「AIと一緒に仕事をするか、完全に業界から去るかだ」。Prime Video映画『ザ・ランナー』のプロモーションでポッドキャストに出演したガル・ガドットが、映画制作におけるAIの使用について持論を展開。その発言がSNSで物議を醸している。(フロントロウ編集部)
映画『Bitcoin』でAIを活用
批判の発端となったのは、ガル・ガドットがポッドキャスト「Happy Sad Confused」に出演した際の発言。ダグ・リマン監督の新作映画『Bitcoin』について語るなかで、AIを使用した映画制作への考えを明かした。
『Bitcoin』は、暗号資産ビットコインの生みの親とされる「サトシ・ナカモト」の正体をめぐるスリラー。かつて自らがサトシ・ナカモトだと主張したオーストラリア出身のコンピューター科学者クレイグ・ライトをめぐる物語が描かれ、ガルのほか、ケイシー・アフレック、ピート・デイヴィッドソン、アイラ・フィッシャーらが出演する。製作費は約7,000万ドルと報じられている。
同作が注目を集めている理由のひとつが、その制作手法。撮影はロンドンに設けられた簡素なサウンドステージで行われ、背景となるセットやライティングなどをAIを使ってポストプロダクションで作り上げるという。
プロデューサーのライアン・カヴァノーによると、約200カ所に及ぶロケーションを従来の方法で再現した場合、製作費は3億ドルを超えると試算されていたという。AIを活用することで、2億ドル以上のコストを削減できたとしている。
「自分の演技にAIを関与させたくなかった」
ガルはポッドキャストで、『Bitcoin』への出演契約について「これまで取り組んだなかで最も時間がかかった契約だった」と回顧。AIが自身の演技に影響を与えないよう、弁護士たちが約6カ月かけて、想定されるさまざまなケースを検討したという。
「自分の演技にAIを一切関与させたくありませんでした。そこは守らなければならなかったんです」
さらに、その契約内容についてSAG-AFTRA側が他の俳優を保護する契約を整備する参考にするため、ガルの弁護士に助言を求めたとも説明。「演技に関しては、すべて私自身です」と強調した。
一方で、SNSで議論を呼んだのが、AIそのものに対するガルの考えだった。
「AIは怖い。でも、怖いからといって目を背けるの? いいえ。私は怖いけれど、AIを使ってみたり、学んだり、理解しようとしています」
そして、「列車はもう駅を出た」と表現し、AIについて「一緒に仕事をするか、完全に業界から去るかだ」と発言。AIの存在を避けるのではなく、可能な限り自分を守りながら付き合っていく姿勢を示した。
「自分だけを守っている」とSNSで批判
この発言が広まると、SNSではガルの姿勢を疑問視する声が上がった。米BuzzFeedなどが取り上げた反応のなかでは、自身の演技がAIによって改変・代替されないよう契約で保護した一方、セットやライティングにはAIを利用した作品に出演していることを「矛盾している」と捉える意見が目立った。
『Bitcoin』では、従来であれば美術や照明などが担う工程の一部にAIが活用されている。このため、一部のユーザーからは、俳優自身の権利は守りながら、制作スタッフへのAIの影響には十分配慮していないのではないかという批判が寄せられた。
ただし、AIの導入によって具体的に何人分の雇用が失われたのかは明らかになっていない。ガル自身も「多くの人がこの映画で働いていた」と強調し、大規模なクルーが制作に参加していたと説明している。
ハリウッドで続くAIをめぐる議論
映画業界では、AIをどこまで制作に取り入れるべきかをめぐる議論が続いている。2023年に行われたSAG-AFTRAのストライキでも、俳優の容姿や演技をデジタル技術で再現する際の同意や報酬などが重要な争点のひとつとなった。
今回の『Bitcoin』では、ガルの演技そのものにはAIを使用せず、その一方でセットやライティングなどにAIを導入するという方法が採られている。俳優の演技や肖像を保護する問題と、AIが映画制作に携わる他の職種へ与える影響が、必ずしも同じルールでは語れない現状を浮き彫りにした形だ。
「AIは怖い」と率直に認めながらも、すでに存在する技術として向き合う必要があると語ったガル。その姿勢を現実的だと見るか、自身の立場を優先していると見るかで、反応は分かれている。
『Bitcoin』の公開時期は現時点で発表されていないが、作品が世に出る前から、その大胆なAI活用をめぐる議論が巻き起こっている。


















