『マトリックス』主演のオファーを断る
1999年に公開された映画『マトリックス』は、俳優のキアヌ・リーブスの代表作。シリーズ3作の累計興収が1,500億円を超える、映画史に残るアイコニックな同作の主演は、今となってはキアヌ以外には考えられないが、制作当初は、たくさんの役者に主演のオファーの話が持ちかけられていたのは映画ファンの間では有名な話。
レオナルド・ディカプリオやニコラス・ケイジ、果ては、男性主人公のネオを「女性に変更してしまえばいい」というプランのもと、サンドラ・ブロックにも主演のオファーがあったというが、当時、一世を風靡していたブラッド・ピットにも、当然のごとく、お声がかかっていた。
『マトリックス』のプロデューサーであるロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは、「ブラッドからは一度、主演のオファーに「イエス」という返事を貰ったんだ」と2019年3月に行なわれた米The Wrapとのインタビューで告白。「でも、当時、映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』の撮影中だったブラッドには、それが終わった頃には『この役(ネオ)を引き受けるには疲れすぎてしまったよ』と断られてしまった」と明かしていた。
主演を断った「理由」を説明
そして、つい先日、今度は、ブラッド本人の口から、『マトリックス』への主演を辞退した本当の理由が語られた。
レオナルドと共演した映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』での演技が高く評価され、ゴールデン・グローブ賞や全米映画俳優組合賞(SAG)といった栄誉あるアワードの助演男優賞を立て続けに受賞したブラッドは、サンタバーバラ国際映画祭(SBIFF)で功労賞であるモダン・マスター賞を受賞。
同イベントのトークコーナーで、「これまでにオファーを断った映画を教えて欲しい」とのリクエストに、「1つだけ、1つだけだよ…」と言いながら、『マトリックス』について言及した。
「自分がやるべき役ではなかったと今でも信じてる。あの役は僕のじゃなかった。ほかの誰かがあの役をやって、作品を作るべきだと思ったんだ。本当にそう信じてる。でも、『マトリックス』はパスしたね。赤い錠剤を飲んだんだ」
この「赤い錠剤を飲む(take/ swallow the red pill) 」という言葉は、じつは『マトリックス』から誕生したスラング。
同作には、主人公のネオが反乱組織のリーダーであるモーフィアスに、青い錠剤か赤い錠剤のどちらを飲むか選択を迫られる場面が登場する。
「青を飲めば、ここで終わる。ベッドで目覚め、あとは自分が信じたいものを、好きに信じればいい。赤を飲めば、このまま不思議の国の正体をのぞかせてやろう」と告げられたネオは、結局、赤い錠剤を選び、居心地の良い幻想から目覚めて過酷でつらいこの世の真実を知ることを選択する。
このことから、「赤い錠剤を飲む」という言葉は「厳しく辛いものであっても現実を直視する」、「現実を悟る」、「真実に目覚める」といった意味合いで使われるようになった。
逆に「青い錠剤を飲む」という表現には、「現実から目を逸らす」といった意味があるが、こちらは使用頻度が少ない。
そんな『マトリックス』から誕生したスラングをあえて使い、同作の主演を蹴った理由を「自分がやるべき役ではないと悟った」と説明したブラッド。ウィットに富んだ彼の発言には、その後、ネオ役を引き受けて同作を大成功へと導いたキアヌや制作陣への敬意が込められているようにも受け取れる。
ブラッドと同じく『マトリックス』への主演を断ったウィル・スミスは、以前、自身のYouTubeチャンネルで公開した動画の中で、もしも時間が戻せるなら、「クソ野郎、なんで『マトリックス』を引き受けなかったんだよ!」と昔の自分に言ってやりたいとユーモアたっぷりに後悔を口にしていたが、ブラッドに関しては、ネオ役を見送ったことへの後悔はなさそう。(フロントロウ編集部)