大坂なおみがマスクで伝えるメッセージ
テニスの大坂なおみ選手が、9月1日に全米オープンに登場した。この日、大坂選手は黒いマスクをつけてコートへ。そのマスクには、ある女性の名前が書かれていた。
「BREONNA TAYLOR(ブリオナ・テイラー)」
大坂なおみが掲げた「ブリオナ・テイラー」とは
ブリオナ・テイラーは、アメリカのケンタッキー州ルイビルで救急救命士として勤務していた26歳の女性。新型コロナウイルスの感染拡大が始まるなか、医療従事者として社会を支えていた。しかし3月13日の真夜中の12時過ぎに、3名の警官が彼女の家に入り、就寝中の彼女に8発の銃弾を浴びせて死亡させた。当時家にいたブリオナの恋人は警官に対して1度発砲している。
しかし、そもそも警官は、ブリオナやその恋人を追っていたわけではなく、麻薬取引に関与した別の容疑者を追っていた。その容疑者が住んでいたのは別の住宅であり、さらにその人物は当時、すでに逮捕されていた。つまり、ブリオナは警察側の手違いで命を失ったことになる。
ブリオナの恋人は、1度発砲したことについて、強盗が押し入ってきたと思ったと話している。警官は、ブリオナの家に入る前にノックをしたと主張したが、ブリオナの恋人も近隣住民もノックの音はしなかったと証言している。これをうけて、警察が事前に家のドアをノックすることなく突入することを禁じる「ブリオナ法」が6月12日に可決された。
しかし、ブリオナの死に関わった3名の警官は誰1人として逮捕されていないうえ、解雇もされていなかった。6月中旬に、シンガーのカーディ・Bやアリシア・キーズ、ビヨンセなど、数多くのセレブが警官の逮捕を要求し、SNSでは、「#SayHerName(彼女の名前を言って)」「Do you know what happened to Breonna Taylor?(ブリオナ・テイラーに何があったか知っていますか?)」といったハッシュタグが拡散された。そして、6月23日に3名の警官のうち1人が解雇されたと、ルイビル警察が発表。しかし他の2名に関して変化はなく、そしていまだに誰1人として罪に問われていない。ブリオナの家族は、警官3名に対して裁判を起こしている。
その後もブリオナへの正義を求める声は続いており、アメリカで絶大な支持を誇るオプラ・ウィンフリーによる雑誌「O, The Oprah Magazine」や、「Vanity Fair」などは、ブリオナの写真やイラストを表紙に起用した。
大坂なおみ、意思を表明し続ける
大坂選手が、黒人差別に声をあげるのは初めてではない。8月27日には、「私はアスリートである以前に黒人女性です」とコメントし、ウエスタン・アンド・サザン・オープンの準決勝の出場を辞退することを発表。しかし、大坂選手の意思を理解したウエスタン・アンド・サザン・オープンが、8月27日に予定されていた試合をすべて延期。その後、WTA(女子テニス協会)が大坂選手に準決勝への出場を打診し、大坂選手も、出場することで抗議の意をさらに広く表明することができると、準決勝へ出場した。
そして全米オープンには、警官に殺された黒人の名を記したマスクをつけて登場した大坂選手。試合に勝利した後応じたインタビューでは、「じつは7枚持っています。7枚のマスクでは、(被害者の)名前を刻むのには足りないことはかなり悲しいことですが、決勝へ進んで、7枚すべてを見せられると良いですね」と明かした。
7 masks, 7 names.
— US Open Tennis (@usopen) September 1, 2020
If Osaka reaches the final we will see them all. #USOpenpic.twitter.com/jmARabKhae
(フロントロウ編集部)