A24から連絡が来たのは59歳。小島秀夫が21歳の監督に「勝てない」


映画『バックルームズ』の日本公開初日に、ケイン・パーソンズ監督が来日した。舞台挨拶に登壇したゲームクリエイターの小島秀夫は、21歳の監督を前に完敗宣言をしている。(フロントロウ編集部)
満員の客席で、黄色い花束が渡された
9月4日、TOHOシネマズ 六本木ヒルズで映画『バックルームズ』の来日舞台挨拶がおこなわれた。登壇したのは、ケイン・パーソンズ監督と、スペシャルゲストのゲームクリエイター・小島秀夫。満員御礼となった客席を前に、監督はこう挨拶した。
「僕は『バックルームズ』というアイデアに何年も取り組み、それが世界中に広まりました。これほど多くの人々に届いたのを見るのは、とても奇妙な感覚です。そして会場に足を運んでいただいた皆さんには感謝を伝えたいです」
初来日の感想を求められると、「テクノロジーとアートが融合する建築などの芸術文化が素晴らしく、これまで訪れた国の中で一番好きかもしれない。そんな日本で近い将来、素晴らしいクリエイターとコラボできたら嬉しいです」と話している。小島は、本作をイメージした黄色い花束を監督に贈呈。本編を見る前の観客に向けて、「デジタルで育った人がデジタルの感覚をアナログのフィルムに焼き込んだらこんなに凄いという。そんな特別な体験になると思います」と予告した。
「A24から連絡があったのは59歳くらい」
ケイン・パーソンズが映像クリエイターとして動き出したのは2021年頃のこと。3Dソフトウェアを使ってリアルな『進撃の巨人』風のアニメを作り始めたのがきっかけだった。翌年から『バックルームズ』の原型になる短編映像を発表し、17歳の段階で配給元となるA24からコンタクトを受けている。19歳で撮影、そして21歳の現在、長編デビュー作が世界48カ国で初登場1位を記録した。
この経歴に、小島も驚きを隠さなかった。「僕は23歳で『メタルギア・ソリッド』を作って、A24から連絡があったのは59歳くらい。本当に羨ましい。僕の若い頃にはA24はなかったけれど、早く連絡してくれれば良かったのに…」と笑わせている。
すでに本作を鑑賞していた小島の評価は、冗談の裏で相当に手厳しかった。「彼はデジタル世代でゲーマー。ゲーム的3D空間で捉える感覚があるのか、普通の映画の作り方をしているのに結構違う3D空間の感覚を二次元に投げ出して、違和感のある特殊な作りをしている。そこにまずビックリ。エンタメだけれどアートで、物語の構造も面白く、サウンドを含めてクレバーな事をしている」。そして、「嫉妬を覚えるくらい、これは勝てないなと思った」と言い切った。
音の置き方が、普通の映画監督と違う
小島が具体的に挙げたのは、異空間の作り方だ。「観客をあまりにも過ぎる異空間に入れてしまとポカンとされてしまうけれど『バックルームズ』が上手いのは、現実と地続きである事」「物語の舞台となる建物自体は変わった風景ではない。でも何かが違うという違和感。常に自分と近い距離の異空間をいかに作るのかが巧みで、観客の脳が徐々に違和感を理解していくような工夫がなされている。ケイン監督がゲームに慣れ親しんできたからなのか、特に音の使い方や配置が普通の映画監督とは違うと思う」。

この指摘に、監督は満面の笑みで手の内を明かした。「スコアの作曲やサウンドデザインのプロセスにも密接に関わりました。アプローチとしては完全なサントラを作った後に、編集した映像に合わせて音のレイヤーを重ねたり、リミックスしたり、リバーブをかけたり、曲をあえて効果音のように使用したりもしました。使い方としてはゲームでの音の使い方に近いかもしれません。蛍光灯のノイズ一つにしてもトーンを変えたり、登場人物の反応に対して意図的に音を入れたりして。同時にその上に変な音が付いているという形にもしています」
制作にあたって監督が意識したのは、「まるでメモリーゲームをプレイしているかのような臨場感と没入感」だったという。小島は「観ている自分も吸い込まれていくような、自分の立ち位置が曖昧になる違和感があって、最初は何が怖いのかわからない。映画を観た後に皆で語り合って、さらにもう一度観るという楽しみが本作の醍醐味であり新しさ。若い世代やるなあと思った」と語っている。
舞台となるのは、どこまでも続く黄色い壁紙の部屋と、終わりのない廊下。不自然な間取りに、意味を失って床に埋まった設置物。ネット上の都市伝説として語られてきた”リミナルスペース”が、キウェテル・イジョフォーやレナーテ・レインスヴェの出演する126分の映画になった。『バックルームズ』は全国公開中。

















