「このアルバムは真夜中に書かれた曲を集めたもので、恐怖と甘い夢の中の旅のような作品になりました」とテイラー・スウィフトは10月21日(日本盤は10月26日)にリリースした通算10作目となるニューアルバム『ミッドナイツ』について説明する。「眠れずに行ったり来たりしたり、魔物に直面したり。時計が12時を打つ時にもしかしたら自分自身に出会えるかもしれないと願って、夜中に寝返りを打ちランタンを灯しながら探し続けることを決めたすべての人のために」。誰しも、眠れずにあらゆる感情に襲われる真夜中を経験したことはあるはずだが、テイラーはこのアルバムでそんな真夜中にまつわる13の物語を届けてくれた。真夜中を乗り越えるお供として『ミッドナイツ』を聴きながら、本編に収録されている全13曲をレビューした。(フロントロウ編集部)

1.「Lavender Haze(ラヴェンダー・ヘイズ)」

 恋をしている時の感情を「Lavender Haze=ラヴェンダー色の靄」になぞらえ、「私はラヴェンダー色の靄に包まれていたいだけ」と歌う「Lavender Haze」で、テイラー・スウィフトは聴く者たちを真夜中に現れるプライベート空間へと招待してくれる。世界中のどんな場所で公演をやっても満員のファンを集められるような“テイラー・スウィフト”でも、誰しもがそうであるように、真夜中に思いを巡らせることはあるし、ひたすらに個人としての自分と向き合うその時間に真っ先に思い浮かべるのは、大切な存在である恋人のジョー・アルウィンであるよう。

 2016年にジョーと交際をスタートしたとされるテイラーは、彼女にとっては歴代で最長の期間にわたって彼と交際中。テイラーといえば、初期の頃から自身の恋愛を楽曲のテーマにしてきたこともあって、常にゴシップが注目されてきたアーティストだが、この曲では「みんな飽きずに訊いてくる “彼と結婚するんですか?”/みんなが思い浮かべる女性って 遊び人か妻のどちらかだから」と、結婚して“誰かのもの”になるか、そうでなければ“ふしだらな女性”という、女性に対する世の中の偏見にうろたえながら、“テイラー・スウィフトのボーイフレンド”であることにうまく対処してくれている恋人に感謝している。

あなたは無口だし 私の憂鬱の原因を探ろうともしない
私はいつもじろじろ見られるけれど
あなたは上手に対処してくれる
そういうのが全部 私には新鮮

「Lavender Haze」歌詞抜粋

2.「Maroon(マルーン)」

 「あなたとの思い出に包まれて目覚める それってホントにクソな歴史」という歌詞が歌われる「Maroon」でテイラーが思いを馳せるのは、「まるで一番の親友みたい」だったかつての恋人との思い出。「Vigilante Shit」というタイトルの楽曲も収録されているように、このアルバムには「クソな」のような言い回しがテイラーには珍しく何度も登場するが、それは、真夜中のテイラーの頭の中をそのまま楽曲に落とし込んだからに過ぎない。テイラーのようなロールモデルだって、言葉を選ばずに思いの丈を吐き出す時間は必要なのだから。

 そんなテイラーはこの曲で、「真っ赤」に見えていた自分の世界が恋人と別れたことで「Maroon=えび茶色」になってしまったことを回想している。

私の頬は紅潮して もう真っ赤で
鎖骨につけた目立つキス・マーク
電話と私の唇に距離ができたの 錆が広がるみたいに
以前はよく親に電話していたのに
真紅だったの それからえび茶色に

「Maroon」歌詞抜粋

3.「Anti-Hero(アンチ・ヒーロー)」

 自分を「Anti-Hero=ダーク・ヒーロー」になぞらえて歌う「Anti-Hero」ほど、テイラーが自分の弱みを晒け出したことは今までになかったかもしれない。真夜中に浮かんでくるネガティブな考えに悩み過ぎて生活リズムまで狂ってしまい、「昼過ぎに起きて夜中が 午後みたいになってしまう」とテイラーは告白する。後ろ向きになってしまいがちなこの時間帯にテイラーの頭の中を訪れるのは、自己否定の感情という招かれざるゲスト。「私だよ こんにちは/問題児の ほら私」「私は太陽を直視できるのに 鏡を覗けないんだ

 恋人ジョーのサポートもあって2018年に政治的な発言を解禁したテイラーは、「私の秘めたナルシシズムが聞こえたかな/博愛主義者のフリをしている どこかの議員さんみたいに」と政治家たちへの皮肉も込めながら、普段見せている自分は取り繕った姿だと吐露する。

時々 こんな風に感じるの
誰もがセクシーに見えてしまう
私は丘の上のモンスター
巨大すぎて一緒にいられない

「Anti-Hero」歌詞抜粋

4. 「Snow On The Beach(スノウ・オン・ザ・ビーチ)feat. ラナ・デル・レイ」

 稀代のシンガーソングライターであるラナ・デル・レイとの共演が実現した「Snow On The Beach」で、感情を言葉にする名手である2人が歌うのは、自分が恋に落ちた相手が、奇跡的に同時に自分と恋に落ちていた時の、「海辺に降る雪みたいに 奇妙なくせにバカみたいに美しい」「ポケットに詰まったような星々」のような感情。

 「“ちょっと待って、これって現実なの?”って思う」とテイラーはインスタグラムで「Snow On The Beach」について説明している。「“夢じゃないよね?”、“本当に起きていること?”って思うの。まるで、海辺に雪が降っているのを見た時のように」。

人生って感情を苛めてくるよね
おまけに時間は私を受け止めてくれない
あなたほどにはね
乗った飛行機は最悪だったよ 訊いてくれてありがとう
もう自分を見失っている
あなたのおかげでね

「Snow On The Beach」歌詞抜粋

5.「You’re On Your Own, Kid(ユーア・オン・ユア・オウン、キッド)」

 「もう一人でやっていきなよ 君は/いままでもそうだったけどね」と、幼い頃に片想いしていた相手に語りかける「You’re On Your Own, Kid」で、テイラーは“誰しもにそれぞれの人生がある”ということを悟った時のことを振り返り、「大脱出だね さよなら/ひな菊みたいに純粋だった私」と純粋無垢だった昔の自分に別れを告げる。

 何層にも重なった思い出のページを真夜中にめくりながら、テイラーはかつて繋がりを持った人たちがそれぞれの道を歩み始める前のチャプターにまで遡って、人生の分岐点で違う道を選ぶことになった絆を再訪している。

誰にも奪えないものを見つけたの
そこに私のページがあったんだ
めくったら 人とのつながりを切ったページもあって
進んできたからこそ失うものもある
だから 友情の証のブレスレットを作ろうよ
時間を作って慈しんでみようよ

「You’re On Your Own, Kid」歌詞抜粋

6.「Midnight Rain(ミッドナイト・レイン)」

 「You’re On Your Own, Kid」で幼少期の思い出にまで遡ったテイラーは、「Midnight Rain」でシンガーソングライターとしてのキャリアを本格化させる直前のチャプターにも立ち寄っている。「彼は花嫁を求めて 私は名をあげるところだった」と歌うテイラーがこの曲で振り返っているのは、キャリアに本腰を入れようとしていたタイミングですれ違ってしまった元恋人との思い出。

 「ハガキという形で届いた 理想的な輝く家族写真/クリスマスのペパーミント・キャンディみたいね/でもそれが彼の日常」と、今では自分の家庭を持った元恋人と自分自身の人生の現在地を比較しながら、“もしあの時にすれ違っていなかったら?”という妄想のパラレルワールドを訪れる。

彼も私のことなんて考えないはず
テレビで観ない限りはね

私も彼のことなんて考えない
いまみたいな真夜中以外には

「Midnight Rain」歌詞抜粋

7.「Question…?(クエスチョン…?)」

 真っ直ぐにシンガーソングライターとしてのキャリアを突き進んできたテイラー。「しょうもない政治に性的な役割」と、女性としてキャリアを築くことへの偏見にも立ち向かってきたことを滲ませる歌詞も登場する「Question…?」では、「すべての夜を一色に塗り潰したあなた/それ以来ずっと あの色を探している」と、一瞬にして惹かれた元恋人に質問を投げかけている。

 「あのメーターが振り切った後では/あれ以上素敵な出来事は起きないような気がしない?」と、相性が抜群だった自分と別れた後で次の恋へと進んで行った元彼に、新しい恋愛でも、自分と交際していた時と同じことが起きているかを問いかける。

質問してもいいかな?
人がいっぱいいる部屋で 誰かにキスをしたことってある?
それで友だちが一人残らず 冷やかしてきて
でも15秒後にみんな 拍手し始めたことって?

彼女に まだ触れられたらいいのにって思う?
ただの質問だよ

「Question…?」歌詞抜粋

8.「Vigilante Shit(ヴィジランティ・シット)」

 「同性のためには着飾らない 男性のためにも着飾らない/この頃は 復讐するために着飾っているの」と歌う「Vigilante Shit」で、テイラーは元恋人への復讐心をむき出しにしている。

 元恋人への怒りを隠さないテイラーは、「彼女は動かぬ証拠を欲しがったから/私があげたの/想像してみて あなたの元妻とすごく親しくしている私を/彼女はとてもきれいで あなたのベンツを運転している/この頃は 彼女も復讐するために着飾っているの」と不倫を連想させるような歌詞で相手の元妻とも結託して、相手への徹底した復讐を誓っている。

悲しまないでね おあいこだから
だから 週末には 友だちのためには着飾らない
この頃は 復讐するために着飾っているの

「Vigilante Shit」

9.「Bejeweled(ビジュエルド)」

 テイラーは復讐のために着飾ることがあるのかもしれないが、「Bejeweled」ではおしゃれに着飾り、「素敵に自分を磨き上げる」ことの楽しさを思い出させてくれる。「サファイアみたいな涙」や「ムーンストーンみたいなオーラ」の持ち主で、「宝石みたいにキラキラしている」存在だと自己紹介するテイラーは、聴く人たちにこう問いかける。

 「女子としてやるべきことって? ダイヤなら輝かなくちゃ」。テイラーが着飾るのは他の誰のためでもない。ダイヤの原石である自分をときめかせるためなのだ。「みんなが“彼氏はいるの?”て訊いてくる/いまだに“さぁ どうだったかな”とか答えている

ピカピカに自分を磨き上げる
ほんとうに素敵に自分を磨き上げるの
素敵にね!

あなたが恋しいけれど
輝いている自分も恋しいの

「Bejeweled」歌詞抜粋

10.「Labyrinth(ラビリンス)」

 日本語で“迷宮”を意味するタイトルがつけられた「Labyrinth」で、失恋した直後のテイラーは「心の迷宮」を彷徨いながらも、新しい相手と恋に落ち、迷宮の出口から差し込んでくる光に手を伸ばそうとしている。「飛行機が落ちているような気分だったのに/どうやってあなたは急旋回させたの?

 心の動揺の表現するような鼓動のようなサウンドをバックに、テイラーは「みんなは私がただ立ち直るのを期待している」という周囲の声にも耳を傾けながら、新しい恋愛に進む勇気を持とうとしている。

恋に落ちている
私ったらまた恋をしている
恋に落ちている

「Bejeweled」歌詞抜粋

11.「Karma(カルマ)」

 あらゆることを乗り越えて今の地位を築き、音楽シーンを飛び出してグローバルなポップアイコンであり続けているテイラーほど、“過去の行ないが自分に返ってくること=カルマ”を意識しているアーティストもそういないだろう。

 カニエ・ウェスト&キム・カーダシアン元夫妻とのバトルや、ジャスティン・ビーバーのマネージャーであるスクーター・ブラウンとのバトルを乗り越えてきたテイラーは、「下を覗き込むのが怖いんだよね/だって もしそうしたら みんなの睨んでいる眼光が目に入るから/ 蹴落とした人たちのね」と歌いながら、今の自分があるのは、あらゆる過去の体験のおかげだと、高揚感のあるサウンドに乗せて勝利宣言のごとく歌う。

カルマなら私の恋人だから
カルマこそ神
カルマは週末に髪を撫でるそよ風みたい
カルマを考えると癒される
羨ましいでしょ あなたにとっては違うのかな?
蜂蜜みたいに甘やか
カルマは猫みたい
私の膝で喉を鳴らしている だって私が大好きだから

「Karma」歌詞抜粋

12.「Sweet Nothing(スウィート・ナッシング)」

 12月13日というテイラーの誕生日にちなんだトラックリストと見られる、13曲からなる『ミッドナイツ』の本編を締め括る2曲からは、現在の恋人であるジョーがいかにテイラーにとって“理想の恋人”であるかが伝わってくる。今のテイラーが恋人に求めているのは、「素敵な“何にもない”=Sweet Nothing」に安心感を感じられるような関係性。

 誰もが自分の名声を利用とするショービジネスの世界で、「業界の邪魔者たち 魂の破壊者たち それから口がうまい押し売りたち」と対峙する日常に疲れたテイラーは、恋人が待っている「素敵な何もない」へと帰り、心にエネルギーを充電する。

外では人々が押し合いへし合いしている

私の家からあなたの元へ駆けつける
素敵な「何にもない」へと

家に帰る途中 私は詩を書き留める
あなたは「すごい才能だね」って言ってくれる
それがいつものことなの

「Sweet Nothing」歌詞抜粋

13.「Mastermind(マスターマインド)」

 テイラーのことを安心感で包み込んでくれるような恋人であれば、どんなテイラーの姿も受け入れてくれそうだけれど、テイラーはそんな貴重な相手を恋人にするために、色々と策を講じていたことを「Mastermind」で正直に打ち明ける。「もしこう言ったらどうするかな すべてが仕組まれていたって/あなたが初めて私に出会った夜から

 「誰も遊んでくれなかった 小さい子どもの頃は/だからその頃から戦略を練っていた 犯罪者みたいにね/愛されるように仕向けた」と赤裸々に告白するテイラーだが、ここまで自分をオープンにすることができたのは今の恋人が初めてだという。「初めてなんだけどね 言っておかなくちゃいけない気になったのは」。けれど、ジョーはそれもすべてお見通しの上で、すべてを受け入れていたようだ。

それであなたに話した
すべてが仕組まれていたって
あなたが初めて私に出会った夜から

そうしたら あなたがニヤって笑ったから
ずっとわかっていたんだね
私が黒幕だってわかっていた

もうあなたは私のもの
そう あなたは微笑んだだけ
だって私が黒幕だから

「Mastermind」歌詞抜粋

リリース情報

テイラー・スウィフト
『ミッドナイツ / Midnights』

画像: リリース情報

デジタル:配信中
輸入盤CD & LP:発売中
日本盤CD:4形態にて発売中
『ミッドナイツ:ムーンストーン・ブルー・エディション』UICU-1350 / 定価:2,750円(本体2,500円 税率10%)
『ミッドナイツ:ジェイド・グリーン・エディション』UICU-1351 / 定価:2,750円(本体2,500円 税率10%)
『ミッドナイツ:ブラッド・ムーン・エディション』UICU-1352 / 定価:2,750円(本体2,500円 税率10%)
『ミッドナイツ:マホガニー・エディション』UICU-1353 / 定価:2,750円(本体2,500円 税率10%)

(フロントロウ編集部)

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