一時代にひとり現れる逸材として注目されているシンガー、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)は、テイラー・スウィフトが持つグラミー賞最優秀アルバム賞の最年少受賞記録を更新するのではという呼び声まである。“完璧なスター”とは程遠い、影や痛みも持つビリーのリアルな姿にティーンは心酔している。そんな彼女のデビューアルバム『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』の全16曲をリリックと共に解説。独特な言葉づかいでティーンの気持ちを代弁する歌手として脚光を浴びる17歳ビリーの魅力を掘り下げる。(フロントロウ編集部)

1. !!!!!!!

イントロソングが等身大

 「インビザライン矯正(※)を取り外しました。そしてこれがアルバムです」とビリーが言った後に大爆笑する、13秒のオープニングトラック。

 歯の矯正をしていてそれを嫌っていることなど、ティーンらしい等身大の姿を以前からオープンにしてきたビリーらしい1曲目。ファンのあいだでは、“歯の矯正を外すことが自由を手に入れたことを意味している”といった憶測が流れたが、ビリーは、「レコーディングのたびに外さなきゃいけなかったから」と、意外とそのまんまな真意をあっさり明かした


2. バッド・ガイ/bad guy

キャリア最大のヒット曲

 自分をもてあそぼうとする男子をあざ笑い、本当に恐れられるべき“バッド・ガイ(悪者)”は自分だと主張する曲。

そうね、あなたはタフな奴
荒っぽいのが好きな奴
どこまでも満足できない奴
いつも得意げに胸を張ってる奴
私は結構悪いタイプ
あなたの母親を悲しませるタイプ
あなたの彼女を激怒させるタイプ
あなたの父親を誘惑しかねないタイプ

 アルバムの全曲をプロデュースしたビリーの兄フィネアスの体を揺らすビートとビリーの心をつくリリックが絶妙な同曲は、キャリア最高の全米・全英2位を獲得。ブリトニー・スピアーズが振りつけをつけて踊ったり、BTSのジョングクが口パク動画を作ったり、ディズニー・スターのダヴ・キャメロンがカバーしたりと、セレブも夢中な1曲。


3. ザニー/xanny

ドラッグカルチャーへの歌

 アメリカの若者の間でまん延している抗不安薬の名前がタイトルになった、ドラッグカルチャーへのメッセージソング。自身は一度もドラッグやタバコに手を出したことがないというビリーが、酔って吐く友人の隣で平然と飲み続ける友達の姿にショックを受けて作った。

あの人達って一体何なんだろう?
私が何か見落としてるのかな
彼らは無為に過ごしているだけ
怖いもの知らずなのは泥酔状態だから
いなくなればせいせいするのに
情緒不安定以外の何ものでもない
テーブルに運んできた灰皿だけが多分
彼らが分かち合っている唯一のもの

 「人を愛することは並大抵のことではなくて、犠牲があるもの。だから私は(ドラッグやタバコやお酒で)自分を殺している、つまり失うかもしれない人を愛せない」語る、根がマジメなビリー。一方で、「ドラッグをやるなということではなく、安全でいてという意味」だとも語った


4. ユー・シュド・シー・ミー・イン・ア・クラウン/you should see me in a crown

ビリー・アイリッシュ王にひれ伏せよ

 王冠を手に入れたビリーが、頂点から下を見下ろして「頭を下げるのよ」と自信たっぷりに歌う曲。

あなたがこう言う
「おいで、ベイビー 君って可愛いね」と
大丈夫 私はあなたのベイビーじゃない
「たとえそっちが私を可愛いと思っても」
王冠を戴いた私を見てもらわないとね
このくだらない町を支配するつもりだから
皆が私に頭を下げるのよ
一人ずつ、次々と
一人ずつ、次々と

 曲のタイトルは、ベネディクト・カンバーバッチ主演のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』に登場する最大の敵モリアーティが放ったセリフ。ビリーは同曲のMVで、憧れのアーティストでありビリーのファンだという村上隆とコラボ。アルバムの多くの曲を、兄フィネアスの寝室に置かれた、村上隆が作ったキャラクターのクッションの上に寝そべって作ったビリーにとっては夢のようなできごと。MVにはビリーが作ったオリジナルキャラクター、Blohsh(ブロシュ)も登場する。

 この曲にはもう1本MVが作られており、こちらはスマホ世代らしく、スマホにぴったりフィットする垂直ビデオ。通常ミュージックビデオはMVを得意とする監督が構成や演出を提案するけれど、ビリーは構成や演出はもちろん、カメラカットにまで明確なビジョンを持つアーティスト。しかも自分のイメージにぴったり合うためなら何でもするというこだわりぶりで、同曲MVでの口からクモがはいでるシーンも実際にビリーが行なったこと。ビリーが初めてMVで肌を見せた「ベリー・ア・フレンド」では、背中に大量の注射器を刺されるシーンをどうしても本当にやりたいとごねてチームを困らせたそう。


5. オール・ザ・グッド・ガールズ・ゴー・トゥ・ヘル/all the good girls go to hell

地球温暖化へのメッセージソング

 天国や神、聖ペトロなど、宗教にリンクするワードが使われた同曲は、じつは、地球温暖化についての曲。

一旦水位が上がり始めて
天国が見えなくなってしまったら
神様は自分のチームに悪魔を加えたくなるはず
あなたの揉み消し工作も そろそろ限界
人間ってホント愚かだよね
なぜ私達は彼に救いの手を差し伸べているのかな?
自分で自分に毒を盛っておきながら

 ずいぶんマジメなテーマかと思うかもしれないが、欧米では、政府や企業に規制を求める地球温暖化デモは大人よりもティーンのあいだの方が活発。地球温暖化を信じる人の割合も、人間が原因であると考える人の割合も、他の世代よりもミレニアル世代の方が10%多く、問題意識が高いことがピュー研究所の調査で分かっている。“ティーンの代弁者”と称賛されるビリーがこのテーマをアルバムに取り入れたことも納得。


6. ウィッシュ・ユー・ワー・ゲイ/wish you were gay

振り向いてくれない男子への曲

 好きな男の子と両想いになれなかったときに、自分に原因があるのではなく相手がゲイだからだったら良かったのに、という思いを歌った曲。

私はただあなたの気分を楽にさせてあげたいだけ
なのにあなたは他所(よそ)しか見ていない 
あなたに伝えられるはずもないよね
一緒にいたくないと思えたらいいのになんて
ただあなたがゲイだったらなって思ってるだけ

 「あなたがゲイだったら」というユニークな考え方で、失恋したときの痛みを表現したビリー。実体験からきているのだが、面白いのが、最終的に相手が本当にゲイであることが分かったこと。「私が曲を書いたことで、彼は男の子とセックスできたの。本当に誇りに思う。でも本気で好きだった私としては良くないこと。ああ、彼ホントにいい男だったな」とビリー本人がインスタグラムで明かした。


7. ホウェン・ザ・パーティーズ・オーバー/when the party's over

束縛しがちな恋人への曲

 付き合っている相手と距離を取ろうとしている曲。ビリーいわく、「悲しい」よりも「怒り」の方が強い曲だそう。

あたたはもう、分かり過ぎているんじゃないの
私があなたを傷つけるのは、あなたが私にそうさせる時だけ
私を友達呼ばわりしながら、そばに繋ぎ止めておくのね
(「折り返しかけて」)
パーティが終わったら電話するわ

 この曲を聴くときは、パーッと遊んでいるときに恋人から電話で怒られたときの苦々しい気持ちを想像してほしい。この曲は、束縛しがちな彼氏にビリーが留守電で別れを告げる2017年の曲「パーティー・フェイバー(party favor)」の続編的な曲なのだという。MVで両目から黒い涙を流すシーンは、ファンに贈られたアートがインスピレーションになっていて、リアリティにこだわったビリーは目にチューブをつけて黒い液体を流す姿を実現させた。あまりにアイコニックなこのスタイルは、2019年のハロウィンで人気となりそう。


8. 8

切な酸っぱい失恋ソング

 ソフトなメロディと振り向いてくれない相手への思いが切ない失恋ソング。

「酷い仕打ちはしないで」とあなたは言った
でもすごく悲しそうに言ったよね
だから私はベストを尽くしたの
いつかあなたが喜んで私から去って行くなんて思いもせずに
あなたが悪いと思ってないのは分かってる
そんな筋合いないものね
私は恋していていい立場にないのよ
あなたの愛は私に向けられていないんだから 私には

 失恋がテーマのこの曲の主人公は、じつはビリーではない。ビリーが傷つけてしまった相手の視点に立って作られたもので、ビリーは、「一瞬だけバカ野郎になってしまったときがあって、私には、一度立ち止まってその人の視点から考える必要があった」語る


9. マイ・ストレンジ・アディクション/my strange addiction

“奇妙な中毒”についての曲

 ハマってしまった相手に惹かれることを楽しんでいるような、踊りだしてしまうビートが魅力の曲。

あなたは 私を不思議と惹きつけて
あなたは 私を不思議な中毒に陥らせる
主治医でも説明できないのよ
この症状や痛みの原因を
だけどあなたは 私を未知の中毒に陥らせる

 GenZ(1981年以前生まれの世代)に大人気のドラマ『The Office』の挿入歌をツアーで流すなど、ドラマの大ファンとして知られるビリーは、同曲でドラマの音源をサンプリング。しかもNetflixからそのままとったというからなんとも自由。ダメ元でドラマ側に使用許可を出したところまさかのOKが出たため、この形でのリリースが決まった。


10. ベリー・ア・フレンド/bury a friend

ベッドの下の恐怖についての曲

 「友達を埋葬する」という衝撃的なタイトルの同曲は、ベッドの下に隠れたモンスター(自己嫌悪)を“友達”と例えて、それをいかに取り払うかを“友人を埋葬する”と表現したもの。

私に何を求めているの?
なぜ私から逃げないの?
何を疑問に思っているの?
何を知りたいの?
なぜ私を恐れていないの?
なぜ私のことを気に掛けるの?
眠りに落ちたら、私達は 何処に行くの?

 ビリーが歯科矯正を外すときに録音した歯科機材の音が使われるなど、ビリーと兄フィネアスの独特の音楽づくりが表れている同曲について、ビリーは、「それがアーティストだろうが、知ってる人だろうが、考えだろうが、自分が持つ愛をすべて捧げるほどハマる対象がいた場合、自分自身への愛は残らないでしょ。それってすごく危険なこと。そうなっている自分自身が他人のベッドの下のモンスターである気分になるの。表現が難しいけど、この曲もアルバムも、愛が強すぎるのは愛がないことよりも悪いことだって伝えているの」と語る。


11. イロミロ/ilomilo

離別についての曲

誰かと離れることに対する恐怖や不安を歌った曲。

世界が少し霞んでいる
もしかしたら私の目のせいかもね
私が葬り去らなきゃならなかった友人達
彼らのせいで夜になっても眠れない
言ったでしょ、誰かを愛するなんて無理だと
だって私は壊れてしまうかもしれない
もしあなたが誤ち以外の理由で 死んでしまうとしたら

 この曲は、ビリーが大好きだったという同名のゲームが着想のヒントになっている。パズルをクリアしてイロとミロというキャラクターを再会させるゲームで、ビリーは、「愛する人を失って、また見つけるということ」話している


12. リッスン・ビフォア・アイ・ゴー/listen before i go

うつ病についての曲

 メンタルヘルスとの闘いについてオープンに話すビリーが、うつ病について歌った曲。

悪いけど、もう私を救うのは無理
悪いけど、どうすればいいか分からない
悪いけど、出口はないの 落ちて行くだけ
Mm、下に向かって
友達に電話して 愛してるって伝えよう
会えなくなるのは寂しいけれど
後悔はしていない

 メンタルヘルスの問題に自ら悩まされてきたビリーは、自殺防止団体Seize The Awkwardのキャンペーン動画に登場して、「私だって今でも、大丈夫でいられるように学んでいる途中」「経験してきたからこそ、少しの心の拠り所が大きな意味を持つと思っている」などと、自身の経験を通してメンタルヘルスで悩む人だけでなく周囲の人にも訴えかけて称賛された。ビリーの出演動画のさらなる詳細はコチラから確認できる。

 この曲の存在価値は、聴いた人を闇にひきずるのではなく、気持ちを共有して寄り添うことにある。ビリーはツアーのトロント公演で、「これはうつ病と、その…あまり良くない結果について歌った曲。(中略)この曲を聴いて落ち込んでほしくない。私のもとにあなたを引き寄せて精神的なハグになってほしい」と語った。


13. アイ・ラブ・ユー/i love you

「愛してる」についての曲

 「アイ・ラブ・ユー」という言葉が口から出た瞬間に関係が変わるもどかしさを、美しいアコースティック調で歌った曲。

取り消してくれないかな
私を笑わせようとしただけだと言ってよ
今日もこれまでと何ひとつ変わらないって
本気で言うつもりじゃなかったんでしょ
「愛してる」なんて

 「愛してる」という言葉は英語圏では交際が真剣なゾーンに入ったことを表すワードで、幸せを倍増させる分、傷ついたときの痛みも倍増させるキーワード。この曲は「愛してる」というワードが作り出す不安について歌っていて、ビリーは、「自分が作った曲のなかで最も好きな曲のひとつ」としている。この曲については、トロイ・シヴァンやカリードなどの実力派シンガーたちがSNSで絶賛している。


14. グッドバイ/goodbye

アルバムをまとめた曲

 アルバムを締めくくる1分59秒のファイナルソングの歌詞は、イントロソング以外の曲の歌詞を少しずつ切り取って合わせたもの。

違うでしょ
私を屋上に連れて行って
心配いらないって言ったよね
私に何を求めているの?
何も訊かないで ちょっと待って
分かっていないんじゃないの、私はあなたにふさわしくないって
ねえベイビー、私あまり気分が良くないの
良い子にしてた女の子達は皆、地獄行き
口を閉ざして、チャンスを伺う
あの人達って一体何なんだろう
私は正に悪い奴だってこと

 「ミュージックビデオは消音で聴いても心に響くべき」などと、深いこだわりを持つアーティストであるビリー。アルバムの最後の3曲は続けて読むと文章になるようにしたかったそうで、「リッスン・ビフォア・ユー・ゴー(行く前に聞いて)」、「アイ・ラブ・ユー(愛してる)」、「グッドバイ(さようなら)」は、そんなこだわりをもとに選曲された。


15. カムアウト・アンド・プレイ/comeout and play<ボーナストラック>

AppleのホリデーCMの曲

 アップル社の2018年のホリデーCM『Holiday – Share Your Gifts』の挿入歌になった曲。

分かる、不安になるよね、だけど絶対その価値はある
密かにしまっておいた何もかもを他の人達に見せるってこと
隠さないで、隠さないで
口に出すのは恥ずかしいけど、そばにいてくれたら嬉しい、隠れてないで
出て来て、遊ぼう

 ビリーの兄フィネアスは、「このCMがまだ作られているころに、ビリーと一緒に映像を見せてもらえる機会があり、映像を見ながら一緒にこの曲を作りました。この素晴らしい作品に参加できて光栄です」語った


16. ホウェン・アイ・ワズ・オーダー/WHEN I WAS OLDER<ボーナストラック>

映画『ROMA ローマ』がもとになった曲

 70年代メキシコを舞台に家族愛や階級制度を描き、第91回アカデミー賞で監督賞、撮影賞、外国語映画賞を受賞した映画『ROMA ローマ』にインスピレーションを受けて作られた曲。

また仰向けに寝転んで
ある時代と場所を夢に描いている
そこではあなたと私は 親友のまま
これだけのことがあった後でも
そのふりをしていられるのかな?

 ビリーは、「それにまつわる経験をひとつもしていなくても曲は作れる」語っており、これはそんな曲のひとつ。


<リリース情報>

画像: 「憧れ」から「共感」の時代へ、ティーンの代弁者ビリー・アイリッシュが支持される理由

ビリー・アイリッシュ
『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』
デビューアルバム 発売中(3月29日発売)
¥2,376(税込)UICS-1350
ビリー・アイリッシュ 特設サイト

(フロントロウ編集部)

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