イドリス・エルバが表現の自由について語る
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』や『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』、『キャッツ』などに出演し、多くのファンを持つイギリス人俳優のイドリス・エルバ。黒人である彼は、キャリアをスタートさせる前に多くの困難を乗り越えてきた経歴があり、アメリカから世界に広がった黒人の人権を訴えるBlack Lives Matter/ブラック・ライヴズ・マター(以下、BLM)運動に賛同している。
一方で、BLMの広がりを受けていくつかの番組が、過去に放送した黒人差別的な内容や表現を含むエピソードを取り除いたことに関しては、様々な思いを抱えているよう。英Radio Times誌のインタビューで、こう語った。
「表現の自由は心から信じている。しかし、表現の自由の問題点は、それは全員には適さないということだ。だから、年齢制限があるんだろう。特定の内容は、U、PG、15、18、X…ですよと言うだろう。Xが何なのかは知らないけどな。
真実を笑うためには、まず真実を知らなくてはならない。でも作品の中の人種差別的なテーマをチェックするには、そしてそれを取り除くためには…、待ってくれ。思うに、視聴者はそのようなものが作られたということを知るべきだろう。
この時代、そしてムーブメントに敬意を示して、委員や過去の作品を管轄する人々が、この時代にはとくにそぐわないと思われる作品を取り除くのは理解できるし、良いことでもあると思う。でも個人的には、さらに進んで行くためには、表現の自由は受け入れられていると知るべきでもあると思う。でも視聴者は、これから何を見るのか知るべきだ。俺は検閲は信じていない。自分たちが言いたいことを言えるよう許されているべきだ。結局、俺たちは物語の作り手なのだから」
表現の自由はあるけれど、すべての人に適さない内容はある。しかし表現の自由はあるからこそ、それを取り除くのではなく、年齢制限などの制約をつけるべきだという意見が、話しているうちに自分自身の頭の中でも展開されていった様子のイドリス。
表現の自由をめぐっては、人権や政治、哲学、宗教など、多角的な観点から議論が交わされており、イドリスの意見に関しても様々な反応がよせられているが、彼は物語の作り手として、そう意見を述べた。
あの名作も配信停止の代わりに解説動画を制作
イドリスが言うように、人種差別的内容を含む作品で、配信を止める代わりに背景の説明をする動画を本編前に取りつけた作品はある。HBO Maxで配信されていた1939年の不朽の名作『風と共に去りぬ』は、黒人奴隷制度を肯定しているとして、長きにわたって批判されてきた。
アメリカ南部の“古き良き時代”に思いを馳せる本作だけれど、“古き良き時代”は多くの場合、女性や被差別人種、貧困層などにとっては良き時代ではなかった。しかし一方でその文化的重要性は評価されているうえ、もし作品をなかったことにしてしまえば、その歴史自体が消えてしまう。本作でメイドを演じたハティ・マクダニエルは、黒人として初めてアカデミー賞を受賞したにもかかわらず、当時のアメリカでは人種隔離政策が実施されており、授賞式で共演者たちと同じテーブルに座ることを許されなかったという歴史も、この作品の裏にはある。
そのような背景から、BLMのあとにHBOMaxは『風と共に去りぬ』の配信を一時停止。歴史を説明する動画を制作したうえで、配信を再開した。(フロントロウ編集部)