セックスにおいて、オーガズム(性的絶頂)に達する回数にジェンダー差がある「オーガズムギャップ」という現象。じつは女性の性的満足度が低い理由のひとつに、“ペニスの挿入”があるといわれている。オーガズムギャップが起きてしまう原因をセクシュアリティ・ジャーナリストであり、米Loveology University認定セックスコーチの此花わかさんが解説した。(文:此花わか/編:フロントロウ編集部)

女性のオーガズムが複雑な理由とは?

 残念なことに女性のオーガズムについて、真相は解明されていない。人間の女性が妊娠するためにはオーガズムに達する必要はないから、多くの研究者たちその謎にずっと頭を悩ませて来た。そもそも、多くの哺乳動物は排卵時だけに交尾をするが、人間は違う。

 男性の射精と同じタイミングで女性がオーガズムに達したら、より多くの精子を吸い取るという説もあるが※8、まだ研究者たちは統一した見解に至っていないのが現状だ。

画像: 女性のオーガズムが複雑な理由とは?

 しかし、アメリカ・ラトガース大学の生態学者であるキンバリー・ラッセル博士は、女性のオーガズムには社会的役割があるという。

「男性にとっても女性にとっても気持ちのいいセックスは、重要な社会的役割を担っている」(キンバリー・ラッセル博士)

 性行為中に分泌される、快楽、多幸感、癒しなどを引き出す様々なホルモンはストレスを解消し、パートナーとの絆を深める。それはすなわち、より結束力の強い集団を作ることでもある。

 「ひょっとしたら、女性のオーガズムは社会的に男女を結び付けるために機能しているのかもしれない」とラッセル教授は説く。※8

メディアが作って来た「男性の射精目線」のセックス

 さて、性科学者のエイヴァ・カデル博士が男性906名、女性535名の計1441名を調査したところ、女性の66.3%、男性の30.6%がオーガズムをフェイクしていたそうだ。女性のオーガズムが複雑なのは女性自身がよく知っていることだが、男性の2倍もの女性がオーガズムをフェイクしている※4

 さらにMOREの調査でも、「オーガズムに達したフリをしたことがあるか?」の質問に、70%以上の人が「ある」と答えている。「相手が喜ぶから」「AVの影響で女性は毎回イクものだと思っている男性が多い」という理由が見られたそうだ。※2

画像1: メディアが作って来た「男性の射精目線」のセックス

 実際に、多くの心理学者や性科学者たちは、女性がオーガズムをフェイクするのは、男性の射精目線のセックス観によるものだと主張する。その最たるものが、「Gスポット神話」「潮吹き」だろう。

 ミンツ教授によると、Gスポットは触ればオーガズムを感じるようなピンポイントの場所ではなく、「腟のすぐ上側に位置し、クリトリスの脚、女性の前立腺腺、腟の壁など広領域を指す」もので、必ずしも存在しないという。※6

 それなのに、Gスポットという概念が浸透した背景には、”男性器を挿入すれば気持ちのよいスポットが腟内に存在するはずだ”、という男性主体の性のあり方を文化やメディアが形成してきたことにある

画像2: メディアが作って来た「男性の射精目線」のセックス

 特にAVに見る過剰な「潮吹き」は、男性の射精を模したものである。「潮吹き」にも諸説があるが、主成分は尿であり、AV女優は潮を吹くために大量の水分を撮影前に摂取して尿道を刺激する。これが潮吹きの撮影現場の実態だ。

 AVだけではない。映画やドラマのセックスシーンを思い浮かべてほしい。セックスはいつも男性の射精で終わらないだろうか?

 男性の射精目線で女性のオーガズムは表現されて来たが、現実の女性のオーガズムは男性の射精よりもはるかに複雑で難しい。だからこそ、私たち女性はオーガズムをこれ以上フェイクしないほうがよいと思う。女性がフェイクすることで、ますます男性のセックスは女性から離れていき、自分の射精至上主義になっていくからだ。

 男性も女性もオーガズムにこだわるのではなく、「お互いが“今”感じる快楽をマックスにするために、一緒に何ができるだろうか?」という考えにシフトしていったほうが、より幸せなセックスにつながるのではないだろうか。

 また、現存する調査の多くはシスジェンダーの女性と男性を対象にしたものだが、今後は多様なジェンダーを対象にした調査が増えていくことでセクシュアル・プレジャーへの理解と意識がより広がっていくことを願う。

【参考】
※1…日本女性の「イク」率は悲しいほど低い – 女子SPA!
※2…20代〜30代女子のセックス事情】500人に聞く!経験人数や好きな体位は?リアル体験談まとめ– MORE
※3…iroha RIN発売記念「快楽解体新書~女性の身体のナカとソト~」 イベントレポート– iroha
※4…Loveology University – Eva Cadell
※5…Differences in Orgasm Frequency Among Gay, Lesbian, Bisexual, and Heterosexual Men and Women in a U.S. National Sample – SPLINGER LINK
※6…The Orgasm Gap: Simple Truth & Sexual Solutions - Psychology Today
※7…Women's Experiences With Genital Touching, Sexual Pleasure, and Orgasm: Results From a U.S. Probability Sample of Women Ages 18 to 94 - Journal of Sex and Marital Therapy
※8…Why do women have orgasms? - LifeScience

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