ハリウッドで15年ぶりの大規模ストライキ、AI規制では完全対立
ハリウッドで約15年ぶりに大規模なストライキが起こっている。全米脚本家組合(WGA)に所属する映画やテレビの脚本家11,000人以上が参加しており、すでに、『ストレンジャー・シングス』、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』、『The Last of Us』といった人気ドラマの新作の制作スケジュールが延期に。5月2日に始まったストライキの終わりは見えておらず、秋まで続くのではとさえ言われている。
組合側の要望は、ストリーミング時代に減ってしまったライターの待遇改善が中心だが、もうひとつ、スタジオ側と完全に決裂してしまっている部分がある。それが、AIの規制。WGA側はライティングにAIを使わないことと、ライタールームにおけるライターの最低人数確保を要求している。一般的なドラマのライタールームには、10~15人前後のライターが起用される。しかしAIをライターの補佐として使って各ライターの作業スピードを速めれば、ライター数を大幅に縮小できて多くのライターが職を失う、というのがWGA側の恐れていること。
ハリウッドのスタジオやストリーマーが加盟する映画テレビ製作者同盟(AMPTP)は、WGAが求める、ライターの最低人数確保の要求を拒否。一方、「AIが文学作品を書いたり、書き直したり、AIがソースとして使用されることを認めない」規制をWGAが求めている件については、「テクノロジーの進歩について話し合う年次会議を開催する必要がある」と、判断を先延ばしにしようとしている。
AIに“置き換え”られるとされる、映画・テレビの職とは?
ハリウッドにおける映画・テレビづくりにおいて、“AIが出来る”とされる仕事にはどのようなものがあるのか? それを、AI自身(ChatGPT)に聞いてみたところ、このような回答となった。
脚本制作:AIに既存の脚本を含む膨大な量のデータを分析させ、新しい脚本コンテンツを生成させる。
キャスティング:俳優の演技を分析し、過去の演技から特定の役に適した俳優を提案。
編集:機械学習アルゴリズムは、色調補正や音声編集など、基本的な映像編集を行うことがすでに可能。AIが進歩すれば、より複雑な編集作業を担う可能性がある。
視覚効果・アニメーション:高度な視覚効果やアニメーションをより効率的に作成するためにAIがすでに利用されているなか、今後の進歩によっては、人間の視覚効果アーティストやアニメーターの需要が減少する可能性がある。
音楽の作曲:AIに膨大なスコアを分析させ、作品のテイストにあった音楽を作らせることができる。
制作アシスタント:スケジュール管理、予算管理、リソース配分などのタスクを処理できるため、プロダクション・アシスタントの仕事に影響を与える可能性がある。
声優やアフレコ: 高度な音声合成により、AIが声優やアフレコの一部を担当する可能性がある。
翻訳と字幕入れ:異なる言語のコンテンツの自動翻訳はすでにYouTubeなどで導入されているが、技術の進歩によって、音声にぴったり合った箇所に字幕を表示する能力も高まり、すべて自動化される時代がくるかもしれないとされている。
俳優:ディープフェイクを使った俳優の若返りなどはすでにハリウッド映画で使われているが、今後は、亡くなった俳優をスクリーンで“生き返らせ”たり、別の人に危険なスタントをやらせたりと、“本人でなくても良い”状態になっていき、撮影現場に必要な俳優の数が減る心配がされている。
AIが提案したリストからは、AIの影響はあらゆる職種に及ぶことが分かる。そんななか、AIは以下のようにも述べた。
「しかし、AIは特定の作業を自動化することはできても、映画やテレビ業界で重要な人間の創造性、感情、ニュアンスの理解を再現することは今のところできないことに注意する必要があります。AIは、少なくとも当面は、これらの仕事を完全に代替するのではなく、補助するためのツールとして使われる可能性が高いのです」
結局は人間の存在が不可欠だとするAI。実際に、海外では“AIに脚本を書かせてみた”という実験企画が多く実施されているが、どれも作品のレベルとしては駄作。しかし注目すべきは、「今のところ」や「少なくとも当面は」という言葉。驚異的なスピードで進化を遂げているAI。1年後にはどこまでカバーできるようになっているかは分からず、WGAが来年ではなく今の段階で規制を求めているのも、スタジオ側が交渉を先延ばしにしようとしているのも、そういった背景があるよう。