※この記事には『アナと雪の女王2』のネタバレがほんの少しだけ含まれます。ストーリーについてのネタバレはありません。
女性のエンパワーメントを重視した作品
2013年に世界的大ヒットを記録したディズニーアニメーション映画『アナと雪の女王』の待望の続編として、ついに公開がスタートした『アナと雪の女王2』。
前作では、古くから定着していた「白馬に乗った王子様が助けに来てくれる」、「王子様との魔法のキスでハッピーエンドを迎える」といった、男性に自分の運命を委ねがちなディズニープリンセス像を一新。自らが持つ不思議な力を隠し続け、抑圧されていた主人公のエルサが、ありのままの自分を受け入れて自由を手に入れる爽快感や、そんなエルサを救おうと果敢な冒険に出る妹アナの姿が観客たちの胸を打ち、“真実の愛”は、異性間や恋人との間にだけ存在するものではないという斬新なメッセージも好評となった。
『アナと雪の女王2』では、それに輪をかけて、さらにパワフルに成長したエルサとアナの冒険、そして、2人を取り巻く仲間たちとの絆が描かれているが、劇中には、同作が、女性の輝きを全面に推し出し、エンパワーメントする作品であることを象徴する演出やセリフが多数登場する。
唯一の男性メインキャラが放つ「ひと言」
そのなかでも、声のキャストたちが口をそろえて絶賛しているのが、エルサやアナが口にするセリフではなく、唯一の男性メインキャラクターであるクリストフ(※1)が、アナに対してかける、ある“ひと言”。
※雪だるまのオラフの性別は男性だが、この記事では人間の男性キャラとしてこの表現を使用。
『アナと雪の女王2』の公開前、制作陣や声のキャストたちとともに、同作のグローバル・プレス・カンファレンスに参加した、アナの声を担当する俳優のクリスティン・ベルは、具体的には、どのシーンかという詳細は伏せながらも、自身が同作の中で最も重要だと考えるセリフについてこう明かした。
「アナが窮地に陥っているとき、クリストフが駆けつけて彼女を抱き上げるの。混乱の真っ最中のこと。その時、クリストフはアナに『大丈夫、僕に任せろ』と言って、彼女に代わって事態を何とかしようとするのではなく、アナを見つめてこう言うの。『僕はここに居るよ。どうしたらいい?』って。これには、鳥肌がたった」(※2)
※2 英語版のセリフに基いたコメント。
従来の“お姫様映画”では、バトルシーンやヒロインが窮地に陥る場面では、頼りになる男性キャラクターが「自分に任せろ」と率先して指揮をとり、闘い、悪を倒すという展開がお決まりだった。
しかし、『アナと雪の女王2』では、困難を切り抜けるのは、あくまでも、主役であるエルサやアナ。それをサポートする男性キャラクターのクリストフは、自らがしゃしゃり出るようなことはせず、「自分はどうすべきか?」とアナに判断や指示を仰ぐ。
本編では、このシーンは、ほんの2秒ほどで、注意して観ていなければ気づかないレベル。しかし、クリスティンが説明した事実を踏まえたうえで観察してみると、確かに、その瞬間、クリストフは、愛する女性であるアナを信じ、すべての選択肢を委ねている。
男性の観客へのメッセージ
以前、往年のディズニー映画とフェミニズムについて、王子様が寝ている女性に許可もなくキスをする『白雪姫』は「子どもたちに間違ったメッセージを送る」とコメントしたこともあるクリスティン。
そんな彼女は、『アナと雪の女王2』でのクリストフの立ち位置に、大きな進歩を見出したようで、続編ではナイーブな一面も垣間見せるクリストフの声を担当した、俳優のジョナサン・グロフの迫真の声の演技を絶賛しつつ、こうコメント。
「私たちは女性のエンパワーメントについて表現しているし、この作品は女性キャラクター2人を中心にしたもの。でも、私個人としては、クリストフという男性の描かれ方こそが、卓越していると感じた。サブリミナルメッセージのようだから、観客の皆さんがちゃんと気づいてくれるかどうかもわからないけど、あのシーンは、本当に素晴らしいの」
クリスティンが「劇中で一番重要なセリフ」と語った該当のセリフも然り、同作には細部にわたって、女性を輝かせるための工夫とアイディアが散りばめられているだけでなく、男性が世間から押し付けられている、「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」(※3)と呼ばれるステレオタイプにも斬り込んでいる。
※3 「男はつねに強くあれ」、「男たるもの涙は見せるな」、「女々しいことはするな」と、古くから残る“男らしさ”の既成概念を押しつけること。
それは、作品のメインターゲットである幼い女の子たちだけでなく、男の子の観客や、子供たちと一緒に劇場を訪れる父親たちにも向けられたメッセージでもある。
女性が主役の『アナと雪の女王2』だが、彼女たちを支える男性キャラクターたちの姿勢や言動にも注目して観てみると、さらに興味深い発見があるはず。(フロントロウ編集部)