ルパート・グリントは一度断ろうとしていた。『ハッチング』を見るまでは


『ハリー・ポッター』のロン役として知られるルパート・グリントが、フィンランド発の新作ホラーに出演した経緯を語った。オファーを受けた当初は乗り気ではなかったという彼の気持ちを変えたのは、監督の前作だった。(フロントロウ編集部)
「最初は少し躊躇していました」
卵から孵ったものの正体をめぐる北欧ホラー『ハッチング -孵化-』が、YouTubeで期間限定の無料配信に入ったのが8月14日のこと。あの作品を手がけたハンナ・ベルイホルム監督の最新作『ナイトボーン -夜哭-』が、いよいよ8月28日に公開される。その公開を前に、日本の配給を手がけるギャガによると、主演2人のオフィシャルインタビューが到着したという。
興味深いのは、ジョン役のルパート・グリントが、この役をすんなり引き受けたわけではなかったと明かしている点だ。彼は出演オファーが届いた当初、一度は迷っていたという。
「以前にも母親をテーマにした心理スリラー作品に出演していたので、最初は少し躊躇していました。でも脚本を読んで、この世界観が本当に好きになりました。そして『ハッチング -孵化-』を観て、『ぜひやりたい』と思ったんです」と、彼は心変わりの過程を順を追って説明している。フィンランドという舞台や文化、森に棲むトロールの民間伝承は、彼にとって「ほとんど異世界のよう」に映り、そこに強く興味を惹かれたそうだ。
脚本のなかでとくに印象に残ったシーンを問われたルパートが挙げたのは、アクションでも見せ場でもなく、出産の場面だった。「あんなシーンは今まで見たことがありませんでした。とても生々しく、不安をかき立てられる。現実なのか超自然なのか、その境界が揺らぎ続ける感覚が本当に面白かったんです」と語っている。

主人公サーガを演じたセイディ・ハーラにとっても、監督の前作が決め手だった。「『ハッチング -孵化-』を観て、ハンナがどんな映画を撮る監督なのか十分に伝わってきました。彼女は自分が何を撮りたいのかを明確に理解している監督です。頭の中にはすでに映像が完成していて、それを俳優にも共有してくれる。そういう監督は決して多くありません」。日本でも2022年に公開された1本の長編が、キャスティングの現場でここまで効いていたことになる。
赤ん坊の顔を最後まで見せない理由
物語は、子どもを望む新婚夫婦サーガとジョンが、サーガの故郷であるフィンランドの森深い田舎町へ移り住む場面から始まる。待望の第一子が生まれた直後から、母親であるサーガは我が子に「何かがおかしい」という違和感を覚え、それが恐怖へ、やがて狂気へと姿を変えていく。
ベルイホルム監督は配給元のプレス資料に収録されたインタビューで、この物語が自身の母親としての経験から生まれたと述べている。「親としての愛の乱雑で、困難で、ときには“美しくない”側面を描いた物語がまだ十分に存在しないと感じていました。そうした部分に光を当てたいと思ったのです」。
監督が意図的に貫いた仕掛けもある。赤ん坊の顔を終盤まで画面に映さないという選択だ。「赤ん坊の顔にまつわる“謎”は、ぜひ最後まで保ちたかった部分です」と監督は説明しており、観客に主人公と同じ感覚を共有させる狙いがあったという。夫婦が暮らす古い一軒家についても、監督は美しいけれど朽ち始めた家が2人の関係そのものを象徴していると位置づけ、どれほど完璧な家族の幸福を夢見て子ども部屋を飾り立てても床は腐り続ける、と語っている。
北欧神話のトロールについても、監督は独自の解釈を加えた。人間とトロールは何世代にもわたって交わってきたので、私たち全員のなかに少しだけトロールの血が流れている可能性がある——だからこそ社会のなかでぎこちなさを感じる人がいるのかもしれない、という発想だ。生まれてきた子の異質さと、それを見つめる母親自身の異質さが重なっていく本作の構造は、ここから来ている。
公開直前に届いた、日本の作り手たちの声
本作は第76回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映され、北米最大級のジャンル映画祭である第30回ファンタジア国際映画祭では最優秀作品賞と最優秀演技賞の二冠に輝いている。演技賞を受けたのはサーガを怪演したセイディ・ハーラだ。
日本公開を前に、ひと足早く本作を鑑賞した各界のクリエイターや映画人からのコメントも到着した。画家のヒグチユウコ、翻訳家でエッセイストの村井理子、映画感想屋声優の野水伊織、人間食べ食べカエルらが、本作の描く“親になること”の恐怖について、それぞれの立場から言葉を寄せている。イラストレーターのサイトウユウスケは、コメントとあわせて描き下ろしのイラストを提供した。

撮影現場では、アニマトロニクスのパペットも使われた。『スター・ウォーズ』『ジュラシック・ワールド』を手がけたグスタフ・ホーゲンのチームが制作したもので、5人の人形遣いが俳優の周りでこれを操作したという。セイディ・ハーラに施されたSFXメイクを担当したのは、アカデミー賞に2度ノミネートされたコナー・オサリヴァンとそのチーム。いずれも『ハッチング -孵化-』からの続投だ。
映画『ナイトボーン -夜哭-』は、8月28日より日本のヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開される。















