『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花選手が5月23日に亡くなったことで、彼女が生前、多くの誹謗中傷を受けていたことが問題となっている。過去に関係者が3名死去しているイギリスの恋愛リアリティ番組『Love Island(ラブ・アイランド)』の出演者も、亡くなる直前にインターネット上での誹謗中傷に声を上げていた。(フロントロウ編集部)

リアリティ番組に求められる出演者へのサポート

 『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花選手が22歳で死去したことを受けて、インターネット上での無責任な誹謗中傷が問題となっている。リアリティ番組の出演者や、多くの著名人にまとわりつくオンラインでの誹謗中傷は、日本以外でもたびたび問題となっており、サポート体制の充実や、法整備が求められている。

 イギリスで2015年より放送が開始された恋愛リアリティ番組『ラブ・アイランド』は非常に人気で、現在もシリーズは続いている。しかしこれまでに、その出演者が3名自死している。

 『ラブ・アイランド』2020年シーズンのメンバー。

ネガティブなコメントのほうが影響力を持つ

 2016年に番組に出演し、2018年に32歳で命を絶ったソフィー・グラドンは、元々は2009年のミス・イギリス。がんなどを抱える子供たちへの慈善活動に熱心だったけれど、『ラブ・アイランド』出演後にインターネット上での誹謗中傷に悩むことになる。しかし自死した当時、彼女には真剣交際中の恋人もおり、彼女の友人は「ソフィーは人生で1番幸せな時期かと思っていた」と英The Sunに話していた。ソフィーの遺体の第一発見者となった彼女の恋人は、その20日後に彼女の後を追って自死している。

 ソフィーは過去に英Radio Aireのインタビューで、オンラインいじめの経験についてこう語っている。

画像: ネガティブなコメントのほうが影響力を持つ

「(インターネット上での誹謗中傷は)その規模が、多くのフォロワーからの、かなりの数のコメントだった時にはひどいものだよ。たまに読みに行ってしまうこともあった…、ネガティブなコメントはかなり多い。彼らは外見や話し方についてコメントしてくる。たった45分見ただけのテレビ番組の中のあなたについて意見してくるの。そして過酷な現実だけれど、(インターネット上の誹謗中傷は)誰かを自死に追い込むこともある。メディアを見てれば分かるけど、それが起こってること。誰かの死の原因になるなんて、想像できる?」

 また、自死する2ヵ月ほど前に、イギリスのリーズで開催されたオンラインいじめに関するカンファレンスに出席していたソフィーは、インターネットがある環境で育つ子供たちへの影響を危惧し、自身の心境も語っていた。

「9歳という幼い子供たちが、命を絶っています。オンラインいじめは、直接のいじめと同じくらい、時にはそれよりひどいくらい破壊的です。それによって人は傷つき、安心感をなくし、動揺します」

「番組を卒業した時、私に対してネガティブなものが集中したせいで、すごくすごく暗いところへ落ちていきました。ポジティブで、すごく良い人たちもいましたが、いつでもポジティブなものよりネガティブなものに気を取られてしまいました。その人たちが私について言っていることは真実なんだと信じ始めました」

ネガティブな影響は番組を卒業しても続く

 このカンファレンスには『ラブ・アイランド』の共演者であるザラ・ホランドも出席しており、ザラもまた、長年メンタルヘルスの問題を抱えていることを公言している。『ラブ・アイランド』の制作陣は、出演者に適切なメンタルヘルスのサポートを行なってきたと発表しているけれど、彼女は、ソフィーが死去した後に英The Sunにこう話している。

画像: ネガティブな影響は番組を卒業しても続く

「私は人間性が変わってしまいました。出かけたくなかったし、社交的になれなかった。『ラブ・アイランド』を卒業してから、制作陣が私に連絡してくることはなかった。誰からも。でも『ラブ・アイランド』はこの前、(卒業してからの)この2年で初めて連絡してきて、私は大丈夫かって聞いてきた。おもしろいね。彼らは(ソフィーの自死という)悲惨なことが起こった今、私に電話してきた。彼らは有名税だっていう。でも10年の期間では見ないでしょ。結婚して子供を授かったとしても、残りの人生ずっと追われることになるのに」

出演者への心的サポートを義務化して

 出演者へのサポートの不足は、2017年に同番組に出演していたマイク・タラシティスが、2019年に26歳で自死した際にも、多くのリアリティ番組経験者から指摘された。『Celebrity Big Brother(セレブリティ・ビッグ・ブラザー)』への出演で知られるローレン・グッドマンは、マイクの死を受けてツイッターで『ラブ・アイランド』へのメッセージを直接送った。

「オーディションを続ける前に、メンタルヘルスのサポートの義務化を決めてください。『必要であれば、私たちはサポートします』ではなく。リアリティ番組のせいで、かなり多くの人が死にかけているんですよ。行動してください。変化が必要です。さらに何人が(犠牲なるの)?」

画像: マイク・タラシティス

マイク・タラシティス

 また、イギリスの半リアリティ(※)番組『The Only Way is Essex(ジ・オンリー・ウェイ・イズ・エセックス)』のマリオ・ファルコーネは、マイクの自死を受けて、自分も自らの意思で薬のオーバードーズ(過剰摂取)をしたことがあると告白。マイクとも親交があった彼は、英BBCにこう語っている。
 ※出演者は本人で脚本もないが、制作側によってある程度は物語の筋道が立てられている。

「(マイクのニックネームである)“マギー・マイク(暑苦しいマイク)”の呼び名は彼をそこまで困らせなかったと思う。なぜなら、SNSにはそれ以上にひどいものが飛び交っていたからね。半年とか1年という期間で一般人からいきなりセレブリティになって、“あの番組の男”になるのは、すごく多くのことに折り合いをつけなくちゃいけないんだ」

メディアの在り方も問われている

 『ラブ・アイランド』の司会を番組開始当初から務めていたキャロライン・フラックも、2020年に40歳で自死している。キャロラインの場合は、彼女の私生活の問題がメディアで取り沙汰され、大きなバッシングを受けていたことが自死の原因にあるけれど、彼女の死後はメディアの在り方に大きな批判が集まった。その後いくつかの署名活動が開始され、メディアによる嫌がらせ(メディア・ハラスメント)やメディアによるいじめを法的な犯罪とすることを求める「Caroline’s Law(キャロラインの法律)」の施行を求める署名には、85万人以上が賛同した。

画像: キャロライン・フラック

キャロライン・フラック

 リアリティ番組では、それまで一般人だった出演者が、一夜にして全国的な知名度を得ることになる。多くの著名人にもかかりつけのカウンセラーがいることは少なくないけれど、人生がまるごと変化することになるリアリティ番組の出演者には、本人の自覚がなくとも心的サポートを受けさせるべきだという声も少なくない。

 また、リアリティ番組では視聴者を飽きさせないために、過激な展開に焦点が当てられることが多い。一部だけを切り取って視聴者に見せ、インターネット上での誹謗中傷をあおる番組構成にも問題があるという指摘の声は多い。そして番組内で問題があった場合に、適切な“批判”ではなく、無責任に匿名でストレス発散かのように誹謗中傷を行なうインターネットユーザーに対しては、これまで以上に厳格な法的処分が求められている。

 イングランドとウェールズでは2016年から、オンラインでのモラハラ、名誉棄損的なハッシュタグを作ったユーザーや、ターゲットを恥ずかしめるような編集をされた画像を作ったユーザーを起訴できる厳しい法律が施行されている。当時の検察局長であるアリソン・サンダース氏は、これは「表現の自由を鎮圧するものではない」としたうえで、BBC Radio 4の『Today(トゥデイ)』でこう語っている。

「もしあなたが人に対してひどく攻撃的であれば、オンラインでのいじめや嫌がらせであろうと、それが対面でなされた時と同様の方法で起訴します」

(フロントロウ編集部)

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