近年問題視されている「キャンセル・カルチャー」
昨年、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスターロード役として知られる俳優のクリス・プラットが、「ハリウッドで最も不要なクリス」論争のなかで、クリス・エヴァンスやクリス・ヘムズワース、クリス・パインらに敗れて「最も不要なクリス」に選出されたことをご存知の方は多いかもしれない。
クリス・プラットは2020年11月にアメリカ大統領選を茶化すような言動をしたことなどが原因で、「ハリウッドを代表するクリスの中から除外されるべきだ」のような意見が相次いで寄せられてしまったのだけれど、近年、そうした「キャンセル・カルチャー」と呼ばれる、問題提起や解決の域を超えた集団の力での団体や個人に対する誹謗中傷の風潮が問題視されている。
キャンセル・カルチャーとは、著名人や企業によって“問題”だとされる発言や行動があったときに、その問題の原因究明や解決を議論するのではなく、SNSを中心に集団で批判してその人や団体を「抹殺(キャンセル)」しようとする風潮のことで、インターネット上に残っていた今とは時代の状況が違う昔の情報が掘り起こされたり、批判が誹謗中傷へ悪化してしまったりと、そもそもの問題からさらに大きな問題へと発展してしまうことも多い。
ローワン・アトキンソンがキャンセル・カルチャーに苦言
問題行動を起こしてしまった当人がそのことから学ぶことがとても大切なこと。さらに、SNSを使ったアクティヴィズムは、例えばMeTooの時のように、ひと昔前だったら見過ごされていた問題が世界的に注目されて変化を起こせるというパワーを秘めている。しかし最近では、解決や学習の機会が与えられないほどに誹謗中傷などがエスカレートしてしまうことも多く、問題に。そうしたなかで、映画『ミスター・ビーン』や、『ジョニー・イングリッシュ』シリーズなどで知られる俳優のローワン・アトキンソンが近年のキャンセル・カルチャーをめぐる問題に言及した。
英Radio Timesによるインタビューに応じたローワンは今回、「重要なのは、私たちの周囲には幅広い意見があるということなんだ。それなのに今の状況は、誰を燃やそうか探し回っている中世の暴徒たちのデジタル版みたいなものだよね」と、誰かをキャンセルしようとする人たちを「中世の暴徒」になぞらえ、「誰かがそういう暴徒の被害者になってしまうと思うと恐ろしいよ。未来には恐怖しかないように感じてしまうね」とコメント。
ローワンは「オンラインにおける問題は、アルゴリズムによって私たちが見たいと思うものを決められてしまうということで、そうなると、短絡的で二分化した社会に対する見方が作られてしまうんだ」と続けて語り、「つまり、『私たちの側』か、『私たちとは反対側』なのかということだよ。もしもそれに反してしまえば、キャンセルされることになるんだ」と、受け入れられない意見がキャンセルされることで、意見の多様性が失われてしまうことへの危惧を示した。
こうしたキャンセルカルチャーに対する懸念を表明したセレブはローワンだけでなく、ドラマ『アンブレラ・アカデミー』で知られる俳優のエリオット・ペイジも昨年、英Stylistとのインタビューでキャンセルカルチャーについて言及している。
エリオットはそのなかで、「重要なのはこういうこと。私たちはみんな、何かしら無知なところがあるの」と、すべての知識を持ち合わせている人など存在しないとした上で、「私たちは全員が学ばなければいけないわけで、私は大人になるにつれて、自分本位にならないように努力してきた。私たちは誰しも、学ばなければいけないことがあるんだから」と語り、受け入れられない意見をキャンセルするのではなく、誰しもに学ぶ余地があるということを前提に考える必要があると警鐘を鳴らした。(フロントロウ編集部)