少女が月への旅行に挑むアニメ『フェイフェイと月の冒険』
2020年10月23日にNetflixで配信予定のアニメ『フェイフェイと月の冒険』が注目を浴びている。本作は、月への旅行に挑む少女のミュージカルアニメ。
主人公は月で真実の愛を待ち続けているという神話に登場する女神、チャンウーに憧れ続けているフェイフェイ。科学が大好きな彼女は、家族を巡る様々な悩みを抱えつつも女神の伝説を証明するために、ロケットを自作し、ウサギのバンジーとともに月へと向かうことを決意。たどり着いた月世界には、不思議な国や幻想的な生き物たち、そして思いがけない冒険が待ち受けていた。
本作の監督を務めるのは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで40年近く第一線で活躍し、アニメ『リトル・マーメイド』ではアリエルのキャラクターデザイナー、『美女と野獣』『アラジン』『ターザン』ではスーパーバイジング・アニメーター、『塔の上のラプンツェル』では製作総指揮も務めてきた伝説のアニメーター、グレン・キーン。
フェイフェイの声優を務めたのは、仮歌のレコーディングメンバーから主役に大抜てきされたというキャシー・アン。さらに、ミュージカル『ハミルトン』で16年トニー賞ミュージカル主演女優賞へノミネートを果たしたフィリッパ・スー、映画『スター・トレック』シリーズのジョン・チョー、ドラマ『キリング・イヴ』のサンドラ・オーを含む、数々のアジア系俳優が名を連ねている。
そんな本作は、アジア系のレプリゼンテーションをしっかり描いているとして注目を集めている。
高めている作品
アジア系のレプリゼンテーションを意識した描いたアニメ
「レプリゼンテーション」とは、“表現・代表”という意味を持つ言葉。ドラマや映画、広告では、長年にわたってマイノリティが登場しにくい・登場してもステレオタイプで描かれやすいという、“レプリゼンテーションが低い”状態にあった。しかし近年は、黒人、アジア系、女性、同性愛者、トランスジェンダー、障がい者など、多種多様な人間を描くことの重要性が認識されるようになり、メディアにおける様々な人物像のレプリゼンテーションが意識されるようになってきた。
2020年に開催されたエミー賞では、この「レプリゼンテーション」という言葉を多くの俳優が口にして、様々な人物を見てその人達の言葉を聞くことや、当事者以外が考えるその人たちのステレオタイプな人物像を描くのではなく、正しく本当の姿を描くことの重要性が語られた。
そんな中、オールアジア系キャストで配信されるアニメ『フェイフェイと月の冒険』は、 “本当のアジア文化を取り入れる”という思いが脚本段階から細かく意識されたそうで、レプリゼンテーションの高い作品として期待されている。
プロデューサーが語ったアジア系のレプリゼンテーション
プロデューサーのペイリン・チョウは、制作の初期段階であるボードアーティストが描いた一枚の絵をボツにしたという。その絵は、フェイフェイの両親が仲睦まじくキスしているイラスト。
しかし、中国文化に強くインスパイアされている同作において、両親が子供の前でキスをするという、中国では滅多に見ないシーンを登場させるのは違和感があると判断。台湾からの移民であるペイリンは、絵を見て「なんてこった、私は両親がキスをするところを見た事はない」と思ったと米NBCに語った。アジアの文化背景を尊重して、より忠実に登場人物を描く事に注力した同作では、ハリウッド映画で求められる西洋的な愛の表現に寄るのではなく、“アジア人らしい”方法で感情を表現することが、アジア人の真の姿を確実に表現する上で重要だったのだという。
また、画面上には顔の映らない声優陣にもアジア系俳優を起用した事について、「俳優たちの顔が画面上に映らなくても、俳優たちにはキャラクターの魂を体現している」と述べ、続けて「オハイオ州クリーブランド出身の白人が、中国の月の女神を演じるのとは全然違う。同じレベルで(役と)共感できるなんて思えない」と言った。
一方で、「この映画のおかげで、アイデンティティというものは曖昧な概念であり、厳密に定義することはできないことにも気づいた」とも話したペイリン。そして、「アジア人とアジア系アメリカ人のアイデンティティーを探求する機会は、今後いくらでもでてくるだろう」と彼女は言った。
そんなNetflixアニメ『フェイフェイと月の冒険』は、2020年10月23日に配信予定。(フロントロウ編集部)