U-NEXTにて見放題で独占配信中のドラマ『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』。50代の本音とリアルを届けるという制作陣の本気度がうかがえる内容でのシリーズ幕開けとなった。その他のエピソードのレビューは「AJLTレビュー」をチェックして。(フロントロウ編集部)

※この記事には『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』第1話のネタバレが含まれます

第1話からの隠れメッセージ

  • オープニングソングは『SATC』のオープニングテーマのリミックス版。エンディングで流れるのは、『SATC』のフィナーレで使われたた「You’ve Got The Love」。
  • 冒頭のブランチシーンで登場するビッツィー・ヴォン・マフリングは、『SATC』のシーズン5で、キャリーたちが同性愛者だと思っていたキャバレーシンガーの男性と結婚した女性。
  • キャリーがビッグとの市役所での結婚式で履いたマロノ・ブラニクが再登場。クローゼットに並ぶ靴を見てキャリーが言う「hello, lovers(ハロー、私の恋人たち)」というセリフは、シーズン4でショーウィンドウに並ぶ靴を眺めていたときにキャリーが発したもの。
  • シャーロットの愛犬エリザベス・テーラーは寿命のため新作には登場していないが、現在の愛犬の名前は、俳優エリザベス・テーラーの元夫であるリチャード・バートンから取って“バートン”と名づけられている。
  • 新作でもキャリーはコスモポリタンを愛飲していることを示唆するセリフが。『SATC』の時代にはコスモポリタンの大ブームを起こすほどの経済効果があったが、新作でも再びトレンドと化すのか?

ブランチシーンで終わったドラマが、ブランチシーンで再出発!

 ドラマ『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』の第1話が、キャリー、ミランダ、シャーロットのブランチシーンで始まったことはパーフェクトな幕開けだった。

画像1: ブランチシーンで終わったドラマが、ブランチシーンで再出発!

 『SATC』におけるブランチシーンは、彼女たちの本音や相談が聞ける場所だっただけでなく、どんなに忙しくても女友達との時間は取るという4人のシスターフッドを表すシーンだった。『SATC』のフィナーレエピソードのラストはブランチシーンだったが、新作ドラマもブランチシーンからスタート。それだけで、キャリー、ミランダ、シャーロットの絆は50代になっても変わっていないことが瞬時に分かる。

画像2: ブランチシーンで終わったドラマが、ブランチシーンで再出発!

 一方で会話の内容からは、ライフステージの変化が見てとれる。『SATC』は30代の女性に声を与えたドラマとして社会的な影響を与えたが、『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』では、“女性の白髪は美しいかどうか”、“50代の頻尿問題”、“10代の子供のセックス事情”など、『SATC』とは違う話題が飛び交う。プロデューサーを務める主演のサラ・ジェシカ・パーカー、シンシア・ニクソン、クリスティン・デイヴィスも現在50代。もちろん、富裕層の女性という特定のタイプではあるものの、50代女性の本音が当事者たちによってテレビで描かれることは、多様性が求められる今の時代においても珍しいこと。同年代の共感を呼ぶことも必至だが、50代になっても生き生きとしている女性たちをテレビで見て、彼女たちの本音を知ることは、年下世代にとっても新たな女性像となるはず。

ぎこちない多様性、それこそが狙いなのでは? 

画像1: ぎこちない多様性、それこそが狙いなのでは?
画像: ノンバイナリーのポッドキャスト司会者チェ・ディアスは、現実世界でもノンバイナリーである俳優のサラ・ラミレスが演じている。

ノンバイナリーのポッドキャスト司会者チェ・ディアスは、現実世界でもノンバイナリーである俳優のサラ・ラミレスが演じている。

 キャリーはポッドキャスト番組の司会者になっているのだが、ノンバイナリー(※)である上司のチェ・ディアス(サラ・ラミレス)にもっと赤裸々になるよう指導を受ける。欧米では主流になっているポッドキャスト番組へのキャリアチェンジは一見は流行に乗ったように見えるが、時代の変化の中で慣れ親しんだコラム執筆から離れざるを得なかった悲しさも見え隠れする。さらに今や、90年代に新聞でセックスについて書いていた先進的な女性であるキャリーが、もっとオープンになれと年下の上司に言われる時代。50代になっても第一線でチャレンジし続けるキャリアウーマンの姿と、その裏にある葛藤が、キャリーのキャリアを通して見られる。

※ノンバイナリー:女性または男性という2択の考えに当てはまらないジェンダーのこと。男性と女性の両方というジェンダー・アイデンティティを持つ人もいれば、そもそも自分にはジェンダーがないという人もいる。

画像2: ぎこちない多様性、それこそが狙いなのでは?
画像: カレン・ピットマンが演じるナヤ・ウォレスは、ミランダが受講しているクラスの講師として登場。

カレン・ピットマンが演じるナヤ・ウォレスは、ミランダが受講しているクラスの講師として登場。

 そしてエリート弁護士だったミランダはなんと、弁護士事務所を辞めて今は学生。 昨今の社会問題に駆りたたれて人権弁護士になるための博士号を取得すべく若者に交じって学校に通っているのだが、差別や偏見と受け取られかねない発言をしてしまい空回りする。ドラマではミランダを中心に、白人の救世主(※)など社会問題のキーワードが登場して、海外の一部レビューではこれを「ウォーク(※)を意識しすぎている」と揶揄する声もある。しかしミランダが「失言しないように気を張りすぎて全部が失言になった」と悩む様子からも、本作で描きたいのは、目まぐるしく変わる社会の中で適応しようとする50代のリアルなのではないだろうか。『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』に登場する女性たちは今では“上の世代”になっているのだが、彼女たちは新しい世代の価値観に賛同して時代に前向きに生きたいタイプ。多様性に真剣に向き合おうとしているのだが、新しいモラル観を日々勉強中の身としてはミスや空回りも起こる。このぎこちない多様性との向き合い方こそ、50代オーバーの人々のリアルで、ドラマではそこを描きたいことが伝わる。

※白人の救世主:“マイノリティを救う人”と白人をヒーロー的に描く行為や、ヒーローになりたがる行為を揶揄して誕生した言葉。
※ウォーク:社会問題に対する意識が高くあろうという意味。

画像3: ぎこちない多様性、それこそが狙いなのでは?
画像: アッパーイーストサイドで広い人脈を持つリサ・トッド・ウェクスリーは、シャーロットの憧れのママ友。ニコール・アリ・パーカーが演じている。

アッパーイーストサイドで広い人脈を持つリサ・トッド・ウェクスリーは、シャーロットの憧れのママ友。ニコール・アリ・パーカーが演じている。

 一方で、最も変わっていなく見えるのはシャーロット。弁護士の夫ハリー、中国から養子に迎え入れた第1子のリリー、ハリーとの間に誕生した第2子のローズと暮らすシャーロットが夢中なのは、理想のファミリーライフをリードすること。リリーのピアノの発表会に母子3人でおそろいのオスカー・デ・ラ・レンタのワンピースを用意する、といったことに大忙し。しかしそれに対するローズの反発から見るに、シャーロットにとって大きな変化が待ち受けていることが予感させられる。 憧れのママ友とお近づきになることに夢中になるシャーロットだが、今シーズンでは子供と向き合うことに迫られそう。

画像: ローズ (アレクサ・スウィントン)とリリー(キャシー・アン)も成長して、新たなキーパーソンとしてストーリーを動かす予感。

ローズ (アレクサ・スウィントン)とリリー(キャシー・アン)も成長して、新たなキーパーソンとしてストーリーを動かす予感。

懐かしのオリジナルキャストを“新章”の展開にうまく活用

 『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』ではオリジナルキャストが多数出演しているため、第1話はノスタルジー効果が大きい。一方で、古いキャラクターの登場を新しいストーリー展開に変えたラストシーンは衝撃的な決断だった。

画像1: 懐かしのオリジナルキャストを“新章”の展開にうまく活用

 ご存じの方は多いと思うが、サマンサは演者のキム・キャトラルが出演を辞退したため不在。そんなサマンサの不在について、開始45秒ほどで触れられたのには驚いた。一瞬だけ亡くなったと思わせたのは、“サマンサは死んだ設定になるのでは”という一部でのウワサへのジャブのはず。簡潔に言うと、サマンサはキャリーと本の広報の件で揉めて疎遠になったそうで、現在はロンドン在住。第1話ではキャリーからサマンサに対してひどい言葉があり、SNSでは“ひどすぎる”と大反発があったのだが、じつはファンのこの論調はその後のエピソードで変わっている。第2話以降のネタバレになるので明言は避けるが、第1話だけを見てサマンサとの関係のすべてが分かったとは思わない方が良い。

画像2: 懐かしのオリジナルキャストを“新章”の展開にうまく活用

 一方でサマンサの登場は叶わなかったが、それぞれの夫など、その他の懐かしい顔ぶれは勢ぞろいしている。とくに懐かしい気持ちにさせてくれるのは、スタンフォードとアンソニー。天真爛漫なスタンフォードと毒舌なアンソニーは今でも皮肉たっぷりな小言を言いあっていて、昔のまま。スタンフォード役のウィリー・ガーソンはすい臓がんのため9月に他界したばかり。本作が遺作となったので、彼のコミカルな演技は笑いと涙なしには見られない。

画像3: 懐かしのオリジナルキャストを“新章”の展開にうまく活用

 そして最後のシーンで起きる、ミスター・ビッグの死。ビッグは、“エクササイズ界のネットフリックス”として富裕層のあいだで大人気の定額制エクササイズバイク「ペロトン(Peloton)」でエクササイズ中に心臓発作を起こし他界するのだが、第1話の配信後、ペロトンの株は暴落(現在は回復)。ワンシーンが経済を動かしたことからも、本作への注目度の高さがうかがえる。

 悲しいことだが、人生も半分が過ぎると予期せぬ死は珍しいことではなくなってくる。50代の女性たちのリアルを描くドラマである『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』では、そんな人の死もテーマに。まだまだ人生が残されている年齢で伴侶を亡くすことが、女性のメンタルヘルスやライフスタイルにどう影響するのかが、キャリーの視点から描かれるよう。

画像4: 懐かしのオリジナルキャストを“新章”の展開にうまく活用

 ちなみに、ドラマの米版キャンペーンでは、「新しい服、新しい友達、古いロマンス(new outfits, new friends and old flames)」というタグラインが使われている。キャリーの元カレであるエイダン役のジョン・コーベット出演のウワサもあるが、制作陣はニセシーンの撮影までするほどネタバレ対策を徹底しているので、今後の展開はエピソードを見るまでは分からないと言えそう。

 ドラマ『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』第1話は、U-NEXTにて見放題で独占配信中。毎週水曜日0時に新エピソードが1話更新され、第2話の配信は1月5日(水)となる。U-NEXTでは『セックス・アンド・ザ・シティ』全6シーズン及び映画2作も配信中。

(フロントロウ編集部)

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