「さりげなさすぎる抗議」にクレーム
第92回アカデミー賞のレッドカーペットに“ノミネートされなかった”女性監督たちの名前の刺繍が入ったケープを着用して登場し、同アワードの主催者やハリウッド映画界の男性優位体質にさりげなく抗議した俳優のナタリー・ポートマン。
前年のゴールデン・グローブ賞での男性至上主義体質に警鐘を鳴らす強烈なディス発言に続き、またしても女性クリエイターたちにチャンスが与えられにくい映画界の現状に衣装を通じて物申したナタリーの行動には、世間から大きな注目が集まり、「勇敢だ」、「素晴らしい」と称賛の声が上がった。
しかし、そんな彼女の抗議の仕方にクレームをつけるある女性が出現。それは、「#MeToo」や「#Time’s UP」といったセクハラ撲滅運動の先導者の1人であり、ハリウッドを震撼させたセクハラ・レイプ騒動の元凶であるハーヴェイ・ワインスタインから受けたレイプ被害を著書『Brave(ブレイブ)』の中で告白している俳優のローズ・マッゴーワン。
ローズはフェイスブックへの長文投稿の中で、ナタリーがアカデミー賞で行なった無言の抗議について、自身にとっては「非常に侮辱的」であり、「まるで詐欺」、「『勇敢』と呼ぶべきではない」、「彼女は女性の権利について心配している女性の役柄を演じているだけ」とかなり強めの口調で批判。
セクハラ撲滅運動や女性の権利向上運動のデモなどの最前線で声を上げ、人生をかけて戦っているローズにとっては、ナタリーの行動は不十分だと感じたようで、Aリストセレブであり、自分よりも知名度も影響力もあるナタリーなら、洋服に女性監督の刺繍を入れて抗議するという控えめな方法ではなく、もっと直接的な方法で一石を投じることができるはずだと綴った。
ナタリーが反応 持論を展開
女性監督への支持を示したナタリーが、これまでのキャリアにおいて、実際にはたった2人の女性監督の映画にしか出演したことがなく、しかもそのうちの1人がナタリー自身であるという事実も持ち出し、「あなたとあなたの仲間の女性の役者たちが、ちゃんと本気を出すまで、活動家になりすますかようなケープはしまっておきなさい。似合ってないわよ」と痛烈なコメントで締めくくったローズ。
この挑発的な批判に対し、ナタリーは米Peopleへの声明を通じて、「ミス・マッゴーワンに同意します。確かに私の行動を『勇敢』と呼ぶのは適切ではないと思います。『勇敢』とは、ここ数週間のうちに、信じられないほどのプレッシャーのもとでハーヴェイ・ワインスタインからの被害を法廷で証言した女性たちを称賛するために使われるべき言葉です」とコメント。世間から自身への評価は身に余るものだと認めたうえで、セクハラ訴訟に参加している被害者たちの勇気を称えた。
ローズから指摘された、自身が「過去に2人の女性監督としか映画を制作したことがない」という事実についても認めたナタリーは、「これまでの長いキャリアにおいて、女性監督と仕事をするチャンスを与えられたのはほんの数回だけでした」と語りつつ、それでも、長編映画ではなく、短編作品やテレビコマーシャル、ミュージックビデオでは、女性監督と一緒に仕事をしてきたと説明。
自身がこれまでにタッグを組んだマーヤ・コーエンとのフィーチャー、ミラ・ナイール、レベッカ・ズロトヴスキ、アンナ・ローズ・ホルマー、ソフィア・コッポラ、シリン・ネシャットといった女性クリエイターたちの名前を列挙した。
さらに、これまで自分自身が制作しようと試みた映画の中には、日の目を見ずにお蔵入りになってしまった作品がいくつもあることも明かしたナタリー。最後に、女性監督たちが日々直面している苦難について改めてこう語り、声明を締めくくった。
「私は、これまで何度か女性監督たちの作品への起用を手助けしたことがありました。でも、職場での条件の悪さゆえに、彼女たちは、その作品から手を引かざるを得なくなってしまったのです。女性監督たちによる作品は、無事完成したとしても、今度は映画祭へのエントリーや配給に関して困難に直面したり、アワードが獲得しづらいといった難関にぶち当たります。なぜなら、彼女たちの行く手を阻む人がありとあらゆる場所に立ちはだかっているからです」
「私が言いたいのは、(少なくとも今回の一件で)私は“挑戦した”ということです。そして、これからも、挑戦しつづけます。成功はしなかったかもしれないけど、私は、私たちが新たな時代へと1歩ずつ近づいているという希望を抱いています」
ナタリーは、抗議の仕方は確かにパンチには欠けるものの、さりげなくても、続けることこそに意味があると示唆した。(フロントロウ編集部)