「アーバン」をめぐる批判
現地時間5月25日にアメリカ・ミネソタ州で、警官によって路上で約9分間も首を膝で圧迫され続け殺害されたジョージ・フロイドの死がきっかけとなり、アメリカを皮切りに、ここ日本やヨーロッパなど、世界各国で人種差別に抗議するためのブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動が行なわれている。
黒人差別を撤廃しようという動きが広がっているなかで、音楽界では、「アーバン」というジャンルが改めて問題視され始めている。米Billboardによれば、「アーバン」というジャンル名はニューヨーク出身のラジオDJであるフランキー・クロッカーが1970年代半ばに自身のかける音楽を紹介する際に「アーバン・コンテンポラリー」というフレーズを使い始めたのがきっかけに広がったジャンルで、それが後に省略されて「アーバン」として使われるようになったものだそう。
「アーバン」は都会的なイメージのある音楽を指す言葉であった一方で、次第に黒人ミュージシャンや彼らの作品を一括りにまとめたジャンル名として使われるように。今年開催された第62回グラミー賞において、最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞にノミネートされた作品はすべて有色人種のアーティストの作品となっている。
黒人アーティストを一概に「アーバン」というジャンルでくくろうとする風潮には多くの批判が寄せられており、アーティストのタイラー・ザ・クリエイターも今年、第62回グラミー賞授賞式でアーバンをめぐる現状を批判。最新アルバム『IGOR』で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞したタイラーは受賞後、グラミー賞におけるカテゴリー分けについて、「ウンザリするのは、俺みたいなルックスの奴がジャンルをまたがるようなことをやったとしても、常にラップかアーバンのカテゴリーにくくられるということ。『アーバン』という言葉は好きじゃないんだ。俺には単に、Nワード(※1)をポリコレ的(※2)に言っただけに聞こえる」と苦言を呈していた。
※1 黒人の蔑称のこと。
※2 政治的/社会的に中立な言葉や表現を心がけること。
その後、ビリー・アイリッシュもタイラーの意見に同意するとして、「カテゴリーというものがずっと嫌いだった」とした上で、「『“白”っぽい見た目だね』って言われるのがすごく嫌い。“白”っぽいサウンドだね、とか。タイラーが言ったことはすごくクールだと思う。その言葉については彼に同意する」とインタビューで批判。「見た目や服装でアーティストを判断しないでほしい。グラミー賞でリゾが最優秀R&B部門にカテゴリーされていたよね?何が言いたいかって、彼女は私よりもポップだと思うの」と、今年のグラミー賞でリゾがポップではなくR&B部門にカテゴリーされていたことにも疑問を投げかけていた。
リパブリックが「アーバン」の撤廃を表明
そんななか、米3大メジャーレーベルの1つであるユニバーサル・ミュージック・グループ傘下のリパブリック・レコードは先日、「部門や従業員の肩書、音楽のジャンル」で「アーバン」という言葉を今後使用しないことを表明した。
リパブリック・レコードはすぐに「アーバン」という言葉を削除するとした上で、「過去の古い構造に固執するのではなく、私たちの望む未来を形作ることが重要なので、音楽業界の他の方々もこの動きに続いてくれることを推奨します」と述べ、音楽業界全体として自分たちの決定に続いていってほしいと呼びかけた。
リパブリック・レコードは「アーバン」というジャンル名の不使用を宣言したのみならず、リパブリック・レコード・アクション・コミッティ(Republic Records Action Committee)と名づけられた組織を立ち上げ、社会的な公正に取り組んでいくことを表明。また、ユニバーサル・ミュージック・グループとして合計約27億5,000万円(2,500万ドル)を人種差別問題に取り組む複数の慈善団体に寄付することも発表した。
リパブリック・レコードにはアリアナやテイラーのほか、ドレイク、ヘイリー・スタインフェルド、ジョナス・ブラザーズ、ニッキー・ミナージュ、ポスト・マローン、ザ・ウィークエンドらが所属している。(フロントロウ編集部)