女性アーティストたちをエンパワー
シンガーのテイラー・スウィフトが米Billboardが毎年恒例で主催している、その年最も音楽界に大きな功績を残した女性たちを称えるイベント、ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(Billboard Women in Music)で、特別賞の「ウーマン・オブ・ザ・ディケイド」を受賞。
自身の30歳の誕生日という記念すべき日に、過去10年間、つまり、2010年代に最も秀でた活躍を見せた女性アーティストに贈られる名誉ある同賞を受賞したテイラーは、授賞式で15分間におよぶロングスピーチを披露した。
音楽業界でしのぎを削る女性アーティストたちを取り巻く様々なしがらみや、女性だからという理由で向けられる世間からの厳しい視線、性別を理由に正当な評価を得にくいことなどにも言及したテイラーは、まだまだ改善の余地があるそんな環境でも、音楽への愛を胸に世界中の人々に素晴らしい歌を届けようとベストを尽くしている女性アーティストたちを名指しにして称賛。
シンガーのラナ・デル・レイやヘイリー・キヨコ、ホールジーやカミラ・カベロ、ノーマニ、H.E.R.(ハー)ら、数々の尊敬するアーティストの名前を口にしたテイラーは、逆風に立ち向かう自らを含む女性アーティストたちが培わざるを得なかった強さについてこう表現した。
彼女たちは挑戦に応じ、苦難を受け入れました。私たちは、まるで、自分たちを押し潰そうとするプレッシャーを逆手にとって、(絶対に砕けない)ダイヤモンドへと進化したようです
さらに、テイラーは、同イベントでウーマン・オブ・ザ・イヤー2019賞を受賞した17歳のシンガー、ビリー・アイリッシュや第62回グラミー賞に最多8部門でノミネートを果たしたシンガーのリゾ(Lizzo)ら、今後ますます頭角を現すであろう、自身が注目する次世代の女性アーティストたちの名前も挙げて、女性たちのさらなる活躍を激励した。
音楽界に根強く残る性差別に抗議
その一方で、テイラーは、16歳でデビューしてから現在までに、もし自分が男性だったなら、経験することはなかっただろうと感じる扱いを重ね重ね受けてきたことを告白。
「この業界には、女性たちに対して、つねに懐疑的な眼差しを向ける人たちがいます。『この子は本当にこの場にいる権限があるのだろうか?』、『成功したのは男性プロデューサーや共同製作者のおかげなんじゃないか?』、『レコード会社の戦略が良かったんじゃないか?』と」と、女性だというだけで個人としての能力を正当に評価してもらえないことがあると説明した。
さらに、テイラーは「ある男性アーティストについて、誰かが『彼の曲は好きだけど、どういうわけか、彼のことは好きになれないんだよね』と言うのを、みなさんは聞いたことがありますか?…ありませんよね。それらの批評は、私たち(女性アーティスト)だけに向けられるものなのです」と、男性アーティストたちと比べて、女性アーティストは、世間から理由すらよくわからない反感を持たれがちだと指摘。
「この音楽業界には、女性の成功について、勝手に“理由づけ”しようとする人がたくさんいることに気づきました。そして、それに気がづいたことによって、私の中の何かが変わったのです。この10年間、私は、私を中傷する人たちの“鏡”となりました。彼らが私にはできないだろうと判断したことをやってのけ、彼らの批判はすべて風刺として楽曲に取り入れ、インスピレーションとなる音楽を作ってきました」と語り、自身がこれまでに発表した「ミーン」や「シェイク・イット・オフ」、「ブランク・スペース」といったヒット曲が、性差別的な視線を向ける人々への反抗心から生まれたものだとも明かした。
渦中の騒動に絡めて業界の「男性優位」体質を斬る
スピーチの終盤では、自身がデビューから2018年末のレーベル移籍前までにリリースした初期のアルバム6作の原盤権が、長年にわたって因縁の関係にあったとされる音楽マネージャーのスクーター・ブラウンに前所属レーベルのビッグマシン・レコーズごと買収されてしまった件に言及し、「(買収は)私の承認も相談も同意もなしに行なわれました。スクーターは購入前、私や私のチームに対して相談の連絡などは一切してきませんでした」と発言したテイラー。
スクーターの買収に協力した複数の大手投資ファンドの名前を挙げて、まるで自分自身や自分の楽曲が、単なるお金儲けのコマのように扱われたと悲しみと憤りを露わにした彼女は、改めて、自分にも、自分の音楽を購入する機会が与えられるべきだったと語り、同アワードの会場には、“宿敵”であるスクーターを支持する人々もたくさん出席していることを認識したうえで、スクーターの人間性を擁護することで買収騒動の論点をすり替えようとする人々を「まるで有害な男性優位社会の定義のよう」と痛烈に批判した。
「私がアーティストたちや彼らが自分の音楽を所有する権利に関する重要な懸念を提起しているときに、『でも、彼はいつも親切にしてくれるよ』なんて言う人は、まったく分かっていません。もちろん、彼はあなたに親切にするでしょう。だって、この会場にいるということは、あなたは彼にとって有益な何かを持っているということですから」
自分自身の経験をもとに、女性アーティストたちにとってまだまだ不利な状況が続く音楽業界の悪しき風潮に毅然とした態度で物申したテイラーのスピーチは、「今まで聞いたなかで最も感銘を受けたスピーチ」、「ウーマン・オブ・ザ・ディケイドの受賞者にふさわしいパワフルな内容だった」と世間で絶賛されている。(フロントロウ編集部)