人口2,500万人の国で有権者の80%近くにあたる約1,300万人が参加した国民投票で2017年に結婚の平等が実現したオーストラリア。時代に合わせて自然に合法化されたと思われがちだが、その背景には、困難だらけの長い長い闘いがあった。一般的に結婚の平等は、法律の改定か、裁判か、国民投票によって実現するものだが、オーストラリアはこの3つすべてを経験したのだ。オーストラリアで結婚の平等を求めるキャンペーンを先導したAustralian Marriage Equality(AME)でデジタルディレクターを務めたアダム・ノーベル氏(Adam Knobel)にフロントロウ編集部が話を聞いた。

結婚の平等がもたらしたインパクトと現状―「活動は今も続いています」

 郵便投票の結果が出た3週間後の2017年12月7日、婚姻法の「男性と女性」という表現が「2人」へと変更された結婚改正法が衆議院で可決。すでに他国で結婚している同性同士のカップルは法的に伴侶と認められ、新たなカップルの婚姻も申告期間30日が経た2018年1月から始まった。そして、2004年に一般市民によるボランティア活動として始まったAMEは、2020年に団体としての活動を終了した。

画像: 可決当日、結婚の平等の実現を祝してシドニー・オペラハウスは虹色にライトアップ。

可決当日、結婚の平等の実現を祝してシドニー・オペラハウスは虹色にライトアップ。

―結婚の平等を求める運動は、アダムさん自身にはどのようなインパクトがあったのでしょうか?

ノーベル氏:「結婚の平等。私にとってそれはいくつかの意味を持ちます。まず、誰もが法の下で平等に扱われるべきだということ。LGBTIQ当事者である私自身も、私のきょうだいが持つ同じ権利を持つべきであり、結婚できるべきだということです。ただ私にとってはそれ以上に大きい意味があります。次世代の若者が、結婚の平等が現実のものとなった社会で育つことができるということです。自分が何者か、自分が誰を愛するかについて国レベルで話し合いが起こることは、ネガティブな経験になりえることです。当時の私は、それをできるだけポジティブで活気に満ちた、ハッピーでオープンで包容力があり、歓迎された会話にしたかったのです。

先日、7歳の息子さんを持つ仕事仲間からメッセージをもらいました。息子さんから『ママ、確認したいんだけど、女の人は女の人と、男の人は男の人と結婚できるんだよね?』と言ったそうです。だから『ええ、そう。それについて何か思うところがある?』と聞いたら『納得できる』と言ったそうです。彼はどこかで何かを聞いて自分の考えが正しいか確認したかったようですが、彼女は『今やこんなところまで来られたなんて信じられる?』と言っていました。彼にとっては、それが自然で普通のことなのです。それこそが、結婚の平等が社会にもたらすインパクトだと思っています。単に結婚できるということだけではありません。大人が法の下で平等に扱われるということだけではありません。子どもたちが成長するなかで、ありのままの自分がサポートされ愛されていると感じられるということなのです」

ー今振り返ってみて、当時十分に活用されなかったと思う施策や、逆に現代のキャンペーン担当者が使うべきだと思うツールはありますか?

ノーベル氏:「ツールというものは、地域社会での会話やつながり、全国各地での人間関係を強化するためのものです。キャンペーン活動をする人にとっては、時間、資金、人手が足りないせいで、活用してもしきれないのが人間関係の構築です。みなさんに安心してコミュニティの中で会話ができると感じてもらえるためにも、個々との関係につぎ込まなくてはいけません。だから私自身、もう一度やり直せるとしたら、私たちがたくさん行なっていたその部分をさらに強化してやると思います。

画像: (2023年3月シドニー)LGBTQ+の権利運動において達成してきたことを祝し、まだ達成していないことを認識するためのプライドマーチには5万人が参加した。

(2023年3月シドニー)LGBTQ+の権利運動において達成してきたことを祝し、まだ達成していないことを認識するためのプライドマーチには5万人が参加した。

―現在、オーストラリアのLGBTQ+コミュニティではどのような権利運動が起きているのでしょうか?

ノーベル氏:「よく言うのですが、私たちが歩んできた歴史を忘れてはなりません。2017年に結婚の平等が成立したことは、長い旅の終わりだったのです。国中の人々による素晴らしい活動やアクティビズムで実現したものですが、この旅は、同性愛者でいることが犯罪だった時代に、友人や家族、職場の仲間にカミングアウトしたすべてのLGBTIQの人たちから始まったものです。その後も、権利のためにデモ行進を行なった活動家たち、LGBTIQの人が養子縁組をする権利を確保した運動家たち、LGBTIQであることを理由に仕事を解雇されないように働きかけた運動家たち、そして、私たちが何年も何年もかけて祝福してきたあらゆる進歩によって築かれたものなのです。このように、私たちはコミュニティとして長い間、平等な扱いを求めて運動してきました。そしてその活動は今も続いています。

オーストラリアのLGBTIQコミュニティで今議題になっているのは、法律の改良であることが多いです。多様なジェンダーの友人や家族が社会でありのままの自分でいられるよう保護されることや、差別禁止法が現代社会の仕組みを反映させた最新のものへとアップデートされているかといった、単純だが必要とされるものです。こういった活動を先導しているEquality Australiaという素晴らしい団体があります。結婚の平等キャンペーンから生まれた団体で、私が一緒に働いていた人たちも何人か在籍しているんです。私は誇りを持って彼らを支援しています」

 Equality Australiaは公式サイトのほか、インスタグラムフェイスブックツイッターで情報発信を行なっている。また、オーストラリアにおける結婚の平等の闘いについては、AMEのアレックス・グリーンウィッチとシャーリーン・ロビンソン著の『Yes Yes Yes: Australia's Journey to Marriage Equality』(※英版のみ)にて読むことができる。

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