様々な名作を送り出してきたドリームワークス・アニメーションの30周年記念作品で、世界43カ国でNo.1大ヒットを記録したことから2025年アカデミー賞の受賞も期待されている。思いやりと優しさをもって他者を理解し、共存していくことの大切さを教えてくれる奇跡と感動の物語をFRONTROWならではの視点でレビューします。
『野生の島のロズ』あらすじ
無人島に漂着した最新型アシスト・ロボットのロズは、キツネのチャッカリとオポッサムのピンクシッポの協力のもと、雁のひな鳥キラリを育てるうちに心が芽生えはじめる。最初はロズのことを怪物と呼び拒絶していた島の動物たちも、ロズの優しさに触れるうちに、次第に島の“家族”として受け入れていく。いつしか島はロズにとっての“家”となっていくのだった。渡り鳥として巣立っていくキラリを見送り、動物たちと共に厳しい冬を越えた頃、回収ロボットが彼女を探しにやってくるのだが…。
『リロ&スティッチ』の監督クリス・サンダース
本作の原作は、文学賞を多数受賞したアメリカの作家ピーター・ブラウンの傑作童話『野生のロボット』。監督・脚本を担当したのは、ディズニーで経験を積み『リロ&スティッチ』の監督を務め、ドリームワークスで『ヒックとドラゴン』などを手掛けてきたクリス・サンダース。アニメ作品だけでなく、ハリソン・フォード主演の実写映画『野性の呼び声』も監督している。
サンダース監督の作品で共通して描かれているのは、人間と動物の絆や友情、動物の本能といったテーマで本作にも通底している。 特に、両親を亡くした少女と遺伝子実験で生まれた破壊エイリアンの交流を描いた『リロ&スティッチ』との共通点が多く見られ、物語を追うごとに一層浮き彫りになっていく。
血の繋がりのない二人が、本当の“家族”になる物語
今作でスティッチの役に当たるのが、人間をアシストする最新型ロボット・ロズ。ロズは出荷途中に船が嵐に見舞われ、野生の動物が住む無人島に漂着してしまう。アシストするはずの人間が見当たらず、野生の動物ばかりの環境で最初は戸惑うが、学習能力を活かし徐々に無人島の環境に適応していくのだった。
そんなロズはある日、スティッチが不時着した地球で偶然リロと出会ったのと同じように、この島で運命的な出会いを果たす。ひょんなことから鳥の卵を見つけ、ひなを孵すことになるのだ。ロボットの自分を「ママ」と呼ぶ雛鳥を“キラリ”と名付け大切に育てていく。
それはロボットにとってのプログラム=理性を超えて、内面に眠っていた母性に目覚めていく瞬間だった。そして、ロボットの母と雁の子供という不思議な関係ながらも、本当の親子のような絆を深めていくことになる。
キラリは雁という、秋になると群れで旅をする習性のある渡り鳥だったが、生まれつき体が小さくうまく空を飛ぶことができなかった。さらに「怪物」と他の動物から恐れられているロズに育てられているということから、雁の仲間たちからはつまはじきにされていたのだ。
ロズはキラリのために、ハヤブサに飛び方を教えてほしいと頼み込み、キラリは小さな身体を活かした飛行をマスターしていく。このように、ロズや仲間の動物たちの献身的なサポートによってキラリは渡り鳥に必要な事を身に着け、遂に別れの秋を迎える。
旅立ちの日を迎えた雁の仲間たちは、湖から一斉に飛び立っていった。うまく助走をつけられないキラリの代わりに走るロズの助けを借り、キラリも大空へと飛び立っていくのだった。親元を離れる経験をしたことがある人や子供がいる人は誰もが共感できる、嬉しくも悲しい、美しくも残酷なシーン。 そして一人になったロズのもとに、冬がやってくるのだった。
「スティッチ」にも込められた、監督が世界に贈るメッセージとは?
この冬、島は異常気象に襲われ、動物たちは命の危機に瀕する状態におかれることに。冬眠の必要がないロズは、動物たちを次々と助けシェルターとなる場所へと避難させる。ロズの体がボロボロになり、バッテリーが切れて動けなくなるまで身を粉にして、島中の動物を救い出すのだった。一方で、動物たちは避難場所で、食物連鎖や捕食・被食関係のもとで争い対立していた。これは動物の本能なので、当然のことでもある。
しかしここで動物たちは、ロズとチャッカリの呼びかけによって1つの真実に導かれる。「怪物」と呼び忌み嫌っていたロズの優しさ・思いやり・自己犠牲のお陰で、生き残ることができた。争いをやめて共存する道を選ばなれば、皆ここで息絶えてしまう。動物にとってのプログラム=野性を超えて、生き抜くために休戦をしよう、生き残るためには本能に逆らって助け合わなければならない、と気づくのだった。
人間も本能的に嫌悪感を抱いたり差別してしまうことがあるし、教育や育った環境で身につけられた価値観を盲信してしまうこともある。これらに抗い、思いやりと優しさをもって自分とは違う他者を理解し共に生きていく、これが過去作にも共通するサンダース監督が伝えたいことなのではないだろうか。
映画『リロ&スティッチ』に「オハナは家族。家族はいつもそばにいる。何があっても」という有名な台詞がある。“オハナ”とは、ハワイ語で家族を意味する言葉だが、単に血縁関係だけを意味するのではなく、血の繋がりを超えて愛のある関係を築くことが大切だという意味も込められているという。世界中で分断と対立が深まる今だからこそ、一層胸に響くメッセージだ。
『野生の島のロズ』
2025年2月7日(金)全国ロードショー
Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
配給:東宝東和、ギャガ