「女性のありのままの姿を見せることで、美に対する固定観念を変えていく」ことをミッションに掲げる「#ShowUs」プロジェクト。「ボディ・ポジティブ」をテーマとした第4回目助成金プログラムの受賞者、東京在住のAmeya Jane(雨夜)氏は、「ろう」と「LGBTQ」の二重のマイノリティを抱える人々を支援する山本芙由美氏にスポットライトを当てる。フロントロウ編集部がインタビュー。

女性・ノンバイナリーが主人公の「#ShowUS」プロジェクト

 「#ShowUs」プロジェクトは、「女性のありのままの姿を見せることで、美に対する固定観念を変えていく」ことをミッションに、世界最大級のデジタルコンテンツカンパニーGetty Images(ゲッティイメージズ)とユニリーバの美容ブランドであるDove(ダヴ)が2019年に立ち上げたプロジェクト。

画像: #ShowUsプロジェクト参加写真。(左上から時計回りに)©Shiho Fukada、©BROOK PIFER、©Hind Bouqartacha、©Alex Sanche

#ShowUsプロジェクト参加写真。(左上から時計回りに)©Shiho Fukada、©BROOK PIFER、©Hind Bouqartacha、©Alex Sanche

 “女性たちの真の姿を映し出す”という共通の志を持った女性・ノンバイナリーのクリエイターたちの作品はゲッティイメージズを通して販売されており、その収益は次世代のフォトグラファー支援に活かされる。さらに#ShowUsプロジェクトでは、女性・ノンバイナリーのクリエイターを支援するための「#Showus助成金プログラム」も毎年実施。「ボディ・ポジティブ」をテーマにした2021年の第4回目では、マイノリティの記録を中心に日常の何気ないストーリーを追求している東京在住のAmeya Jane(雨夜)氏と、家庭内暴力、精神障害などの障害、刑務所生活など社会派ドキュメンタリー写真に従事しているロシア在住のAnastasia Rudenko(アナスタシア・ルデンコ)が受賞した。

受賞者の雨夜氏にインタビュー、「ろうLGBTQ」の支援活動に焦点あてた理由とは?

 フロントロウ編集部では、第4回#ShowUs助成金プログラムの受賞者となった雨夜氏に取材。「From my hands to yours」という作品を通して、「ろう」と「LGBTQ」の二重のマイノリティを抱える人々を支援する団体「Deaf LGBTQ Center」代表の山本芙由美(やまもと ふゆみ)氏を題材にした理由や、彼女が作品を通して伝えたいメッセージについて聞いた。

画像: 受賞者の雨夜氏にインタビュー、「ろうLGBTQ」の支援活動に焦点あてた理由とは?

山本芙由美さんに焦点をあてることにした理由と、「From my hands to yours」というタイトルをつけた理由を教えてください。

雨夜氏:2019年に、日本で暮らすトランスジェンダーのエリン・マクレディとその家族を描いた初のドキュメンタリー「私たちの家族」の取材をしました。エリンは現在、同性のパートナーであるミドリ・マクレディとの結婚を継続する権利を求めて闘っています。このドキュメンタリーのためにリサーチをしながら、日本のクィアコミュニティや、人種、ジェンダー、障害のインターセクショナリティ(交差性)に関する情報を探すなかで、Facebookで山本芙由美さんが日本手話でいろいろなセクシュアリティの表現の仕方を教えているビデオを見つけたのです。そこから、彼女のファンになり、なんてかっこいい人なんだろうと思いました。ご自分でろう者クィアのコミュニティを立ち上げ、ASLも話せて、とても素晴らしいと思っています。そんな彼女に共鳴し、心から尊敬するようになりました。2019年からは、いつか彼女に会って、話だけでもすることが夢でした。このプロジェクトを通じて、彼女と一緒に仕事ができることを本当に嬉しく思っています。

"From my hands to yours "は、コミュニケーションとケアをテーマにしています。山本芙由美さんと私、山本芙由美さんと彼女の友人、山本芙由美さんと彼女自身との会話です。聴覚の世界では、体の動き、顔の表情、手の動きの重要性を軽視し、音に頼りすぎているのが不思議で仕方ありません。多くのろう者が聴者の世界に同化することを余儀なくされているのは不公平です。なぜ、その逆ではないのだろう。映画の原点を考えても、もともと音はなかったのです。 手や顔の表情で伝えることには、美しさ、リズム、調子がある。だから、「私の手からあなたへ」と名付けたのです。

インターセクショナリティ(交差性)
差別は交差しているという考え。ひとえに「女性」と言っても、例えば「白人・シスジェンダー・障がい者の女性」と「アジア系・トランスジェンダー・移民の女性」が経験する差別・抑圧は異なる。インターセクショナリティでは、それぞれが独自の差別や抑圧の経験を持っていることを認めて、性別、人種、階級、性的指向、身体能力など、人々を疎外するあらゆるものを考慮して差別・抑圧を考える。

今回の作品制作を通して、どういうメッセージを世の中に伝えたいですか?

雨夜氏:この作品群で伝えたいことは2つあります。1つ目は、ろう者のコンテンツを増やすことで「ボディ・ポジティブ」と「ダイバーシティ」の概念を広げること。ボディ・ポジティブという考えは、サイズや人種に限ることではなく、コミュニケーションの取り方にも広げていくことができます。2つ目は、「個性」と「インターセクショナリティ(交差性)」を伝ることです。同じ人は2人とおらず、誰もがそれぞれの物語を持っています。山本芙由美さんがどんな人なのか、自分をどう見ているのか、周りの人とどう関わり、どうコミュニケーションしているのかを示したいと思います。

ご自身の経験が今回の作品づくりに影響を与えた側面はありますか?

雨夜氏:マイノリティである私にとって、自分の視点から物事を語る場があることは本当に重要なことです。通常、マイノリティではない人がマイノリティの話をすることが多いです。そのため、(マイノリティの)ストーリーは共感的な視点ではなく覗き見的な視点で語れることが多いのです。私はインタビューの中で、山本芙由美さんに若い頃の自分や、年老いた自分に言いたいことを尋ねました。この質問をすることで、彼女が望むように自分を表現するためのスペースを開くことができたのです。それを見て、観客の皆さんも山本芙由美さんに直接共感していただければと思います。

日本のアート界がもっとインクルーシヴになるために、どのような変化を望みますか?

雨夜氏:日本全体における私のビジョンとしては、インターセクショナリティ(交差性)とダイバーシティ(多様性)を通じて、共感の限界を押し上げることです。これまでの私の仕事の多くは、ジェンダー、セクシュアリティ、障害、そして人種に関する物語を拡大することでした。私の作品を通して、また他の人々の作品に力を与えることで、「日本人」とは何か、「人間」とは何かという定義をなくしたいのです。日本のアートシーンがより包括的なものになるためには、人々がもっとリスクを負う必要があると思います。様々なタイプのクリエイターにもっと投資し、よりインクルーシヴ(包括的)であるよう働きかけていく必要があります。

 「From my hands to yours」は、2022年春以降に雨夜氏の公式インスタグラム(@ameya.mp4)にて公開予定。(フロントロウ編集部)

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