ハリウッドの映画産業はこれまでも、技術の進歩によって形作られ、揺らいできた。AI(人工知能)が台頭する新しいステージの幕の前に立たされ、脚本家たちが大規模ストライキでAIの規制を求める今、テクノロジーがハリウッドにもたらした変化の歴史を振り返る。(フロントロウ編集部)

ハリウッドの仕事を変えてきたテクノロジーたち

トーキー革命

画像: ジョン・ギルバートとクララ・ボウ

ジョン・ギルバートとクララ・ボウ

 ハリウッドの歴史において最も破壊的な技術革新のひとつが、1920年代後半にあったサイレント映画からトーキー映画、つまり音響映画への移行。かつてサイレント映画の頂点に君臨していたスターたちの多くはセリフを発する新たな演技の形についていけず、消えた者も多い。

 例えば、サイレント映画の大スターだったジョン・ギルバート。彼がトーキー映画への移行に失敗した要因には、スタジオとの政治など諸説あるが、観客ウケの良くない甲高い声が理由だともされている。さらに、サイレント映画のイット・ガールだったクララ・ボウも、音響技術への対応に手こずり、そのキャリアは急速に衰えた。

 この2人は、1920年~1930年のハリウッドを舞台にした映画『バビロン』でブラッド・ピットとマーゴット・ロビーが演じたサイレント映画時代の大スター、ジャック・コンラッドとネリー・ラロイの元ネタだとされている。ちなみに、この時代の音響革命はセレブの歯のお直し文化にも影響。そちらについては、『バビロン』登場人物の「歯」はなぜ黄色いのか? 観賞1回では分からない、画面に隠された仕掛けを監督が解説』で読んでほしい。

20世紀半ばにテレビの時代が幕開け

画像: 20世紀半ばにテレビの時代が幕開け

 20世紀半ば、ハリウッドに新たなライバルとして登場したのがテレビ。テレビが家庭に普及するにつれ、映画館の観客動員数は激減。1946年にはアメリカ人の半数が映画館で映画を見ていたが、テレビの所有率が1950年の9%から1960年には90%を超えて拡大するなか、映画館の週間観客動員数は1946年に9000万人だったのが、1960年には4000万人にまで減少。(アメリカ議会図書館、米国国勢調査局のデータより)

 米ヒストリー・チャンネルは、『テレビはどのようにしてハリウッド黄金期を殺したのか(原題:How TV Killed Hollywood’s Golden Age)』という特集のなかで、「映画館は閉鎖され、かつて強大だったスタジオは閉鎖され、ハリウッドの偉大な俳優、監督、脚本家たちが映画製作をやめてしまったのである。それはひとつの時代の終わりで、原因はテレビにあった。ハリウッドの黄金期は、この新しいテクノロジーによって事実上、終焉を迎えたのである」と、当時のハリウッドの変化を振り返っている。

CGIの登場

画像: CGIと実物大のアニマトロニクスを融合させた1993年の『ジュラシック・パーク』は、CGIが映画にもたらす無限の未来を物語った作品として知られている。

CGIと実物大のアニマトロニクスを融合させた1993年の『ジュラシック・パーク』は、CGIが映画にもたらす無限の未来を物語った作品として知られている。

 20世紀後半、ハリウッドはCGI(Computer-Generated Imagery)を手に入れた。この革命的な技術により、映画製作者はそれまでには想像もつかなかったようなシーンや効果を生み出すことができるように。

 エフェクトやモーションキャプチャ、3Dアーティストの需要が急増した一方、CGIによって自由に世界観が作れるようになったため、ロケーション・スカウトやセットクリエイターの需要は減少。また、これまでメイクアップアーティストで生み出していたエフェクトをCGIが取って変わるようになった。

ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

画像1: ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

 21世紀、映画産業は動画ストリーミング・サービス(VOD)の台頭という新たな進化に大きく混乱。

 視聴者に大量のコンテンツを提供するVODのビジネスモデルのおかげでクリエイターや役者に作品が増えたり、データ重視のVODのためハリウッドにおけるデータアナリストやIT分野の雇用が増えたりと、雇用機会を拡大した一方で、しわ寄せも出ている。

 例えば、脚本家たちはストリーミング・サービスの拡大により報酬が大幅に減った。これまで脚本家たちはテレビで作品が再放送されるたびに報酬をもらっていたが、ネットフリックスなどの配信サービスは一度の支払いで数年間配信を独占するため、脚本家の儲けを減らすことに繋がり、WGAは今回のストライキでこの部分の報酬の改善を要求している。

画像2: ストリーミング・サービス(VOD)の台頭

 1920年代に音響の発展がハリウッドにもたらした混乱を描いた映画『バビロン』の監督で、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞監督賞を史上最年少で受賞したデイミアン・チャゼル監督は、映画公開前にフロントロウ編集部にこう語っていた

 「アートとしてのシネマの面白いところは、テクノロジーによって生まれたアートであるところです。絵画や口承のようにテクノロジーが発展する前に有機的に生まれたものではありません。誰かがカメラという品を発明し、人生をイメージに映し、化学的プロセスを使って光のパターンをセルロイドに記録し、印刷して、そこに動きを加え、それがシネマというアートを生み出した。だから映画はつねにテクノロジーと密接な関係にあるのです。そうすると、テクノロジーが大きく変わるとシネマというアートも大きく変わる」

 AIの登場は、今回のリストに登場した技術革新と並ぶ変化であることは間違いないだろう。そうすると否応せず、シネマと言うアートは大きく変わることになる。テクノロジーの変化と共に歩み、その様相をガラリと変えてきたハリウッド。一部の者を時代に置き去りにしながら、業界は発展を続けてきた。AIという新たな技術革新を前に、ハリウッドは才能あるクリエイターたちと共に新たな時代へと歩を進められるのか。(フロントロウ編集部)

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