ドイツのラジオDJがBTSに対してヘイト発言
現地時間2月24日、伝統のあるMTVのシリーズであるUK版『MTV Unplugged』に出演したBTS。2020年11月にリリースした最新アルバム『BE』からの楽曲のほか、MTV UKへの出演ということもあり、UKを代表するバンドであるコールドプレイの名曲「Fix You」のカバーを含む見事なパフォーマンスを披露した。
昨年には3曲を米Billboardの全米シングルチャートの首位に送り込むなど、アジアの枠を超え、世界を股にかけて活躍しているBTS。しかしながら、ドイツのラジオ局Bayern 3で司会を務めるマティアス・マトゥシクは、彼らがヨーロッパを代表するバンドであるコールドプレイの楽曲をカバーしたことを快く思わなかったよう。
英BBCによれば、マティアスは現地時間2月24日に放送された番組のなかで、BTSによる「Fix You」のカバーを紹介した際、「冒涜」だと揶揄した上で、「これにより、君たちは今後20年間、北朝鮮で休暇を過ごすになるよ」と発言。さらに、BTSについて「くだらないウイルスだよ。もうすぐワクチンができることを願ってる」と、新型コロナウイルスになぞらえる発言もしたという。
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、中国で最初に発生したことで知られており、そのことをきっかけに欧米ではアジア系の人々に対する差別が広がっている。
また、米Teen Vogueは、マティアスは自身のこの発言がヘイト発言と見なされることを認識しつつも、「このボーイバンドに関して、外国人嫌悪だと私を責めることはできないよ。私は韓国の車を使っているんだ」と語り、韓国車を使っていることを理由に、自分は外国人嫌悪ではないと説明したという。「日本人の友達がいるから日本の差別をするわけがない」という“わけがない”というフレーズは、差別発言と向き合わない人がよく使う常套文句。しかし当事者でも当事者に差別発言をしてしまうことがあり得るように、韓国車を持っているから差別しないことにはならない。
ちなみに、米Teen Vogueはマティアスが乗っているのは実は日本のダイハツの車だとして、彼が自身の車がどこの国のものか誤って認識しているとも指摘している。
ラジオ局は釈明の声明を発表→さらに批判が寄せられることに
当然、彼らの韓国出身というアイデンティティをネタにして、昨今のアジア人差別を煽るようなこのマティアスの発言には、BTSのファンを中心に人々から批判が殺到。ラジオ局は翌25日に声明を発表して、「これはこの番組の特性であり、プレゼンターが彼の意見をハッキリとオープンに、率直に述べることもまた然りです」と説明。
「今回のケースについては、皮肉めいた方法かつ大袈裟に興奮しながら彼なりの意見を伝えようとしたところ、言葉の選択に関して行き過ぎてしまい、BTSファンの方々の気持ちを傷つけてしまいました」と、あくまで彼の誤った言葉の使い方が、BTSのファンの人たちを傷つけることに繋がったと続けた。
しかしながら、この謝罪にはなっていない声明はさらに人々の怒りを買うこととなり、マティアスやラジオ局に一層の批判が寄せられることとなった。
とりわけ、欧米では現在、アジア系を標的にしたヘイトクライムが急増していることも、BTSに対する差別発言を絶対に許さないとする人々の抗議に拍車をかけている。なかでも、アメリカにおけるヘイトクライムの増加は顕著で、アジア及び太平洋諸島系を標的にしたヘイト犯罪の撲滅を目指す市民活動団体Stop AAPI Hateは、昨年3月から12月のあいだに、アメリカ国内とカナダのブリティッシュコロンビア州で2,800件を超えるアジア系に対するヘイト行為があったと報告している。
ホールジーやザラ・ラーソンらがヘイト発言に抗議
BTSに差別発言がなされたことに黙っていなかったのはアーミー(ARMY)の愛称で知られるファンだけでなく、彼らとコラボレーションしてきた欧米のアーティストたちの気持ちも同じだった。
ホールジー
全米7位を記録した「Boy With Luv」などでBTSとコラボしてきたホールジーは、インスタグラムストーリーでマティアスを名指しで批判し、次のように記した。
「マティアス・マトゥシクによる発言を読んで恐ろしくなった。人種差別や外国人嫌悪は『放送上のユーモア』としてごまかされるべきじゃない。アジア系のコミュニティに向けられたヘイトスピーチや暴力が止まるところを知らない今、無責任だし、不快過ぎる発言。こんなの容認できない。BTSや世界中のアジア系コミュニティに対するまともな謝罪が為されることを願ってる」
[INSTAGRAM] 210227 @BTS_twt @halsey Instagram story update.
— BTS UPDATES⁷ | @BTSdailyinfo (@BTSdailyinfo) February 26, 2021
� (https://t.co/oJQHW5Iw1p)#RacismIsNotAnOpinion pic.twitter.com/yxJmUYcir7
ザラ・ラーソン
2019年にBTSの「A Brand New Day」にフィーチャリングで参加したザラは、一連のツイートで次のように投稿。
「人種差別者であることが原因で、自分のキャリアを台無しにしたということを知りなさい。私は友人たちと共にある。それから、これは『人種差別主義のラジオ司会者がBTSについて発言した』ということ以上の問題。これはアジア人に対する人種差別であり、外国人嫌悪。私たちはみんなで声をあげなければいけないけど、それはあくまでも最低限のことで、彼のような人たちには報いが待っているということを示さなければいけない」
And this is a bigger issue than one racist radio host speaking about BTS. This is about racism against Asians and xenophobia. we must all speak up, which is the bare minimum, to show people like him that his words have consequences.
— Zara Larsson (@zaralarsson) February 27, 2021
スティーヴ・アオキ
自身も日本人の血を引き、「Mic Drop」リミックスをはじめ何度もBTSとコラボしてきたスティーヴは、「ラジオ司会者のマティアス・マトゥシクによるヘイト/人種差別発言は、僕のブラザーたちに対してなされたということを挙げずとも、到底受け入れられるものじゃない。BTSと共にあるし、いかなるヘイトも根絶し、あらゆる場所におけるこのような偏見を根絶していく。僕らは共に立ち向かわなければいけない。ヘイトではなく、愛を広めていこう」とツイート。
Absolutely unacceptable the way radio host Matthias Matuschik speaks hate and racism in general let alone to my brothers. I stand with @bts_BigHit to condemn hate of any kind and stop this kind of prejudice wherever we can. We must stand together. Spread love not hate.
— Steve Aoki (@steveaoki) February 27, 2021
ラウヴ
「Make It Right」リミックスなどでコラボし、SNSでBTSと仲睦まじいやり取りを見せているラウヴも、「BTSのブラザーたちや、『Bayern 3』で耳にしたのと同じくらい痛ましい人種差別発言に常に悩まされている皆さんと共にある。誰もこんなことに耐えるべきじゃないし、共に立ち上がり、終わらせなければいけない」と投稿。
standing by my @bts_bighit brothers and everyone continuously effected by racist remarks as hurtful as what we heard on Bayern 3. no one should have to endure this and together we must stand up and stop it
— lauv (@lauvsongs) February 26, 2021
MAX
自身の「Blueberry Eyes」でメンバーのシュガとコラボしたMAXは、「BTSはこの業界において、最も働き者の1組で、最も謙虚なグループの1組だよ。自分たちで成し遂げた成功にふさわしい人たちだ。『Bayern 3』のラジオ司会者が彼らに対して使ったヒドいヘイト発言には、気分が悪くなったよ。彼らや、アジア系コミュニティに対するヘイトは許されるものじゃない」とツイートして、BTSをサポート。
BTS is one of the hardest working and most humble groups in the industry. They deserve all the success they’ve earned. Hearing such hateful words used against them by the radio host at Bayern 3 made me sick. The hate to them and the Asian community as a whole is unacceptable
— MAX (@MAXMusic) February 26, 2021
コロムビア・レコード
また、アメリカでBTSのプロモーションを担当しているコロムビア・レコードも直ちに声明を発表して、「コロムビア・レコードはアジア系コミュニティと共にあり、あらゆる人種差別や外国人嫌悪を非難します。私たちは人種間の平等に向けて共に取り組まなければなりません」と、差別を容認しない姿勢を明確にした。
— Columbia Records (@ColumbiaRecords) February 26, 2021
ラジオ局が改めて謝罪
事態の深刻さを受け止めたラジオ局Bayern 3と司会者のマティアス・マトゥシクはその後、現地時間2月27日に改めて謝罪の声明を発表。
「プレゼンターであるマティアス・マトゥシクが番組のなかでした発言を心から謝罪いたします」と声明を始めたBayern 3は、「BTSについてコメントした彼の言葉の選択は容認できないものでした。彼も、 Bayern 3にいる我々も、単に別のことを意図していたというだけでは不十分だったことを理解しています。もしも発言を多くの人が攻撃的もしくは人種差別的だと感じたのであれば、そうだったということです」と述べ、「Bayern 3はあらゆる人種差別や排除、差別から明確に、断固として距離を置いています」と強調した。
また、差別的な発言をした当のマティアス本人は、「まずは、本当に申し訳なく思っており、心からの謝罪をさせていただきたいと思っています」と謝罪を述べた上で、「私の意図としては、BTSというボーイバンドが、私がとても尊敬しているコールドプレイの『Fix You』という曲をカバーしたという事実に腹を立てていたということです。7人の男性たちの国籍は関係ありません。そのことについて触れ、ウイルスと結びつけたことは完全に間違っていました」と、人種差別の意図はなかったものの、新型コロナウイルスと結び付けたことは誤りだったと説明。
「この数時間の間に多くのことを考え、私の言葉が、とりわけアジア系のコミュニティの方々をはじめとした多くの方々を人種的に傷つけたことを理解し、そのことを自覚しました。それは決して私の意図したところではありませんし、その人が意図していたかではなく、最後には言葉がどう受け取られるかが重要なのだと理解しました」と続けて綴り、「私は大きな過ちを犯してしまいましたが、そこから学んでいきます。本当に申し訳ありませんでした」と締め括った。
ちなみに、マティアスからコールドプレイに対する「冒涜」だと言われてしまったBTSだけれど、カバーされたコールドプレイは、BTSによるカバーについてSNSで韓国語で「美しい」とコメントして、ハートの絵文字も添えて彼らに賛辞を寄せた。
아름다운 @bts_twt ���
— Coldplay (@coldplay) February 24, 2021
Love c, g, w & j #BTSUnplugged https://t.co/XkHAwMi0sl
(フロントロウ編集部)