俳優のエマ・ワトソンが、“トランスジェンダー女性が女子トイレを使うことについてどう思うか”という質問に明確に答える動画がSNSで拡散されている。(フロントロウ編集部)

エマ・ワトソン、パリス・リーの質問に答える

 映画『ハリー・ポッター』のハーマイオニー・グレンジャー役でブレイクし、フェミニストとしてUN Women親善大使も務めるエマ・ワトソンが、2020年に豪Vogueを相手に行なったインタビューの動画がインターネット上で注目を集めている。

 このとき、Vogueに初めて雇用されたトランスジェンダーのコラムニストとして知られるパリス・リーからインタビューを受けていたエマは、パリスにこう質問された。

 「私が女子トイレを使っても不安はないですか?」

 その質問を聞いたエマは、「オーマイゴッド、もちろん!」と即答。パリスが「私が(ジェンダー移行)手術を受けたかどうかでその気持ちは変わりますか?」と言われると、「いいえ」とまた即答。そしてこう続けた。

 「そこにいるのはもうひとりの人間なんです。知らないものが怖いという感情は分かります。よく理解ができない、当事者を知らないという思いも分かります。でも行ってください!話しに行ってください!勉強しに行って、話しに行って、経験している当事者の話を聞いて状況をきちんと理解してください。それをきちんとやったあとでも、その人に自分が存在できる場所がないと感じさせても良いと思いますか?それを教えてください」

 エマの発言は、SNS上ではエマの意見に同意する派、同意しない派のあいだで論争を呼んでいるのだが、2020年のインタビューがなぜ今拡散されているのか? もともとこの動画は2月にTikTokで公開されたもので、そのときは35万いいね!以上を獲得していた。そして4月に入り、再びイギリスのSNSアカウントでこのツイートが拡散されている。その背後には、現在イギリスで大問題になっている、コンバージョン・セラピーを禁じる法律からトランスジェンダーの人々を除外する件があった。

英コンバージョン・セラピー禁止法案、トランス排除問題

 コンバージョン・セラピーとは、同性愛者やトランスジェンダーなどを異性愛者・シスジェンダー(※生まれたときに割り当てられた性別と性自認が同じこと)に“転換”させる心理療法のこと。LGBTQ+に対する非人道的な扱いとして、ドイツ、スペイン、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどで禁ずる何かしらの法律で可決されている(※国によっては州ごとに異なる)。

 イギリスでもコンバージョン・セラピーを違法とする法律の制定が進められているのだが、3月に、ボリス・ジョンソン首相がこの法律の制定を見送ると英ITV Newsが報道。ただ、これに対して議員や専門家や国民から大きな反発があると、ジョンソン首相は方向性を変え、今度は、同性愛に対するコンバージョン・セラピーは禁じるがトランスジェンダーの人々に対するコンバージョン・セラピーは禁じないという考えを示した。

画像: 英コンバージョン・セラピー禁止法案、トランス排除問題

 これを受けて、LGBTQ+に関する法案などで政府のトップ・アドバイザーを務めていたイアン・アンダーソンが抗議の辞任。イギリス心理学会やシンガーのヤングブラッドなどの専門家団体やセレブリティも声明で批判し、首相官邸前では抗議デモが行なわれた。また、イギリスでは10万人以上が署名した嘆願書は議会で審議する決まりとなっているが、「コンバージョン・セラピーを禁止する場合、トランスの人々が完全に保護されるようにすること(Ensure Trans people are fully protected under any conversion therapy ban)」という嘆願書は、記事執筆時点で署名が10万件を超えている。

トランスジェンダーのコンバージョン・セラピーの内容とは

 トランスジェンダーの人々に対するコンバージョン・セラピーとは、一体どのような内容なのだろうか? 今回の騒動を受けて、同分野の研究者であり、『Banning Transgender Conversion Practices』の著者であるフローレンス・アシュリーは、ツイッターでこのような例を挙げた。

  • 会話によるセラピー
  • 個人や集団での祈り
  • 言葉の暴力
  • 条件づけ両方
  • 感情のヒーリング
  • 悪魔払い
  • 牧師とのカウンセリング
  • 殴打
  • 外界との隔離
  • 神との司法取引
  • 宗教的断食
  • 食べ物の剥奪/食べ物を強制的に与える
  • 転換を目的としたレイプ
  • 強制的なヌード

 アシュリー氏は、近年はより暴力的な治療は減ってきているとはしつつも、「残念ながら、それほど“侵襲的”でない介入でさえも非常に有害であり、心理的苦痛、自殺未遂、複数回の自殺未遂の割合が著しく高くなることにつながります」としている。

 さらにアシュリー氏は、コンバージョン・セラピーを受けている人は治療に同意しているという意見に対しては、「インターナライズド・トランスフォビア(※)のせい、失職や勘当を含む社会的・家族的な排斥への恐れや脅威のせい、ジェンダー移行ケアを受けるための条件として受け入れたせい、もしくは上手く言いくるめられたせいで同意することがよくあります。私が同僚と共著した全く新しい研究によると、表向きは同意しているように見えても、実際に治療の目的を知っていたサバイバーはわずか30%、親はわずか40%でした」とした。

※インターナライズド・トランスフォビア:内在化したトランスジェンダーに対する嫌悪感のこと。トランスジェンダーに対する社会での否定的な認識や、不寛容、マイナスなイメージを見聞きすることで蓄積され、それらの考えを内側に向け、自己嫌悪を経験する。

 今回の法案に関して、国内での大反発を受けて考えを二転三転させてきたジョンソン首相なだけに、再び考えをひるがえす可能性はあり得る。そんななかイギリスでは、コンバージョン・セラピーを禁じる法案からトランスジェンダーの人々を除外する動きを支持した人権団体EHRC(Equalities and Human Rights Commission)に注目が集まっている。EHRCは、国連に加盟するGANHRI(国内人権機関世界連合)からの正式認定にあたる「A判定」を受けている人権団体なのだが、米Viceの報道によって、団体トップでのトランスフォビア的な考えのせいでスタッフが辞めたり、反トランス団体との秘密裏な会談が発覚したりといった問題が露呈。4月には、イギリスの20の人権団体がEHRCからA判定を取り除くようGANHRIに調査を依頼した。(フロントロウ編集部)

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