プロデューサーとしてもマドンナやカイゴら多くの世界的なアーティストの楽曲を共作してきたシンガーソングライターのジョシュ・カンビーが、ソロデビューアルバム『TRUSTFALL(トラストフォール)』をリリース。彼のリアルな人生が詰め込まれた『TRUSTFALL』について語ってもらいながら、『ゾンビーズ』シリーズなどのディズニー作品の楽曲や、少女時代やIVE、aespaなど多くのK-POP楽曲も手がける彼に、ソングライターとしてこだわっていることについても訊いてみた。(フロントロウ編集部)

取材のハイライト
 ・ディズニー作品の楽曲を手がけるのは単に1曲を仕上げるのとは違う作業
 ・ソングライティングの作業においては「水のようであれ」がモットー
 ・最も思い入れのある共作曲は少女時代の「Villain」
 ・共作してみたいのはサム・スミスやテイラー・スウィフト
 ・アルバム『TRUSTFALL』で描いているのはリアルな人生のストーリー
 ・実は親父ギャグが好き
 ・「Better Words」は妻のお気に入り

ジョシュ・カンビーにインタビュー

画像: ジョシュ・カンビーにインタビュー

ジョシュさんはアメリカ・カリフォルニア州アナハイムのご出身ですよね。実は9月にディズニーのファンイベントであるD23 Expo 2022の取材でアナハイムへ行ってきたばかりでして。

それは最高ですね! D23 Expoではショーを観る機会がありましたか? 『ゾンビーズ』のショー(※)は観ました?

※アナハイムにあるアナハイム・コンベンション・センターにて現地時間9月9日(金)~11日(日)に開催された“究極のディズニーファンイベント”であるD23 Expo 2022では、『ゾンビーズ』シリーズで主人公のゼッドを演じるマイロ・マンハイムらキャストがステージに登場して、ジョシュが手がけた劇中曲「Ain't No Doubt About It」などをパフォーマンスした。

もちろんです! 最高のショーでした! ジョシュさんも『ゾンビーズ』の曲を手がけていますよね。

その通りです! D23 Expoでは僕の曲もパフォーマンスしてくれたんですよ。奇遇ですね! 世界は狭いな(笑)。

今回のインタビューではぜひ、ジョシュさんが手掛けたディズニーの楽曲にまつわるお話から伺っていきたいのですが、ジョシュさんは『ゾンビーズ』シリーズだけでなく、『ハイスクール・ミュージカル:ザ・シリーズ』の楽曲も手がけています。ディズニーの音楽を手掛けるときに、他の現場とは違った特別な“ディズニーらしさ”というのはあるのでしょうか?

最高の質問です!『ハイスクール・ミュージカル:ザ・シリーズ』や『ゾンビーズ』のような作品の音楽を手がけるときには、誰かアーティストのために楽曲を書くときや、単に1曲を仕上げるときとは異なります。楽曲だけを手がけるときには、まずは感情面からスタートして、そこから肉付けしていくという感じなので、ビジュアル的な側面は考えません。視覚的な情報が何もないところから、あらゆる感情に手を伸ばしていく、という作業になります。一方で、ディズニー作品の楽曲を手がけるときは、それとは正反対です。才能に溢れた脚本家たちのチームがいて、彼らから「既にシーンのビジュアルは決まっています」ということを言われます。そのシーンの前にどんなことが起きるのかも、そのシーンの後でどんなことが起きるのかも、既に決定しているんです。なので、僕らとしては、その合間のシーンで経験するであろう感情を紐解いて、2つのシーンを繋ぐ橋を架けるような作業になります。ある意味では、ただ1曲を作り上げるよりも、トリッキーな作業だと言えると思います。それに合う正解が限られるわけですからね。単に、「ぴったりな感情を見つけよう」ということではありません。「ストーリーを支えられるような、ぴったりな感情を見つけよう」ということになるのです。それはチャレンジではあるのですが、だからこその面白さがあります。

K-POPの楽曲についてはいかがでしょう? NCTや少女時代、aespa、IVEなど、最近は多くのK-POPソングも手がけられていますが、K-POPの制作現場に特有の、ユニークな特徴のようなものはありますか?

面白いのが、幸運にも僕は多くのK-POPソングに携わることができましたが、そのほとんどのケースでは、K-POPに提供することを想定していなかったのです。そもそも、僕が具体的な何かを想定しながら書くことはないのですが。なので、「すごいな! どうして自分は(K-POPの)スタジオにいるんだ?」という感じでしたよ。個人的にはK-POPという音楽の大ファンなので、ものすごく嬉しく思っています。K-POPというのは、他のジャンルでよく見られるような、同じ4つのコードを繰り返すような楽曲ではないというのが特徴だと思っています。コードが瞬間ごとに変わっていって、2番のバースも1番とは異なるもので、ブリッジもまたすごくてっていう。ずっと複雑なんです。K-POPの楽曲に携わるなかで個人的に最も充実感を感じているのは、いかなる形式にも捉われなくていいという部分で、それが楽しいですね。

ジョシュが作曲で参加したNCT 2018の「Black on Black」。ジョシュは他に、テヨンの「 Four Seasons」、aespaの「ICU」、IVEの「my satisfaction」などのK-POPソングを共作している。

ディズニーやK-POPの楽曲もそうですが、今の音楽業界では、複数人のソングライターが共作して、1つの楽曲が完成するというのが主流になっています。楽曲が完成するまでのプロセスで、ジョシュさんはどんなパートを担当することが多いのでしょう?

「Be like water(水のようであれ)」というブルース・リーの格言があって、僕はそれをモットーにしています。何かを創る時には、必要とされているところで、自分の能力を最大限に発揮できるように意識しています。“何なら楽曲に貢献できるだろうか?”ということです。もしそれがメロディや歌詞であれば、喜んでそれに取り掛かりますし、トラックに集中して、机の前でひたすら音楽オタクっぽい作業をすることを求められるのであれば、喜んでそれを引き受けます。もしくは、一歩引いて、インスピレーションを探っている誰かを感情面でサポートしたほうが良ければ、進んでそのプロセスをサポートしますし。僕が大切にしているのは、エゴを一切出さずに、楽曲を最優先に考えるということです。

『ハイスクール・ミュージカル:ザ・シリーズ』シーズン3では、かつて『キャンプ・ロック』シリーズでデミ・ロヴァートが歌唱していた「This Is Me」のカバーバーションのプロデュースを担当したジョシュ。

選ぶのは難しいと思うのですが、今まで他のアーティストに提供した楽曲のなかで、特に思い入れの強い楽曲はありますか?

おっと、それは選び難いですね(笑)。毎日違う答えになると思います。2022年に書いた曲のなかでは、少女時代のために書いた「Villain」は最も誇りに思える曲の1つです。作っていたときは本当に楽しかった。正直なところ、Zoom越しに共作するのは本当に難しい作業なんです。時間差が生じてしまいますから。自分が音源を流して、それに向こうで歌声を乗せてもらうと、時間差で返ってくるわけです。それが原因であらゆる問題が起きてしまい、インスピレーションを受け続けるのが難しくなってしまうんです。車の運転を習っている人が慎重に車を運転するみたいに、Zoomが止まったり、再開したりするので。その上、韓国はロックダウンされていました。(メンバーの)ティファニーとは以前から一緒に仕事をしていたので友人なのですが、その時は(米国でも活動している)ティファニーも韓国にいた。僕らにできたのはZoomを繋ぎながら、「うまく行くことを願おう」って祈ることくらいでした。そうしたなかで、僕らはどうにか化学反応を生み出すことができて、フィルム・ノワールやクエンティン・タランティーノ監督の作品など、あらゆる作品を参照して、そこからインスピレーションを得ることができました。完成した作品には本当に満足していますし、誇りに思っています。以前はZoomでの作業に懐疑的なところもあったのですが、「Villain」を完成させられたことで、素晴らしい楽曲というのはどんな場所からも誕生し得るということを、改めて実感することができました。

ソロアーティストとして自分の楽曲も手掛けながら、様々なアーティストにも楽曲を書いている中で、「これは自分の楽曲にしよう」と思う曲の基準などはあるのですか?

言うまでもなく、フィーリングです。自分の曲は、パフォーマンス中にも感情面で繋がることができるように、正直で、かつ自分自身の経験から生まれるものでなければいけません。一方で、誰か別のアーティストや、何かしらのプロジェクトのために楽曲を書くときはまったく別物で、楽曲の完成が1番の目標ではあるものの、同時に、その人たちは生涯その曲をステージで歌うことになるので、それに相応しいものにしなければいけません。自分の楽曲を書くときには、そういう物差しを自分に向けて、「さあジョシュ、70歳になった君に話しかけているよ。この曲をまだ歌いたいと思う?」って自問自答するんです。それでも1曲か2曲くらいは、失敗したタトゥーみたいに生涯つきまとって、「ああ、こんな変なタトゥー入れなきゃよかった!」みたいに思うわけですけど(笑)。そういうわけで、僕はこの先ずっと歌えるような曲を探しているんです。そういう曲を僕はリリースしたいと思っています。

将来的に一緒に楽曲を書いてみたいアーティストはいますか?

サム・スミスとキム・ペトラスの新曲「Unholy」には驚きましたね。これまでもサムの大ファンでしたが、この曲を聴いたときは、「サム、最高すぎるよ」っていう感じでした。サムは本当に才能がありますよね。サムの大ファンなんです。僕はジョン・メイヤーも大好きですし、ジョン・ベリオンも大好きです。それからテイラー・スウィフトの最新作(『ミッドナイツ』)も素晴らしい曲ばかりでしたよね。いつか一緒にスタジオに入ることができたらって思います。

ここからは、ジョシュさんのデビューアルバム『TRUSTFALL(トラストフォール)』について訊かせてください。この“信頼して倒れる”を意味する『TRUSTFALL』という言葉をタイトルにつけたのはどうしてでしょう?

高校生の頃にやったことがある人もいると思うのですが、誰かに自分の後ろに立ってもらって、その人を信頼して後ろに向かってまっすぐ倒れるのが“TRUSTFALL”です。そのことについて考えて、人との関係に思いを巡らせたんです。このアルバムを書き始めたのは、最悪な関係から抜け出した直後だったのですが、その時は人を信じることができなくなってしまっていたんです。ずっと人の分析ばかりして、「ああ、この人はこういう理由で僕を裏切るかもしれない。だからこの人は信頼できなそうだ」って考えていました。深く考えもせずに、いくつも理由を挙げながら。愛の本質って、相手に背を向けて、その人を信頼して倒れることだと思うんです。もしそれで地面に背中が着いてしまったら、また立ち上がればいいのです。

画像: ここからは、ジョシュさんのデビューアルバム『TRUSTFALL(トラストフォール)』について訊かせてください。この“信頼して倒れる”を意味する『TRUSTFALL』という言葉をタイトルにつけたのはどうしてでしょう?

アルバムを通して聴いたときに、まずは離れてしまった相手を恋しく思う「Worth Missing」から始まって、前半の楽曲でその人のことをずっと思い続けながら、後半に入って「Be My Jane」や「Better Words」で少しずつ立ち直り、最後に「Do Better」で締め括られる流れは、大切な人との別離を経験した主人公が立ち直るまでのストーリーという印象を受けました。

まず、そのようにストーリーの流れを感じていただけたことが本当に嬉しいです。それこそ、僕がこのアルバムで楽しみにしていたことで、意図していたことでもあるので。最近のアルバムは、単にいくつもの楽曲を一緒に入れただけというのもあると思うのですが、僕としては、アルバムを通してストーリーを伝えられたらって思ったんです。1曲を経ることに、感情の旅に出かけられるような。単に、3分の楽曲だけで完結するようなものではなくてね。まさに、あなたの感想が完璧に言い表してくれましたよ。僕が経験したリアルな人生のストーリーを描いていて、予想していなかった形で完全に傷心した後で、その人や過去を恋しく思いながら、少しずつ、良くないことは過去に置いていくということを学ぶんです。未来には、遥かに素敵なことたちが待っているからって。

このアルバムには失恋をテーマにした楽曲が多く収録されていますが、「What’s Wrong With Us」はその中でも、特に切ない楽曲の1つだと思います。

この楽曲が出来上がる過程は少しユニークで、というのも、この曲はノルウェーでのソングライティング・キャンプで共作したものなので。真冬の、1日に3時間しか日照時間がないような、暗い極寒の環境で書いたんです。なので、1日がほとんど暗いっていう環境が自然に出来上がっていて。共作したソングライターたちと一緒に過ごしていた時に、当時は必ずしもこの楽曲で書いたような心境ではなかったのですが、数年前に経験した、交際が終わる直前の心境を呼び起こしたんです。何かがおかしいのには気がついているけど、それが何かは分からないっていう心境です。なぜだか分からないけど、関係が終わりそうだなっていう予感って、多くの人が感じるものだと思うんです。2人とも口火を切りたくないけど、いつかはそれを話題にしなければいけないっていう。そういう曲ってまだ無いと思い、作ってみたいと思ったんです。

個人的には、ジョシュさんが造った言葉だという、“male(男性)”と“malfunction(誤作動)”を掛け合わせた「malefunction」というタイトルがつけられた「malefunction」もお気に入りの曲の1つなのですが、このタイトルが生まれた経緯について教えていただけますか?

これまた最高の質問ですね! 今日はどれも訊いてほしい質問ばかりです。個人的にも、言葉遊びから生まれたこのコンセプトはとても気に入っています。僕は親父ギャグが大好きなんですよ。言葉遊びが好きで、「malefunctioning」は、“壊れている”という意味もありながら、交際において自分の“男性っぽさ”が機能していないという意味でもあるんです。我ながら賢いタイトルだなと思いました。スタジオでこの曲を書いていた時に、そこにいたプロデューサーの1人に、「今書いている曲に『malefunctioning』というタイトルをつけようと思うんだ」って伝えたら、「絶対に良い歌にならないし、良いサウンドにはならないよ」って言われてしまいましたけど(笑)。それで、絶対にこの曲を完成させなきゃと決意して、たくさんのメロディーを試したり、歌詞を解体させたりして、今の曲が完成しました。誰かに「できない」と言われたら、絶対に実現させたいんです。

そう がんばってるよ
僕は まだ誤作動してる
ダーリン ダーリン 心を込めて誓うよ
そう がんばってるよ
僕は ただの男として機能するまま

「malefunctioning」歌詞抜粋

そして、アルバムを締め括る「Do Better」は、大切な人とすれ違いそうになりながらも、未来への希望を感じさせるような楽曲になっています。この楽曲についても訊かせていただけますか?

この曲は僕にとってもお気に入りで。アルバムの終わりに差し掛かったところで、交際という括りから飛び出して、それよりも大きなことをテーマにしたらクールなんじゃないかって思ったんです。交際は決して完璧なものにはならないということを示せたらって。最悪な交際から抜け出して、新しく素敵な交際をスタートさせても、そこでも問題は抱えることになる。それも経験の1つですが、同時に、過去の交際から学んだ経験もあるので、そうした確執に違った風に対処できるようになって、コミュニケーションもうまくできるようになるんです。「どうすればうまく行くの?」って自分に問いかけながらね。なので必ずしも、落ちるところまで落ちて、そこからまた這い上がってくるような、以前の交際の時と同じサイクルにはまってしまうわけではない。「どうすれば進歩できる?」ということで。人生において自分が落ちていた時の経験から学んで、日々学びづけるんだっていう風に考えたいと僕は思いました。この曲はそれを一つにまとめたモットーのような曲になりました。

どうすればいいの
どうすれば うまく行くの
今さら言っても遅いかな
失礼なこと言ってごめん
聞く耳持たずでごめん
ケンカと嘘ばかり
泣いたって変わらないよ
信じあう方法を見つけなきゃ

「Do Better (feat. Caroline Kole)」歌詞抜粋

個人的なアルバムのお気に入り曲を挙げるとしたら、どの曲になるでしょう?

参ったな。お気に入りの子どもなんて選べませんからね(笑)。日によって変わりますよ。このアルバムにはあらゆる感情が詰め込まれているので、暗くて胸が痛くて、エモーショナルで、内省してしまうような、冬のような日にピッタリな曲もあります。そういう時に聴きたくなるのは「What’s Wrong With Us」ですね。幸運にも、エストニア出身のKERLI(ケルリ)というアーティストとデュエットすることができましたが、彼女の歌声には心を奪われました。素晴らしい歌声だと思います。強いて挙げるならその曲がお気に入りですね。一方で、気分が良くて、明るくて元気な時には、「Better Words」か「Do Better」のような、明るめの曲を聴きたくなりますね。「Better Words」は妻のお気に入りなんです。一緒に車に乗ると、いつも流れているんですよ。

君が聞いたこともないような言葉を伝えたい
「愛してる」をもっと素敵な言葉で
君の体のことを話そうとするとジョン・メイヤーみたいになるし
「こっちへおいで」と言おうとすれば メジャー・レイザー(やビル・ウィザース)になる
君にはっきり伝えたいんだ
君がとても愛おしい
君はテイラーではなくジュリエット
僕はドレイクのように魅了する 永遠に

「Better Words」歌詞抜粋

リリース情報

ジョシュ・カンビー
デビューアルバム『トラストフォール
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(フロントロウ編集部)

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