地図のどこにもない“素敵な場所”を、ひとりの少女が探しに行く──それが『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』だ。
オランダとボスニアを舞台にしたこの青春ロードムービーは、境界線の中で揺れる若者たちの感情を繊細に描き出す。監督はボスニア出身のエナ・センディヤレヴィッチ。自身のルーツと真っ向から向き合ったこの初長編作品で、彼女はロッテルダム国際映画祭のタイガーアワード特別賞を手にした。
アルマは“母国”ボスニアへと旅立つが、その地はもはや異国であり、彼女を受け入れてはくれない。ぶっきらぼうな従兄、居場所のないアパート、見知らぬ風景。たったひとりで旅する彼女が出会うのは、謎めいた青年デニス。そして、奇妙でささやかな出会いの連続。
“カフカ的”と称されるその旅は、迷路のようで、どこかユーモラス。だが、モグワイやソニック・ユースの音楽とともに描かれる風景は、鮮やかにして憂いを帯びている。特に、プールサイドで老婦人から“男とは何か”を諭されるシーンには、本作のすべてが詰まっている。
本作は、ただのアイデンティティ探しでは終わらない。経済格差、移民、戦争の記憶といった社会的なテーマを、押しつけがましくなく織り交ぜる。その中で浮かび上がるのは、アルマという“今を生きる若者”の普遍的な孤独だ。
“どこにも属せない”少女のひと夏の冒険。だが、その終わりには確かに何かが変わっている。『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』は、そんなささやかな奇跡の物語だ。
映画『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』予告編 9.13 (土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開 他全国順次公開:✼◌˳˚˳˚✼˚:✼˚:✼◌:✼◌˳˚˳
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