サム・スミスが5年ぶりとなる来日公演を開催
定刻を5分ほど過ぎた頃に、最新作『グロリア』の世界観に沿った黄金のコルセットを纏い、シャツにネクタイで決めたサム・スミスがステージに登場した。
巨大な黄金の像の上に立ち、サムが最初のセクションで披露したのは、グラミー賞を席巻した初期の代表曲「Stay With Me」をはじめとした、過去作の楽曲たち。ラストに披露することもできたであろう「Stay With Me」を冒頭に持ってきたことからは、“ここまでずっと一緒にいてくれてありがという”というサムからオーディエンスへの感謝のメッセージのようなものが伝わってきたが、サムが登場した瞬間から最後までずっと会場が湧きっぱなしだったこの日のライブで最も印象的だったことの一つが、サムとオーディエンスの絆の深さだった。
日本に不在だった5年の間にさらに深まったファンとの絆を噛み締めるような、「心の底からの感謝と、ずっとそばにいてくれてありがというということを伝えたいです」というMCの後で、「今夜、大切なのは2つのことです。まず最初にLove(愛)がありますが、このショーのメインはfreedom(自由)です」と、今回のツアーのコンセプトについて説明したサム。そうしたテーマを敷きながら、セットリストは3つのパートに分かれるというものになっていて、<Part 1:Love(愛)>、<Part 2: Beauty(美)>、<Part 3:Sex(セックス)>の3つのパートで構成されている。
セットリストは、「I'm Not the Only One」や「Too Good at Goodbyes」など、冒頭で初期の代表曲を披露した後で、<Part 1:Love(愛)>が始まるという構成。『グロリア』の「Perfect」から始まったこのセクションから、事実上の本編が幕を開ける。フリルのついた天使のような衣装にチェンジしたサムは、「Diamonds」、「How Do You Sleep?」、「Dancing With a Stranger」と、テーマとなっている愛に沿った楽曲を披露していく。
「Diamonds」でも、大胆に開脚を披露するなど、自身のセクシャリティを解放するようなシーンがあったが、そうした姿勢は<Part 2: Beauty>に入っていくにつれてさらに解放されていく。ファンからの「かわいい〜」という歓声に迎えられながら、シルバーのスパンコールがついたドレスを纏って登場したサムは、「Kissing You」からこのセクションをスタート。ほぼアカペラから始まった「Lay Me Down」、「Love Goes」と続いたセクションの前半は、コーラスを担当する一人一人とデュエットするという演出が続き、一人一人を大切にするサムらしさが詰まった構成に。
どちらかといえばサムの美しく力強い歌声にフォーカスしたパフォーマンスが続いた後で、圧巻だったのは、「Gimme」から始まった<Part 2: Beauty>の後半のセクション。例によってスパンコールのついたハットを被って登場したサムの周りでは、キラキラしたシースルーの衣装を着たダンサーたちがジェンダーに関係なく腰を振ってみせる。<Part 3: Sex>に向けてアクセルを踏むような演出から続いたのは、ダンスナンバーのオンパレードだった。
「Lose You」、カルヴィン・ハリスとの「Promises」、「I'm Not Here to Make Friends」と続いていったこのセクションで、サムは着ていたガウンを脱いで自らも踊りを披露するなど、さらに自身のありのままの美しさやセクシャルな欲求を解放していく。観客にジャンプを促すサムの周りでは、ダンサーたちが、同性同士と見られる組み合わせのコンビになって抱き合い、キスまで披露して、様々な愛の形を祝福してみせた。
印象的だったのは、ピンクのジャケットに、ハートマークのついたジーンズという衣装にチェンジした後で続けて披露された「Latch」が、このクィアな文脈に沿う形でパフォーマンスされていたこと。ディスクロージャーとのコラボであるこの曲は、11年前の2012年にリリースされ、ブレイクのきっかけの1つとなった曲だが、この曲が今の地平で奏でられていたことからは、サムがこの11年で“変化”したわけではなく、サムはあの時からずっと、今のようなサムで、それをようやく解放できたのが最近だったのかもしれないということが伝わってきた。
そして、このセクションの最後に披露されたのは、ドナ・サマーの「I Feel Love」のカバー。レインボーのレーザーに照らされたステージの上で、サムはダンサーに囲まれながら踊り、上半身裸になるというパフォーマンスを披露。自分のありのままの身体を愛するというメッセージを伝えて、ありのままの“美”を祝福し、肯定するセクションを締めくくった。
ライブのフィナーレを飾ったのは、巨大な布を纏って登場し、ほぼアカペラで披露した「Gloria」から始まった<Part 3:Sex>のセクション。マドンナの「Human Nature」をカバーした後で、この日の最後の楽曲として披露したのは、グラミー賞でパフォーマンスした際にはそのマドンナがプレゼンターを努めたことでも話題になった、トランスジェンダーであるキム・ペトラスとの「Unholy」。
グラミー賞で最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)賞を受賞した同曲は、クィアと公言しているアーティスト同士がコラボした曲として初めて全米1位を獲得した曲でもある。ミュージックビデオでサムが着けている、赤い悪魔の角をグッズ化したカチューシャを着けていたファンも多かったこの日の会場では、この曲に最も大きな歓声があがっていたことも記しておきたいが、この曲がグラミー賞を受賞した際には、受賞スピーチで、サムがキムにマイクを譲っていたことも記憶に新しい。
そう、サムは日本に不在だった5年の間に、サムはマドンナのようなパイオニアからバトンを受け継ぎ、自らが変革者となるフェーズを経て、それをキムのような後進に引き継ぐような存在になったのだ。この日のテーマでもあった愛と自由を体現する存在であり続け、それをもって全米まで制覇してみせたサム。自分の好きな衣装を纏って5年ぶりに日本のステージに立ち、一人一人のありのままを祝福して解放を促してくれたサムは頼もしく、ゴールデンのステージも相まって神々しくもある先導者のようでありながら、それでいて親しみやすさも兼ね備えた、今最も必要とされているようなポップスターそのものだった。
10月13日Kアリーナ横浜公演セットリスト
Stay With Me
I'm Not the Only One
Like I Can
Too Good at Goodbyes
<Part 1:Love>
Perfect
Diamonds
How Do You Sleep?
Dancing With a Stranger
<Part 2: Beauty>
Kissing You
Lay Me Down
Love Goes
Gimme
Hurting Interlude
Lose You
Promises
Dorothy’s Interlude
I'm Not Here to Make Friends
Latch
I Feel Love(ドナ・サマーのカバー)
<Part 3:Sex>
Gloria
Human Nature(マドンナのカバー)
Unholy
<リリース情報>
最新アルバム『グロリア』
品番:UICW-10031
価格:2,860円(税込)
仕様:SHM-CD
日本盤ボーナス・トラック 2 曲収録
解説・歌詞・対訳 付
発売中