マーベル社長、『ドクター・ストレンジ』キャスティングを後悔
2016年に公開されたマーベル映画『ドクター・ストレンジ』は、コミック版ではチベット出身のアジア人キャラであったエンシェント・ワンに白人のティルダ・スウィントンが起用されたことで、非白人の役を白人に置き換えるホワイトウォッシングだと、多くの批判を浴びた。
それから約5年が経過し、続編映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(Doctor Strange in the Multiverse of Madness)』が制作されている今、マーベル・スタジオの社長、ケヴィン・ファイギが当時を振り返り、アジア系キャラクターに白人を起用したことを後悔しているとコメントした。
ケヴィンは、米Men's Healthで当時の決断を「とても賢く、最先端なことをしたと思っていた」と発言。さらに、「知恵を持つ年老いたアジア人と、という決まりきったことはしない(と思っていた)。でも、『ちょっと待って、他に方法はないのか?ありきたりのことをせずに、アジア人の俳優を起用する方法はないのか?』と言うことは目が覚める経験だった。その答えは、もちろん「イエス」だ」と、続けた。
“仙人風のおじいさん”というハリウッド映画にありがちなアジア系キャラのステレオタイプにハマらないために白人であるティルダを起用したものの、非白人の俳優が起用される機会が少ないなかで、その“配慮”の仕方が間違っていたとマーベル側が正式に認めた。
エンシェント・ワン役のティルダ・スウィントン、当時の反応
エンシェント・ワン役のティルダは今回はこの件について反応していないけれど、映画が公開された当時にはコメントしていた。
ティルダは2016年に米Indie Wireのインタビューで、「スコット(・デリクソン監督)は、彼はケヴィン・ファイギやチーム全体と一緒に、コミックに登場する人種的ステレオタイプであると考えられていたエンシェント・ワンを(そうではないものに)変更するという明確な決断をしたそうです」とコメント。
続けて、「(コミックの中では、)フー・マンチュー(イギリスの小説に登場する中国人ヴィラン)のような、“エンシェント・ワン”と呼ばれる山の上に座っている仙人。そのような人種的ステレオタイプを永続させないために、このような決断をしたのです」と言った。
そして、「『攻殻機動隊』や『グレートウォール』などの作品が発表されたときに、人々がホワイトウォッシングについての意見を表明するために、絶対的な正義感と正当な動機付けを持った瞬間があったと思うんです。私たちもそれに巻き込まれてしまいました。『ドクター・ストレンジ』の裏にあった考えを、人々は必ずしも知らないのです」と、『ドクター・ストレンジ』のキャスティングはアジア系への人種差別に反対したからこそ置きたことだと説明した。
ティルダ・スウィントン、アジア系コメディアンにメールを送っていた
そんなティルダは最初に論争があがった当時、アジア系コメディアンでありドラマ『私はラブ・リーガル』などで俳優活動も行なうマーガレット・チョーにこの件で内密にメールもしていた。
SNSをやっていないティルダは論争に気づくのが遅く、さらに何が問題なのか理解できなかったため、理解を深めるために、「あなたの考えを聞きたいし、それについて内密に話がしたい」とマーガレットにメールしたそう。
それを受けたマーガレットは、ティルダのファンであることを述べた上で、「『ドクター・ストレンジ』であなたが演じたキャラクターは、もともとチベット人の男性として書かれていたので、その役をアジア系の人が演じるべきだったと感じているアジア系アメリカ人の不満がある、ということです」と書き、「私たちの物語は白人の俳優によって何度も語られ、私たちはどう対処したらいいのか途方に暮れています」と続けた。
ティルダはマーガレットに対して、上で述べたように、自身の起用はアジア系のステレオタイプに立ち向かうためだと説明したほか、50代の女性である自分が本来は「東洋の賢者フー・マンチュー」が演じるべきだった役をオファーされたことに喜びを感じていると述べたという。
一連のやり取りは、マーガレットがその事実をポッドキャスト番組『TigerBelly』で明かしたあと、ティルダが誤解がないようにとメールのスクリーンショットを公開したため発覚した。
マーベル社長の“もっとできることはあった”発言で転機を迎えた、『ドクター・ストレンジ』のホワイトウォッシュ騒動。期待される続編映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(Doctor Strange in the Multiverse of Madness)』は、現在制作が進んでおり、2022年3月25日に全米公開予定。(フロントロウ編集部)