黒人差別と闘った女性を描く映画『Till』
ウーピー・ゴールドバーグがプロデューサーとして名を連ね、シノニエ・チュクウ監督がダニエル・デッドワイラー主演で制作した映画『Till』は、実在の教育家・活動家であるメイミー・ティルの人生を描いた作品。
彼女は、1955年に14歳の息子エメットを白人至上主義者に殺害された。エメットは当時、ミシシッピ州に住む親戚の元を訪れており、買い物で立ち寄った食料品店の白人たちに目をつけられた。白人たちはエメットが滞在していた親戚の家に乗り込み、彼を拉致。リンチの末に銃殺し、遺体の首には綿加工のための機械の部品が有刺鉄線で巻きつけられ、川に捨てられた。
母親であるメイミーは彼の葬式で棺を開けたままにして、身元の判別がつかないほどの無残な姿になった息子の姿を世間に見せ、黒人差別の残忍さを訴えた。犯人達は、陪審員全員が白人だった裁判で無罪となったうえ、その後雑誌の取材で殺害について語り、報酬を受け取っている。
エメットの死と、母親であるティル氏が息子の死後に続けた黒人の人権を守るための活動は、アメリカにおける公民権運動拡大の下地となった。
『Till』をアカデミー賞がスルー
映画『Till』では、エメットが殺されるところは直接的に描かれてはいない。その代わりに、母親や仲間の愛情を受けて明るく育っていたエメットの姿や、息子や黒人コミュニティのために、自分が狙われる危険をともないながらも声をあげたティル氏の闘いを描く。
本作はRotten Tomatoesで批評家から98%、観客から97%の評価を受けており、他にはなかなかないほどの称賛を得ている。ダニエルはゴッサム・インディペンデント映画賞で主演賞を受賞し、全米映画俳優組合賞やイギリスのBAFTAsではノミネートの結果待ち。各地の批評家賞でもダニエルや監督、作品自体がノミネートされている。
にもかかわらず、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞では、受賞どころかノミネートすら一切ないという結果となり、批判があがった。アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞は以前から、黒人や他の有色人種を排除しているという問題が指摘されている。
アカデミー賞のノミネーションリストが発表された際に、チュクウ監督はインスタグラムにティル氏との写真を投稿。思いを綴った。
「非常に積極的に白さを支持することに心血を注ぎ、臆面もなく黒人女性へのミソジニーを永続させる世界、業界に、私たちは生きている。
しかし、私は人生における偉大な教えにいつまでも感謝する。どんな挑戦や邪魔があろうとも、私はいつでも自分の喜びを育む力を持ち、その喜びは、私の中の最も偉大な抵抗の形であり続ける」
(フロントロウ編集部)