警官に手違いで射殺された黒人女性のブリオナ・テイラー。その遺族が警察に対して起こしていた裁判における取り決めが発表されたが、警官3名はいまだ逮捕されていない。(フロントロウ編集部)

就寝中に射殺された黒人女性

 2020年3月13日真夜中の0時すぎ、就寝中に3名の警官に8発の銃弾を浴びせられて殺された26歳の黒人女性ブリオナ・テイラー。新型コロナウイルスのパンデミックの中、アメリカのケンタッキー州ルイビルで医療従事者として人々の命を救っていた救急救命士の彼女は、手違いで警察に殺された。当時警官はある別の容疑者を追っていたけれど、間違えてブリオナの家に入り、強盗と誤解した彼女の恋人が発砲。それに対して警官3名が25発以上を発砲したため、ブリオナが命を落とした。この時に、警官が住宅に入る前にノックをしていなかったと見られることが問題となり、その後6月12日に、警察が事前に家のドアをノックすることなく突入することを禁じる「ブリオナ法」が可決された。

画像: 就寝中に射殺された黒人女性

 黒人の人権を叫ぶBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)運動が起こってから、2020年5月25日に黒人男性ジョージ・フロイドを窒息死させた警官と、現場に居合わせた警官3人が逮捕・起訴された。また、2020年2月23日に黒人男性アマード・アーベリーを射殺した元警官とその息子、そしてその様子を後ろから撮影していた男が逮捕された。

 しかし、ブリオナの事件に関与した3名の警官は逮捕されていない。

ブリオナの遺族が警察に対して裁判を起こす

 ブリオナの家族は警察とルイビル市を相手取った裁判を起こしており、この度、市側が遺族に1,200万ドル(約13億円)を支払うこと、警察官が自身の担当地域に住むことを誘発するために住宅融資プログラムを立ち上げること、特定の警察の活動にソーシャルワーカーの協力を得ること、裁判所に捜査令状の許可を求める前に司令官の確認と許可を必要とすることなどが決定。

 記者会見でブリオナの母親は、警察の体制を変える取り決めがなされたことについてコメントしている。

画像: ブリオナの母親。

ブリオナの母親。

「ブリオナのための正義とは、彼女の名誉のためにも他の命を救い続けることです。お金ではそれを成し遂げることは出来ません。しかし、この(警察との)取り決めの一部として、警察が様々な基準を改変することを進められたことは、私達家族や地域のコミュニティ、そしてブリオナのレガシーとしてとても意味のあることです」

 しかし、事件に関わった3名の警官が逮捕されていない事実は変わらない。さらにルイビル市のグレッグ・フィッシャー市長は、今回の取り決めは、不正行為 があったこと認めているわけではないと強調している。社会の構造に組み込まれた有色人種への差別や不正義に対して行動を起こしている団体Until Freedomは、このようにコメントしている。

「どれだけのお金があってもブリオナ・テイラーが戻ってくることはありません。この取り決めは、悲しみに暮れる母親のために出来る最低限のことだと捉えています。町は彼女に何かをしてあげたわけではありません。正義はお金で与えられるものではない。彼女の殺人に関わった人々が逮捕され、罪に問われることが必要です。私達には説明責任が必要です。私達には正義が必要です」

多くの著名人が警官逮捕を求めている

 6月23日に、ブリオナの殺害に関わった警官のうち1人が解雇された。しかし、3人の逮捕を求める声は強い。彼女の遺族と警察の取り決めが発表された2日前に開催されたF1トスカーナGPで、ルイス・ハミルトンは「ブリオナ・テイラーを殺した警官達を逮捕せよ」と書かれたTシャツを着用。背中には、「彼女の名前を言って」という文字とともに、ブリオナの写真が印刷されていた。

画像1: 多くの著名人が警官逮捕を求めている
画像2: 多くの著名人が警官逮捕を求めている
画像3: 多くの著名人が警官逮捕を求めている

 「# SayHerName(彼女の名前を言って)」「# Do you know what happened to Breonna Taylor?(ブリオナ・テイラーに何があったか知っていますか?)」というハッシュタグは、以前からインターネットで拡散されており、シンガーのアリシア・キーズやカーディ・B、米女子サッカー代表キャプテンのミーガン・ラピノーや俳優のジェニファー・アニストンなど、多くの著名人がハッシュタグとともに、警官の逮捕を求めている

 また、警官が逮捕されないまま時間が過ぎ、彼女の事件が忘れられないよう、北米男子プロバスケットボールリーグNBAの選手達は、インタビューでたびたび彼女について触れている。

 そして、アメリカで絶大な支持を誇るオプラ・ウィンフリーによる雑誌「O, TheOprah Magazine」は初めてオプラ以外の女性を単独で表紙に起用し、「Vanity Fair」は9月号の表紙にブリオナのイラストを採用した。(フロントロウ編集部)

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