エリオット・ペイジ、カミングアウト後初のインタビュー
エリオット・ペイジは、映画『JUNO/ジュノ』や『インセプション』といった映画ファンに愛される名作に出演。近年では、ドラマ『アンブレラ・アカデミー』で演じるNo.7ことヴァーニャ役でも親しまれている。
エリオットは、2020年12月、トランスジェンダー男性であることをカミングアウト。それまで使用していたエレン・ペイジから改名し、今後は「エリオット・ペイジ」として活動していくことを報告した。
公表から約3カ月が経ち、エリオットが米TIME誌の表紙に登場。
9歳の頃には、すでに「男の子になりたい」という思いを抱いていたというエリオットは、幼少期から俳優としてのキャリアが花開いていくなかで、人知れず抱えていた苦悩や葛藤に言及し、トランスジェンダーであることをカミングアウトしたことで、ようやく「完全に自分になれた」と語った。
「男の子になりたかった」
幼い頃から、長かった髪をずっと短く切りたいと切望していたというエリオット。9歳になり、初めて親からショートカットにしても良いと許可をもらえた時は、まるで何かに勝利したような感覚だったという。
「(自分は)男の子だと感じてた。男の子になりたかった。ママにいつか男の子になっていいかって聞いてた」。
そう話すエリオットは、髪を短く切ったことで、周囲の人が自分を女の子ではなく男の子として見てくれるようになった気がして、とても嬉しかったというが、それからしばらくして、子役として本格的にキャリアをスタート。
10歳で故郷カナダのテレビドラマに出演し始めたエリオットは、“女の子らしい”見た目をキープしなくてはならず、最初のうちはウィッグを着け、その後は髪を伸ばさなくてはならなかった。
スポットライトの裏での葛藤
若くして俳優としての才能を開花させ、数々のテレビドラマへの出演を経て、映画にも進出したエリオット。
童話『赤ずきん』をモチーフとし、日本のオヤジ狩りのニュースに着想を得た2005年の映画『ハードキャンディ』での演技は「最も複雑で不穏な忘れられない演技」と批評家たちに絶賛され、その翌年には映画『X-MEN: ファイナル ディシジョン』でシャドウキャット役を好演。
2007年公開の映画『JUNO/ジュノ』では、予期せぬ妊娠をしてしまった16歳の女子高生ジュノを演じ、アカデミー賞の主演女優賞にノミネート。レオナルド・ディカプリオやトム・ハーディー、マリオン・コティヤールらと共演した2010年の映画『インセプション』での演技も高い評価を受け、“若手実力派女優”の注目株として世間の視線を一身に浴びる存在となった。
演技の仕事を愛し、表向きは輝かしく誰もが羨むようなキャリアを築いていたエリオットだが、その裏では、自分が持つ本当のアイデンティティとハリウッドにおける“こうあるべき”という基準の狭間で悩み、うつや不安、パニック障害に苦しんでいたという。
有名になり、レッドカーペットや雑誌の取材のために“女性らしく”着飾り、メイクをし、振る舞うことを強要されるなかで、「自分が誰なのかわからなかった」「長い間自分の写真を見ることもできなかった」とエリオットは振り返る。
出演作、とくに“女性らしい”役を演じている作品を見るのも辛かったといい、劇中で着る衣装に関しても、仕事だとは理解しつつも、心地悪さを感じずにはいられなかったという。
「自分は俳優だけど、女性向けに仕立てられたTシャツを着ると気分が悪くなった。そのことをどうやってほかの人たちに説明したらいいかわからなかった」。
「トップ・サージェリー」を受けて人生が変わる
27歳だった2014年に同性愛者であることを公表したエリオット。この決断は、自分が築いてきたキャリアを壊すことになるため、女性が恋愛対象だとカミングアウトをすることなど「絶対に無理」だと思っていたエリオットにとっては大躍進だった。
その頃からレッドカーペットでもドレスではなくスーツを着ることが多くなり、2018年には、ダンサーのエマ・ポートナーと結婚(2021年1月に離婚を申請)。
しかし、気持ちの面では変化が生まれても、身体的な不快感は消えなかった。
「ゲイを公表する前と後では気持ちの部分でとても大きな違いがあった。でも、体の面での不快感は消えたかって? ノー、ノー、ノー、ノー」。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、独りで自分と向き合う時間が増えたことが、自身のジェンダーやアイデンティティについて、深く考えるきっかけになったというエリオット。
トランスジェンダーであることを公表し、プライドを持ってハリウッドで活躍する俳優のラバーン・コックスやジャネット・モックスの姿に感銘を受け、性別移行を行なったアーティストのP.カールの回顧録『 Becoming a Man: The Story of a Transition(原題)』を読んだエリオットは、ついに自身もトランスジェンダーであることを公表するという決断に至った。
エリオットがトランスジェンダーを公表した声明。全文訳はコチラ。
この決断に合わせて行なったのが、大好きな映画『E.T.』の主人公にちなんだ“エリオット”という名前への改名と、「トップ・サージェリー(Top Surgery)」と呼ばれる手術を受けること。
トップ・サージェリーとは、乳房を切除して胸を平らにする手術(皮下乳房切除術)。昨年12月にインスタグラムへの投稿を通じてトランスジェンダーであることを公表した際、エリオットはまさにこの手術からの回復を待っているところだった。
多くのトランスジェンダーたちが言うように、ジェンダー移行手術を行なうことは必ずしも重要ではなく、その必要性には個人差があると強調したうえで、エリオットは、自分はこの手術を受けたことで、ようやく鏡の中の自分を“自分”だと認められるようになったと告白。
「地獄のような思春期」を過ごした自身にとって、「人生が一変した」と感じる体験だったと語り、これまで自分が身体に対する不快感に費やしてきたエネルギーを取り戻すことができたような気がすると続けた。
エリオットは、この手術により、人生が変わっただけでなく「命を救われた」とも話している。
カミングアウトの余波
トランスジェンダーを公表したことの余波について、「(カミングアウト前は世間から)たくさんのサポートと愛をもらえると期待していた。でも、それ以上に大量の憎悪やトランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)が押し寄せると思っていた。実際に起きたのは予想通りの事だったよ」と話したエリオット。
公表と同時に、トランスジェンダーの人々が日々晒されている暴力についても言及して警鐘を鳴らしたが、彼が発信したメッセージにより、世間にはポジティブな変化が起きている。
TIME誌の表紙を飾った史上初のトランスジェンダー男性となったエリオット。インタビューの公開に際しても、トランスジェンダーの若者たちを憎悪や差別から守り、反トランスジェンダーを助長する法律の制定に反対の声を上げようと呼びかけている。(フロントロウ編集部)