※この記事にはDisney+ (ディズニープラス)のドラマ『ワンダヴィジョン』のネタバレが含まれます。
マーベル初のオリジナルドラマ『ワンダヴィジョン』
『ワンダヴィジョン』はマーベル・スタジオによる初のオリジナルドラマシリーズで、2021年1月15日よりDisney+ (ディズニープラス)で配信が開始された作品。2019年に公開された映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』にて描かれたストーリーを経て、アベンジャーズのメンバーであるワンダとヴィジョンの“その後”を描いたドラマシリーズとなっている。
本作は、古典的なホームコメディにインスパイアされたシリーズで、マーベルがシットコム(シチュエーション・コメディ)というジャンルに初めて挑む作品。既に公開されている1話と2話も、そんな昔の名作へのオマージュがたっぷり含まれている。
そこでフロントロウでは、『ワンダヴィジョン』に登場する名作の元ネタをご紹介。
第1話『アイ・ラブ・ルーシー』と『ディック・ヴァン・ダイク・ショー』
『ワンダヴィジョン』の最初の2エピソードは、1950年代〜1960年代のシットコムにオマージュを捧げている。これは、ドラマ配信前に公開されていたポスターからも明らか。
白黒の映像が印象的な第1話の元ネタとなっている作品は、アメリカで1951年~1957年に放送されたドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』と1960年代に放送された『ディック・ヴァン・ダイク・ショー』。
まず、『ワンダヴィジョン』のオープニングで画面に表示される文字のフォントは『アイ・ラブ・ルーシー』と同じもの。さらに、ワンダとヴィジョンの部屋の間取りは『ディック・ヴァン・ダイク・ショー』にそっくりで、ドタバタの夕食や上司を家に招待するという展開も、初期の『アイ・ラブ・ルーシー』と『ディック・ヴァン・ダイク・ショー』の有名なエピソードから引用されている。
ちなみにワンダは映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で登場した際、架空の国であるソコヴィアで生まれたとされており、強い東ヨーロッパのアクセントで英語を話していた。その後『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では一般的なアメリカ英語の発音になったけれど、『ワンダヴィジョン』では『アイ・ラブ・ルーシー』と『ディック・ヴァン・ダイク・ショー』に登場する俳優が話しているようなフォーマルで高めの発音になっている。
第2話 『奥さまは魔女』
第2話の元ネタになっているのは、すでに多くのファンの間でも話題になっている『奥さまは魔女』。こちらは1964年から1972年まで放送されていたドラマで、2005年には映画化もされている。
短いオープニングシーンの後に挿入されるアニメーションは、まさしく『奥さまは魔女』。『奥さまは魔女』で夫の「ダーリン」が不思議な行動をする描写が多いように、『ワンダヴィジョン』の第2話でも夫のヴィジョンがおかしな行動に出る。
また、『奥さまは魔女』の多くのエピソードと同様に、『ワンダヴィジョン』も2人の軽いキスのクローズアップで幕が閉じる。そして、『奥さまは魔女』は1966年からカラー放送が開始となったためか、『ワンダヴィジョン』のラストシーンも白黒からカラーの映像に変化した。
ちなみにワンダが“袋小路の女王”と会話をしていたシーンで、ラジオから雑音と共に「ワンダ」という謎の呼びかけが聞こえてくるシーンでかかっている曲は、ザ・ビーチ・ボーイズの「ヘルプ・ミー・ロンダ」という楽曲。この曲が発表されたのは1966年であるということからも、『ワンダヴィジョン』の第2話が60年代を舞台にしていることが窺い知れる。
『ワンダヴィジョン』の1950年代〜1960年代のシットコムへのオマージュは徹底しており、なんと撮影の際には当時と同じように、スタジオに観客を招いていたという。
第3話 『ゆかいなブレディー家』、『モーク・アンド・ミンディ』
70年代が舞台の第3話の元ネタになっているのは1969年から1974年までアメリカで放送されていたホームコメディの『ゆかいなブレディー家』。互いに子持ちの再婚夫妻が織りなす明るい日常の様子を描いたシットコム。
『ワンダヴィジョン』の第3話では、多くの要素がこの『ゆかいなブレディー家』から採用されている。一番わかりやすいのは、オープニングクレジット。枠を巧みに利用した画面は『ゆかいなブレディー家』のオープニングによく似ている。
ワンダとヴィジョンの過ごしている家は、ブレディー家に内観も外観もそっくり。家の中にある幅広のゴージャスな階段や、70年代感あふれる服装もまさに『ゆかいなブレディー家』。大家族の騒がしく愉快な日常というテーマは、一筋縄にはいかない人生を送ってきたワンダとヴィジョンにとって大きな意味をもっていると考えられる。
ちなみに『アベンジャーズ』メンバーのキャストはかつてジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』に出演した際『ゆかいなブレディー家(The Brady Bunch)』のパロディ動画、『The Marvel Bunch』を作っていた。
そしてもう一つの元ネタとなっているのは1978年から1982年までアメリカで放送されていたホームコメディの『モーク・アンド・ミンディ』。
『モーク・アンド・ミンディ』は、ロビン・ウィリアムズ扮する異星人モークが地球人のルームメイトと騒動を繰り広げるシットコム。同居人の1人が人間ではないというところが『ワンダヴィジョン』にぴったりのテーマ。
また、白黒テレビからやっと一般家庭にもカラーテレビが普及し始めた時代背景からか、オープニングのタイトルロールの時に「カラー放送」という字幕が出るのも当時へのオマージュを含んでいる。
ちなみに、ワンダが必死に妊娠を隠しているのも、当時のホームコメディにとっては重要な要素の一つだった。妊娠が初めてテレビで描かれたのは1948年、ドラマ『Mary Kay and Johnny』でのこと。それ以降も、「性交を暗示させる」という理由で描かれなかったものの、第1話の元ネタとして紹介した『アイ・ラブ・ルーシー』ではっきりと「妊娠中」と明言されたことにより、それ以降は妊娠ネタが一般的に。しかし、当時のテレビ局の幹部はやはり妊娠という表現を嫌い、『アイ・ラブ・ルーシー』の主演を務めたルシル・ボールは、「妊娠中」だと言えなかったと米AVclubのインタビューに答えていた。
第5話『ファミリータイズ』
現実世界のパートが描かれた第4話『番組を中断します』に続き、第5話の『問題エピソード』は、再びオマージュの世界へ。このエピソードで取り入れられているのは、1982年から1989年まで7シーズン、全176話が放映されヒットしたドラマ『ファミリータイズ』。
『ファミリータイズ』は、1960年代・1970年代に青春を過ごした元ヒッピーでリベラリストな両親と、1980年代に流行した保守主義に傾倒し、共和党を熱烈に支持する息子、という家族関係が特徴的。親よりも子供が保守的だという関係性が当時のアメリカ国民の笑いのツボをついた。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのマイケル・J・フォックスが長男役を演じ、エミー賞のコメディー部門主演男優賞を1986年から3年連続受賞した。
特にそっくりなのが、オープニングの映像。イラストと本編動画で構成されているところが非常に似ている。
また、第5話のオープニングソングについては相当力が入っていたようで、ショーの作曲家であるロバート・ロペスは米EWに「私たちは80年代生まれだからかもしれないが、80年代は一番挑戦するのが楽しかった。テーマソング・ライティングの技術は80年代にピークを迎えた。なぜなら、80年代以降はシットコムやテレビ番組の冒頭では(オリジナルテーマ)曲を見ることが少なくなったから。それが全盛期だったんだ。太陽が滅びる前の輝かしいきらめきだった。当時のものはもっと長く、感情に訴えかけるようなバラードだった。自分たちが作った曲に感情を込められたのは楽しかった」と語っている。
第6話『マルコム in the Middle』
シリーズも残すところあと3話になった『ワンダヴィジョン』第6話は、90年代を飛ばして2000年代が舞台。『ハロウィーンの不気味な夜に』というタイトルのエピソードがオマージュしたシットコムは、米FOXで2000年から2006年にかけて放送されたドラマ『マルコム in the Middle』。
今回も他のエピソードと同じようにオープニング映像がそっくり。フォントや映像の作り方、オルタナ・ロックのBGMが使われているところまで似ている。
そして『マルコム in the Middle』では次男のロイスがしばしば第4の壁を破り視聴者に話しかけてくることがあったように、『ワンダヴィジョン』でも子供たちのビリーとトミーが第4の壁を破るナレーションを模倣した。
徐々に全容が明らかになっていくなか、ピエトロことクイックシルバーの登場がワンダの精神状況を追い込み、徐々にオマージュへの熱意も失われてきているよう。さらに今回、ワンダとヴィジョンの双子であるビリーとトミーがスーパーパワーを発揮したことで、それぞれヤング・アベンジャーズのウィッカンとスピードになることもわかった。これは、2人がハロウィンと称して身につけた衣装からも明らか。ファンの間では、2人がヤング・アベンジャーズのMCUバージョンになるだろうと考えられている。
ちなみに、5話に登場したピエトロがMCUで同役を演じたアーロン・テイラー=ジョンソンではなく、『X-MEN』で同役を演じたエヴァン・ピーターズであったことには、多くのマーベルファンが驚かされた。ところが実はこのピエトロ、『X-MEN』のピエトロとは少し違う点がある。それは、彼の持つ能力。『X-MEN』シリーズで彼は、人と一緒に高速移動する時は相手の首が折れないように注意を払っていたけれど、『ワンダヴィジョン』に登場するピエトロは、そんなことお構いなしに高速移動をしている。演出の抜かりなさには定評のあるマーベル・スタジオなだけに、何かこの点に大きな仕掛けがかけられている可能性もある。
『ワンダヴィジョン』はDisney+ (ディズニープラス)で配信中。(フロントロウ編集部)