サラ・ポーリーが監督復帰、作品よりも重要視したのは労働環境
映画『死ぬまでにしたい10のこと』や『あなたになら言える秘密のこと』などで有名な俳優であり、『アウェイ・フロム・ハー君を想う』で監督としての才能を知らしめたサラ・ポーリーが、10年ぶりに監督としてカムバックした。
『ドラゴン・タトゥーの女』ルーニー・マーラ、『MEN 同じ顔の男たち』ジェシー・バックリー、『ザ・クラウン』クレア・フォイ、『007』ベン・ウィショー、そして『ノマドランド』フランシス・マクドーマンドという名俳優たちとともに、サラが完成させたのは、宗教内における性暴力と女性軽視、そして女性の覚醒を描く『ウーマン・トーキング 私たちの選択』。
2009年にボリビアでキリスト教の教派メノナイトの女性100名以上が数年にわたりレイプされていた事件を基にしたミリアム・トウズによる同名小説を原作とした本作は、10年ぶりの復帰作であるにもかかわらず、サラのキャリア史上最高の傑作だと評価されている。
しかし監督としてのサラは、制作中には、作品よりもスタッフやキャストの健康を第一に考えたと、米EWのインタビューで話す。「俳優として、時には経験したけど、より多くの頻度で経験したかったことに気がついています。それは、これは安全な環境であり、あなたの健康は映画そのものよりも重要であるという感覚です」と話す彼女は、さらに、人を大事にすることが、結局は作品の質にも繋がると語った。
「セットにいる全員のメンタルヘルスは、みんなが一緒に作っているものよりも重要です。その考えが頭にある時、みんなはより献身的になると思いますし。少なくとも、それが何かを低減することはありません。作っている物よりも、それを作っている経験に価値をおいているのですから。するとみんなは、結局よりいっそう貢献しようとしてくれると思います。それは良い副産物ですね。それはゴールではなく、良い副産物です。なので、それ(スタッフの健康)は私の中でいつも第一優先です。いつも成功しているとは言えませんし、時には失敗もしてきましたが、それは私が最も重視することです」
俳優として参加した作品のほうが多い彼女にとって、安全な労働環境というのは非常に重要だということは身を持って理解しているのだろう。また、結局のところそのほうが成果も出るということに共感する社会人は多いはず。しかし彼女が、スタッフを気にかけた結果、仕事も上向くというのは「ゴールではなく副産物」と注意していることを無視してはいけない。成果という副産物目当てではなく、そこにいる人を守るという意識から環境を整えることは社会において非常に重要な意識。
また、本作は社会や男性から酷い扱いを受ける女性たちを描き、劇中ではトラウマやメンタルヘルスについての描写も多い。だからこそ、人々が身を置く環境について信念を持つ監督がスタッフとともに撮った『ウーマン・トーキング』が米エンタメメディアVarietyに、「紳士淑女の皆さん。あなたたちは新しい国家の誕生を目撃しています。ここにいるのは、新しく、進化した家母長制を創設した女性達です。ここではすべての人が平等で、信仰は許され、女性達は考えることを奨励されています」と評価されていることには、興味を惹かれる。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、日本では2023年初夏に公開予定。
(フロントロウ編集部)