4月27日~5月6日に行なわれる東京レインボープライド・ウィークをはじめ、日本でもLGBTQ+に関する知識を深めようという取り組みが盛んになるなか、『POSE』はぜひ観ておきたい作品。
5月13日(月)よりFOXチャンネルで日本最速となる独占放送がスタートする話題沸騰中の同作の魅力や社会に与えている影響にフォーカス!
ハリウッドの“最高のテレビマン”がキャリアをかけた渾身の1作
ミュージカルドラマ『glee/グリー』や、ホラードラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』、レスキュードラマ『9-1-1:LA救命最前線』など、多彩なジャンルで数々のヒット作を生み出し、現代ハリウッドにおける“最高のテレビマン”との呼び名を欲しいままにする名プロデューサーのライアン・マーフィー。
そんな彼が「このドラマこそが、僕のキャリアのハイライトとなる」と豪語する作品こそが『POSE』 。
自身もゲイであることを公表しており、LGBTQ+コミュニティとの関わりも深いライアンは、作品づくりを通して、LGBTQ+コミュニティのために何かできることはないかという強い想いを胸に同作の企画・製作総指揮・脚本・監督を担当している。
【「LGBTQ+」とは?】
セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)を指す言葉。「Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)」「Gay(ゲイ、男性同性愛者)」「Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)」「Transgender(トランスジェンダー/心と体の性の不一致)」「Queer(クィア、セクシュアルマイノリティでもLGBTのどれにもorどれか1つだけに当てはまらない者)」または「Questioning(クエスチョニング、自分のジェンダーや性的指向が定まっていない者)」の頭文字をとった総称。フロントロウ編集部ではその他のアイデンティティも尊重するために「+(プラス)」をくわえて表現している。
ライアンの熱い想いが反映された同作は、2018年6月の第1シーズン放送開始前から大きな話題に。海外有名レビューサイト、Rotten Tomatoes(ロッテントマト)では批評家評97%、一般視聴者評82%と高評価を獲得し、第1シーズン放送開始からわずか1カ月ほどで、第2シーズンの制作が決定した(2019年6月米放送開始予定)。
さらに、2019年のゴールデン・グローブ賞ではドラマ部門の作品賞にノミネートを果たしたほか、LGBTQ+コミュニティで最も有名なアワードの1つである第30回GLAADメディア・アワードでもアウトスタンディング・ドラマ・シリーズ部門にノミネートしている。
史上最大数のLGBTQ+キャラが出演
“ストレート・ウォッシング”に斬り込む画期的作品
第1回目のエピソードだけでも、性別適合手術、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)、エイズの蔓延、両親へのカミングアウト、セックスワーカーなど、さまざまなトピックを網羅している『POSE』。
本作を作るうえで、ライアンが最もこだわったのは、“本物”のキャストを通してLGBTQ+コミュニティのリアルを描き出すこと。
ライアンは、同作では、シスジェンダー(※1)の役者にトランスジェンダー役をやらせることは「絶対にない」と断言。あくまでも、LGBTQ+の人々が直面している問題や葛藤などの実情を知る“本物”のキャストを主体に『POSE』という画期的な物語を描いていく意思を明らかにしている。
※1 シスジェンダー(Cisgender):生まれた時に診断された身体的性別と自分の性同一性が一致し、それに従って生きる人。トランスジェンダーを差別的に扱わないようにするために、非・トランスジェンダーを意味するこのシスジェンダーという言葉が使われるようになった。
ダイバーシティ(多様性)やインクルーシブネス(包括性)の重要さが盛んに訴えられるようになった社会全体の流れを受け、昨今、ハリウッドでは非LGBTQ+の役者がLGBTQ+の役を演じる“ストレート・ウォッシング”(※2)が問題視されている。
※2 ストレート・ウォッシング(Straight Washing):人種差別的だという理由から批判の的となっている、本来ならば非白人が演じるべき役柄を白人が演じる「ホワイト・ウォッシング」と同様の原理で、同性愛者やトランスジェンダーなどの役柄を異性愛者やシスジェンダーの役者が演じるというもの。
そんななか、ライアンは『POSE』の制作にあたり、「ストレートの男性がトランスジェンダー役を演じる時代はもう終わり。ハリウッドで働きたいと思いながらもなかなかチャンスを得られない人々に、より多くの機会を提供する時期だ」と発言。
全米で半年間にもおよぶ大規模なオーディションを実施し、台本のあるドラマシリーズとしてはハリウッド史上最大数である50名以上のLGBTQ+の役者たちを起用した。
きらびやかな80sファッション&力強いダンスシーン
魅惑の“ボール・カルチャー”の真髄を描く
経済が華やかになってゆく80年代後半、ニューヨークの街の片隅にあるダンスホールで毎週末行なわれていた“ボール”。
ファッションショーとダンスコンテストが合体したようなこの“ボール”では、マザー率いる“ハウス”というグループに所属するメンバーたちが、その日のテーマに沿った思い思いの衣装に身を包み、ヴォーギング(※5)と呼ばれるダンスを披露。
【「ヴォーギング」とは?】
英語ではVoguing。マドンナが歌う「ヴォーグ」のミュージックビデオでも知られるダンス・スタイル。まるで、一瞬一瞬がポーズを決めているような独特な様子が、有名ファッション雑誌VOGUEのモデルのポーズに似ていたことから、そう呼ばれるようになった。
美しければ何でもアリな“自己表現”の場として、グループ同士の意地とプライドが激突する同コンテストは、現在ほどLGBTQ+の存在がメインストリームとなっていなかった当時、LGBTQ+コミュニティ、とくに黒人やラテン系などの有色人種の人々にとって、重要な心の拠り所にもなっていた。
ボールを描いたシーンには、これでもかというほどゴージャスで優美な衣装が多数登場。スポットライトを浴びながらウォークを決める参加者たちの姿は、観る人を非日常へといざなってくれる。
劇中にはホイットニー・ヒューストンの「アイ・ワナ・ダンス・ウィズ・サムバディ」をはじめ、ダイアナ・ロスやジャネット・ジャクソン、マドンナなど、80年代を代表する流行曲がBGMとして登場。
当時のファッションや生活スタイルなどを忠実に描き出している本作では、ボールルームでのきらびやかな衣装はもちろん、景気が良く勢いのある80年代の世相を反映した登場人物たちの私服ファッションにも注目。大胆かつ絶妙な色使いや、アクセサリーや小物などの合わせ方など、80年代ファッションがトレンドとなっている今だからこそ参考にしたい要素も盛りだくさん!
そして、もう1つの見どころは、プロダンサーとして羽ばたく夢を抱くデイモンのパワフルで情熱的なダンスシーン。
デイモンがダンス学校のオーディションを受けるシーンでは、内側から湧き出るようなダンスへの愛や情熱を全身を使って表現しているが、この時のダンスを監修したのは、美少女ダンサー、マディー・ジーグラーの表現力豊かなモダンダンスが話題となったシンガーのシーア(Sia)の代表曲「シャンデリア」のMVで振り付けを担当したライアン・ハフィントン。
そのほかにも、ジャネット・ジャクソンやビヨンセ、ジェニファー・ロペスといった超有名アーティストの振り付けを務めたこともあるダンサー界のエリート、ダニエル・ポランコや、“ヴォーギングの神様”と称されるレイオミー・マルドナルドが振り付けを指導しているほか、実在のLGBTQ+ハウスも監修に携わっている。
泣いて、笑って、恋して、夢を追う
誰もが共感できるハートフルなヒューマン・ストーリー
80年代のニューヨークの裏側で生きるLGBTQ+の人々を主軸にした物語と聞くと、自分とはまったく別の世界の人々にまつわる特殊な話なのではないかと構えてしまう人もいると思うが、『POSE』で描かれるのは、誰しもが共感できる普遍的なストーリー。
居場所を失くした者たちが新たな家族として絆を築いていく姿、挫折を味わいながらも夢を追い求める姿、予期せぬ恋に落ちる姿、病魔や死の恐怖と闘う姿は、誰の心にも強く訴えかけてくる。
エンジェル役のインディア・ムーアは、物心がついた時から自身は女性だと認識していたという。生まれ持った体と心が一致しないトランスジェンダー(性同一性)であることを両親が受け入れてくれなかったことが原因で、14歳という若さで家を飛び出した過去を持つ彼女は、「『POSE』 をひと言で表現するとしたら? 」という質問にこんな風に答えている。
「『POSE』は“家族”についての物語。社会から取り残され、きっと家族を持つことなんて出来ないだろうと思われていた人たちの関わり合いを通して“家族”とは何かを描いたストーリーよ」
インディアの言葉の通り、同作では、母親代わりの“マザー”が中心となり、生まれ育った家庭から追放されてしまったり、社会からは受け入れられず、言いようのない不安や孤独を抱えた若者たちが、“家族”としてお互いをいたわりながら、身を寄せ合うように生きる姿が描かれている。
風変りなキャラクターが顔をそろえながらも、『POSE』という作品が心にすっと染み入ってくるのは、この物語の根底にあるのが、愛や夢、そして希望といった、誰しもがいつかは手に入れたいと憧れるものだからなのかもしれない。
そして、同作は、LGBTQ+の人々が求めているものが、LGTBQ+ではない人々となんら変わりないということも訴えている。
差別や偏見は、自分とは”違う“存在に対して十分な知識や理解が無いことによって生じる戸惑いや恐怖心などから派生するもの。
プレイ・テル役のビリー・ポーターは、『POSE』は、数多くの視聴者に重要なメッセージを発信できるプラットフォームとしての役割を活かし、LGBTQ+への理解を深めることで、社会にポジティブな変化をもたらせるはずだと信じているという。
「テレビの力っていうのは、とてつもないものなんだ。視聴者たちの前に、あるキャラクターを登場させたら、たとえそのキャラクターが自分とは全然違う類いの人物だとしても、そのキャラクターについて深く知り、やがて愛するようになる。観る人の世界観を変え、他者に対してより寛容になるように導けるかもしれない。僕はこれまでにも、そんな現象を目の当たりにして来たよ」
<『POSE』が社会に与えた影響>
『POSE』の企画・製作にあたり、たくさんのLGBTQ+の人々の話を聞いたというライアンは「彼らと話してみて、最もハッとさせられたのは、彼らがどれだけ社会から攻撃されていると感じているかということ。ヘルスケアや仕事探しに苦労している人が驚くほど多いんだ」と、LGBTQ+コミュニティが現在でも直面している数々の問題に改めて衝撃を受けたことを明かしている。
「LGBTQ+コミュニティのためにただショーを作るだけでなく、それ以上のことをしなくてはならないと思った。このコミュニティに手を差し伸べ、救いたいんだ」と語るライアンは、これまで性的マイノリティであるがゆえに、映画やドラマでキャスティングされる役柄の種類が限られていたり、主役の座は得られず、つねに脇役に甘んじてきた役者たちのために雇用の機会を生み出し、センターステージに立つチャンスを与えた。
これは、エンタメ界だけに限られたことではなく、就労などの社会進出に困難を抱える多くのLGBTQ+の人々に勇気や自信を与える出来事。
それにくわえ、ライアンは同作で自身が得る収入のすべてを合計14にもおよぶLGBTQ+支援団体に寄付すると宣言。LGBTQ+への認識を高める活動はもちろん、LGBTQ+の子供や若者の教育を支援する奨学金にも充てるとしている。
さらに、シーズン1の放送終了後には、『POSE』の出演者らがチャリティコンサートを開催。その収益もLGBTQ+コミュニティの若者たちが安全に教育を受ける権利を守るための活動を行うNPO団体「GLSEN」(※6)に寄付された。
※6 GLSEN(グルセン/Gay, Lesbian, and Straight Education Networkの略)
多岐にわたるポイントにおいて革新的な作品だと絶賛されているドラマ『POSE』。
そんな同作の日本最速独占放送が5月13日(月)よりFOXチャンネルで開始する。
これまでなかなかスポットライトが当てられてこなかったからこそ人々の興味を引くテーマを主軸に、LGBTQ+コミュニティの全面的協力を得て作られた本作は、人間の本質をえぐる、観る人の心を大きく揺さぶる名作。
4月末から5月頭の東京レインボープライド・ウィークや6月の米プライド月間に合わせて、ぜひ、チェックしてほしい。
<放送情報>
『POSE』(全8話/字幕)
放送開始日時:5/13(月) 23:00スタート
放送日時:毎週月曜日 23:00~24:00
リピート放送:毎週金曜日 14:00~15:00、24:00~25:00、毎週日曜日26:00~27時、(翌)毎週月曜日 8:30~9:30
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