デビュー前からビリー・アイリッシュを魅了し、インディペンデント時代にはテイラー・スウィフトからもラブコールを受けた期待の新人アーティスト、コーシャス・クレイが名門ブルーノートからメジャーデビューアルバム『カルぺ』をリリース。アフリカ系アメリカ人としての自身のルーツの探究をテーマにした『カルぺ』についてコーシャスにインタビューを実施し、同アルバムから、音楽活動をスタートさせたきっかけ、過去に不動産エージェントとして勤務していたときの話、日本との関わりまで様々なトピックについてトークしてきた。コーシャス・クレイについて今のうちに押さえておきたい12のポイントにまとめた(フロントロウ編集部)

コーシャス・クレイってどんな人?本人にインタビュー

1. 曲を書けて、歌えて、7種類の楽器を弾けるマルチプレイヤー

 コーシャス・クレイというアーティストを紹介する上でまず欠かせないのが、曲を書けて、歌えて、複数の楽器を弾くことができる、マルチな才能を持ったアーティストだということ。

 「プロとしてのキャリアをスタートさせたのは23歳の頃ですが、音楽やビートは16歳の頃から作っていました。それから大学へ行き、国際関係学を学んだのですが、そのときもビートは作っていました」と、現在30歳のコーシャスはフロントロウ編集部とのインタビューで自身の音楽遍歴について明かす。

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 「7歳頃からフルートは吹いていましたし、サックスも15歳くらいから弾いていました。様々な音楽から影響を受け、独学で音楽を学んでいたのですが、そのうちクラシックのフルートのレッスンを受けるようになり、ジャズバンドにも入ったので、様々な角度から学ぶことができました。音楽はいつだって僕にとって直感的に捉えられるものでした。他の何よりも音楽のことは理解できましたし、音楽は自分にとって心地の良いものでした。そうしていくうちに21歳のときに歌うことも始めて、大学4年次にはボーカルのレッスンも受けました。そのときは既にプロデュースには取り組み始めていたので、そこから歌声を組み合わせていくようになりました」

 今、コーシャスが演奏することのできる楽器はいくつあるのだろうか? 本人に訊ねてみると、こう教えてくれた。「大抵はフルートやサックスを弾くだけですが、プロダクションを行なうときにちょっとだけギターやキーボード、ドラムを弾くこともあります。ソプラノサックスも含めると、2から6くらいの楽器をいつも弾いていますね」


2. 音楽を始めたきっかけはディズニー映画『アラジン』

 「7歳頃からフルートは吹いていました」と語っていたが、当時7歳だったコーシャス・クレイことジョシュア・カルペ少年の心を動かしたのは、ディズニーのアニメーション映画『アラジン』。「子どものときはとにかくディズニーが大好きだったのですが、『アラジン』に、蛇使いが登場するシーンがあって、“(蛇使いが吹いている)あの楽器を吹きたい”って思うようになったのを覚えています」

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 「これが笑えるのですが、あれはきっとフルートではなくて、厳密にはオーボエとか他の楽器だと思うのですが、当時はそうは思っていなかったんです。それで、優しい母が僕にフルートを買ってくれたのですが、もらったときは、『違う、これは思っていた楽器じゃない』って、悲しみましたよ。でも、母親からは『いいからやってみなさい。せっかく用意したんだから』と言われて、そこから吹き始めたという感じです」とコーシャスは微笑みまじりに当時を振り返った。


3. アーティスト名の由来はサウンドに“慎重”になっていたから

 日本語で“慎重”を意味する“Cautious”という言葉がついたユニークなアーティスト名を持つコーシャス・クレイだが、これは文字通り、アーティストとしての自分のサウンドへの“慎重”なまでのこだわりに由来しているという。

 「元々はビートやリミックスを制作していたときに使っていた名前でした。自分自身のことをそうやって表現していたんです。DJをしていたのですが、そのときに使っていた名前です。当時は自分のミックスが特有の(particular)サウンドに聴こえるように、細心の注意を払っていたんです。そのことにとにかく慎重に(cautious)なっていたのですが、そのときに、コーシャス・クレイ(Cautious Clay)っていう響きは良いなって思ったんです」

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 最終的には、“響きの良さ”でこの名前に決めたという。「パティキュラー(particular)・クレイとか、そういう他の名前よりも響きが良く聞こえて、コーシャス・クレイっていう響きが気に入りました」


4. 不動産エージェント時代の経験が今に活きている

 コーシャスは、大学卒業後にすぐにプロのミュージシャンになったわけではなく、まずは不動産エージェントに就職したというユニークなキャリアの持ち主でもある。「本当に嫌いだった」という不動産エージェントとしての仕事では、「粘り強さと、自分が成し遂げたいことを信じることの大切さ」を学ぶことができたとコーシャスは振り返る。

 「自分にとって大切なものの価値を改めて実感できましたし、同時に、生活が懸かっていたので、(不動産業という)自分が気にかけていなかったことの大切さも学ぶことができました。家やアパートの売り方を勉強しましたが、音楽のような、自分が心から気にかけているものであれば、遥かに進んで取り組めることも学びました」とコーシャス。不動産エージェントの仕事に嫌々取り組んでいた経験が、今、活き活きとミュージシャン活動をしていることに繋がっているという。


5. 「Cold War」がミュージシャンとして本格的に歩み出すきっかけに

 そんなコーシャスが不動産エージェントを辞め、プロのミュージシャンとして活動を始めるきっかけを作ってくれたのが、現在までに1億5,000万回以上再生されている2017年リリースのデビュー曲「Cold War」。

 「当時は長く付き合っていた交際相手がいたのですが、その人のことは大切に思っていたものの、もうこれ以上は続かないだろうなって思うようになっていました。その時の関係性を冷戦(cold war)になぞらえたのがこの曲です。身体的には戦っていないものの、僕らの内側で冷戦が起きていたんです」とコーシャスは「Cold War」について教えてくれたが、この曲がヒットしたことで、ミュージシャンとしても生計を立てていけるはずと確信できたという。

 「この曲はすぐに人気になったので、自分でも『きっとうまくいくはず』って思いました。それで、当時は貯金も少しありましたし、いずれにせよ職場をクビになりそうだったので、そうなる前に辞めることを決意しました。そういう立場になれたことは幸運に思っています」


6. テイラー・スウィフトやビリー&フィニアスもファン

 テイラー・スウィフトも多くのオーディエンスと同様、「Cold War」に心を掴まれた1人。テイラーはこの曲を自身の「London Boy」にサンプリングで使用している。コーシャスはこのときの経緯について、「テイラーが僕のファンで、曲を使いたいと言ってくれたので、実現したものです」と振り返る。

 デビュー曲でテイラー・スウィフトの心を見事に掴んでみせたコーシャスだが、デビュー前には既に、ビリー・アイリッシュと、その兄で共作者のフィニアスという、今や世界で最も影響力のある兄妹とも言える2人からも「ファン」だと言われていたという。

 コーシャスは当時、フィニアスからの依頼でビリーのデビュー曲「Ocean Eyes」のリミックスを手がけており、その時のことについて次のように振り返ってくれた。「ビリーが14歳だったときに彼女に会いました。ビリーも彼女のお兄さんも当時、僕のファンだと言ってくれて、リミックスを依頼してくれました。それで、リミックスを担当したという経緯です」


7. 名門ブルーノートと契約したばかり

 デビュー当初からマルチな才能を発揮して、インディペンデントアーティストとして「Cold War」をヒットさせたのみならず、その後はNetflixオリジナルシリーズ『13の理由』など多くの映像作品にも自身の楽曲を提供するなど、幅広く活躍してきたコーシャスだが、今回、名門ブルーノートとの契約を発表。メジャーデビューアルバム『カルペ』を8月18日にリリースした。

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 これまでずっとインディペンデントで活動していたなかで、今回初めてメジャーレーベルと契約することにした理由については、「前回のアルバムとは違ったことに挑戦したいと思いました。今回のアルバムでは、母方の祖父母と父方の祖父母の、両方の家系を辿りながら、自分の家族の文化的なアイデンティティを探究するという、音楽以上の大きなテーマに繋がるストーリーを伝えたいと思っていたんです。音楽面においてではなく、文脈という面においても、そのストーリーを最も適切な形で伝えられるのが、ブルーノートだと思いました」とコーシャス。

 ブルーノートが歴史あるレーベルであることが、契約の決め手になったという。「言うまでもなく、ブルーノートは素晴らしいアーティストたちが紡いできた深い歴史のある素晴らしいレーベルであり、このアルバムでは彼らとコラボレーションするのがふさわしいと感じたのです」


8. メジャーデビューアルバム『カルぺ』は自分のルーツを探究した作品

 ファミリーネームが付けられていることからもわかるように、『カルぺ』は、コーシャスことジョシュア・カルペが自身のルーツを探究することをテーマにしている。

 「このアルバムでは両方の祖父母との関係性について歌っています。そのうちの一つはカルペ家で、もう一方はディンガス(Dingus)家です。カルペというのは西アフリカ系の名前なのですが、祖父母は2人共が移民で、その子どもたちがアフリカ系アメリカ人となり、そして、そのまた子どもとして生まれた僕もアフリカ系アメリカ人となりました」とコーシャスは自身の家系について説明する。

アルバムからのファーストシングル「Ohio」は、コーシャスが自身の出身地であるオハイオ州にオマージュを捧げた楽曲。

 「頭の中ではそういうことを意識してきたのですが、両親や祖父母との関係性を解き明かして、それが親密さやサイケデリックなドラッグ、そして音楽そのものに対する僕の考え方にどう影響を与えたかを紐解いてみたいと思ったのです」


9. 多くのアーティストからの影響を受けてきた

 様々な音楽からの影響が取り入れられているコーシャスの唯一無二のサウンドからもわかるように、彼が影響を受けてきたアーティストたちも幅広い。

 「スティーヴィー・ワンダーは大好きでしたし、ジョージ・デュークとジョージ・ベンソンという2人のジョージにも夢中でした。それからホイットニー・ヒューストンも大好きですし、挙げたらキリがないですね。初期の頃のレニー・クラヴィッツに、ミント・コンディション、ディオンヌ・ワーウィック、それから『Stoned Soul Picnic』を歌ったローラ・ニーロも好きですし、たくさんの人たちから影響を受けました」


10. オーディエンスを最大限リスペクトしている

 アーティストとしてのコーシャスのモットーは、“オーディエンスをリスペクトする”こと。コーシャスの楽曲は人生における普遍的なことをテーマにしていることが多いが、それは意識してのことだという。

 「恩着せがましくなったり、きっと理解できないだろうと思い込んだりすることなく、一つの経験をオーディエンスに伝えたいと思っています。他の人たちの経験を配慮していないように感じることなく、直接的ではない形でストーリーを伝えたいのです。『こんなにあからさまには感じたくない』って思われないような形で、何かを示したいんです。あからさますぎるのは望んでいません。共感できるものであってほしいのですが、同時に、自分のオーディエンスは何も分かっていないとも思い込みたくないのです」


11. ジャンルは「リスナー次第」

 そうしたオーディエンス第一の姿勢は、多くのジャンルからの影響がミックスされた“自分の音楽をどのように定義しますか?”という質問に対する答えにも表れている。

画像5: コーシャス・クレイってどんな人?本人にインタビュー

 「フォークとロック、ジャズの間だと思います」と、自身の音楽のジャンルについて定義しつつも、「その本質はリスナーの皆さんに委ねたいと思っています」とコーシャス。音楽はリスナーと自分を繋ぎ、自由に解釈してもらうためにあると話す。「僕の主な動機は、人々との繋がりを促すことにあります。それがメロディであれ歌詞であれ、繋がるための音楽だと思っています」


12. 日本に1日だけ滞在したことがある

 まだ来日公演は行なったことがないコーシャスだが、2020年に飛行機のトランジットで「1日だけ」日本に滞在したことがあるという。

 「2020年の1月にタイのバンコクへ行った時に少しだけ立ち寄りました。1日だけの滞在だったのですが、その日は奇しくもコービー(・ブライアント)が亡くなった日で、『日本の神戸(※)の近くにいるよ』と思ったのを覚えています。いずれにせよ、日本にはトランジットのために1日滞在しただけだったのですが、ぜひまた行きたいと思っていますよ。日本との繋がりは多くはなく、実は韓国へは何度も行っていて、3週間くらい滞在したこともあるのですが、日本も素敵な国という印象がありますよ」

※米現地時間2020年1月26日にヘリコプター事故で亡くなったコービー・ブライアントの“コービー”と“神戸”は英語では同じ“Kobe”という綴り。コービーという名前は、“神戸牛(Kobe Beef)”にちなんで名付けられたというエピソードがある。

画像6: コーシャス・クレイってどんな人?本人にインタビュー

 インタビューでは、日本のファンに次のようにメッセージを寄せてくれた。「日本でライブができることを願っていますし、日本の皆さんと盛り上がって、素敵な時間を過ごせたらなと思っています!」


<リリース情報>
コーシャス・クレイ
メジャーデビューアルバム
『カルペ』
配信中
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画像: cautious-clay.lnk.to
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Photo:Meron Menghistab,ゲッティイメージズ

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