ベネディクト・カンバーバッチが、『ズーランダー NO.2』で自身が演じたジェンダー・ノンコンフォーミングのキャラクターを振り返り、考えを語った。(フロントロウ編集部)

ベネディクト、過去に演じたキャラクターを振り返る

 ベネディクト・カンバーバッチが、2016年に公開された映画『ズーランダー NO.2』でジェンダー・ノンコーフォーミングのキャラクターを演じたことについて振り返った。
 ※自身に割り当てられたジェンダーが社会的・文化的に期待されている行動・外見をしない人のこと。

 『ズーランダー NO.2』は、2001年に公開されたコメディ映画『ズーランダー』の15年ぶりの新作で、舞台は変わらずモデル業界。ベネディクトはオールというキャラクターとして登場したのだが、主人公のデレクとハンセルはオールに向かって「男性モデルなのか、女性モデルなのか」と聞いたり、「(体にあるのは)ホットドッグなのか、パンなのか」と聞いたりするシーンがある。

 それらのシーンが含まれた予告編が公開された後には、LGBTQ+コミュニティから批判があがり、本作をボイコットするよう呼びかける署名も発生。「カンバーバッチのキャラクターは明らかに、大げさで漫画のように、バカにするように両性具有/トランス/ノンバイナリーの人を表現している」という指摘がされた。

 また、そういった描かれ方のうえで、シスジェンダー(※)の俳優がこのキャラクターを演じたことにも批判があった。
 ※生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致している人。

画像: ベネディクト、過去に演じたキャラクターを振り返る

 そして先日、米Varietyによる企画Actors on Actorsで、『ズーランダー NO.2』で共演したペネロペ・クルスと再会したベネディクトが、本作の主人公2人は「世界を理解できない」キャラクターであったとし、現代ではオールはLGBTQ+当事者の俳優が演じることになるだろうと意見を述べた。

 「今なら当然ですが、この役に関して多くの論争がありました。そして現代であれば、私の役はトランス俳優以外には演じられていないでしょう。しかし、当時は必ずしもそのように考えておらず、むしろ、この新しい多様な世界を理解できないでいる(主人公のデレクとハンセルという)2人の古い考えの人、2人の異性愛者のありがちなことについて考えていたのを覚えています。でも、それが少し裏目に出てしまいました」


当事者でない俳優がLGBTQ+キャラクターを演じるのは…?

 『ズーランダー NO.2』が現在制作されていれば、ジェンダー・ノンコンフォーミングのキャラクターはジェンダー・ノンコンフォーミングな当事者である俳優が演じることになっていただろうと話したベネディクト。

 今回の彼の発言に繋がる議論に、LGBTQ+のキャラクターを異性愛者やシスジェンダーの俳優が演じることを問題視する「ストレート・ウォッシング」がある。

 俳優は“自分でない人を演じること”が仕事であり、LGBTQ+当事者でない俳優がLGBTQ+のキャラクターを演じることは可能だと考える人もいる一方で、業界的には、LGBTQ+当事者の俳優にはオファーされるキャラクターの幅が狭いという現状があるなかで、当事者でない俳優がその役まで奪ってしまうことを問題視する声も多い。

 HIVに翻弄された1980年代イギリスのゲイコミュニティを描いた『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』の制作者であるラッセル・T・デイヴィスは、「彼ら(俳優)は『ゲイを演じる』ためにそこにいるわけじゃないんだ。非障がい者を車いすに乗せたり、誰かを黒人にしたりしない。信憑性は私たちを楽しい場所へと導いてくれる」と、ゲイのキャラクターにはゲイの俳優を、という姿勢でキャスティングをしている。

 一方で、この問題については過去に、ゲイである俳優のニール・パトリック・ハリスは「誰かがゲイっぽいかどうかって、誰が決められるんでしょうか?」と話し、バイセクシャルであるクリステン・スチュワートは「こうした特定の決まり事に全員を当てはめてしまえば、私はもうストレートのキャラクターを演じられなくなる」とコメント

画像: ニール・パトリック・ハリス(左)、クリステン・スチュワート(右)。

ニール・パトリック・ハリス(左)、クリステン・スチュワート(右)。

 LGBTQ+のキャラクターにはLGBTQ+の俳優を、ということであれば、俳優がまず自分たちのセクシャリティをどれかに決定せねばならず、さらにそれを公表しなければならないということにもなる。

 また、セクシャリティは外からは見えない要素である一方で、トランスジェンダーのキャラクターであれば何かしらの身体的な特徴がある可能性もあり、より一層当事者が演じることが望まれることもある。

 業界が、LGBTQ+の俳優であってもオファーする役の幅を狭めないという状況になれば良いのだが、そう簡単にはいかず、ストレート・ウォッシングの問題は議論が続いている。

 ちなみに、『ズーランダー NO.2』のオールについては現代では当事者が起用されるだろうという考えを述べたベネディクトだが、同性愛の描写がある映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』への出演は「何も考えずに役を引き受けたわけではない」とベネチア国際映画祭で語っており、まず俳優たちの性的指向は必ずしも明かされる必要はないという思いから出演を決めたとしている

(フロントロウ編集部)

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