには膨大な年月がかかる

 これまで世界のさまざまな国や団体の力で生物の保全が行なわれ、実際に絶滅の危機を脱した野生生物も存在する。でも三間氏によると生態系の回復を含めた野生生物の保全活動には、何十年という膨大な年月と科学的な知見、継続的な支援、そして莫大なコストがかかり、さらには失敗に終わることも少なくないのだという。

 三間氏は、「保護活動がうまくいけば、実際に野生生物を増やすところまでは到達することも多いです。たとえばある地域で行なわれたトラの保護活動では、数は増えたのですが、その分生息域が足りなくなって、トラが街に出てきてしまうという事例がありました」と例を挙げた。

 この場合では、人を襲うリスクが発生するなど、保護活動が仮にうまくいったとしても、新たにさまざまな課題が出てきてしまうことも多いと明かした。

画像: 絶滅の危機に瀕する野生生物を保全するのには膨大な年月がかかる

 さらに洪水や森林火災の拡大にもつながる異常気象の主因とされている気候変動(地球温暖化)のような、国境を越えた危機も存在する。仮に生態系や野生生物が一時的に回復できたとしても、こうした気候変動のような問題を解決していかなければ、結局自然を守り、生存し続ける環境を維持し続けることは困難なのだ。そのため三間氏は「世界的に見ると、保護活動に成功したよい事例はたくさんあります。ですが、完全に元に戻った、今後保護活動を全くしなくても問題ないというケースはほとんどないのかもしれません」と話した。

 そのために大切なのは予防原則。今存在している生物を守り、絶滅を防ぐためにあらゆる努力を尽くすことが大切なのだという。

野生生物を絶滅から守るために人間ができること

 記事冒頭にある通り、絶滅の危機に瀕する生物は増加の一途をたどっていて、三間氏いわくキリンやライオンなど日本人が何となく思い浮かべる動物のほとんどが今絶滅危惧種になっていると言ってもあながち間違いではないのだとか。

 さらに近年では、これまで絶滅の危機にないと言われていた生物や、メダカなどの身近な生物でさえも絶滅の危機が高まっているという。

画像: レッサーパンダもIUCNで絶滅危惧種に指定されている

レッサーパンダもIUCNで絶滅危惧種に指定されている

 そんななかで同じ地球に暮らす人間ができることはあるのか、三間氏は「ほとんどすべての生き物は、人間の行動によって何かしらの影響を受けていると言えます。そのため何ができるかという話では、まず普段の生活が野生生物とどうつながっているのか、その生物に与えている脅威や絶滅危機を意識するようにしてほしいと思います」と話す。

 たとえば暮らしの中でなにを使うか、食べるか、買うか、持つかといった選択は、何かしら生物が絶滅の危機に瀕する要因と関わっているはずだと三間氏。

 「今朝食べた卵やパンが野生生物とどうつながっているのかなど、すべてを追うのはもちろん難しいことでもあります。でも不用意に安いものやどう生産されたのか分からないものを選択することは、野生生物を脅かすことにつながっているかもしれない。そうした可能性を想像することが大事なのではないかと考えています」と話した。

画像: 野生生物を絶滅から守るために人間ができること

 また三間氏は、野生生物を絶滅の危機から守ることは、人間の未来をも左右することだと指摘。「野生動物の保護というと、以前はかわいそうだから助けてあげるといった見方をする人も多かったと思います。でも今は、地球環境の悪化という、人にとっても脅威となる要因が絶滅危機の背景として大きくなってきています。その中で先に危機にさらされている野生生物たちは、人間に警鐘を鳴らしてくれている存在でもあるのです」と発言。

 つまり野生生物が生きられる世界を守っていかない限り、人間自身も生きられなくなってしまう可能性が高い。そういった部分も意識し、日々の選択がどういう形でつながり、少しでもよい状況にするにはどうすればいいのかを大きな規模で考えるマインドを持つことが大事なのではないかと三間氏は話した。

 絶滅の危機に瀕している野生生物たちが直面する脅威は、やがて人間が直面する脅威となりえる。そしてその脅威はもうすぐそこまで来ている。そう警鐘を鳴らしてくれている生物たちの声を、果たして人間は受け止められているだろうか。

 地球の未来を左右するのは、知らない誰かの行動ではなく自分の行動。一人ひとりがそのことを意識できるかどうかに、地球の未来はかかっている。

WWFについて

WWFは100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、サステナブルな社会の実現を推進。
特に失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けた活動を行なっている。

WWFジャパン公式サイト

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