ノミネートを果たしたグラミー賞を欠席
テイラー・スウィフトは第62回グラミー賞で最優秀楽曲賞、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞、最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞の3部門にノミネート。授賞式の舞台では、サプライズパフォーマンスを披露するというウワサもありながら、同アワードの開催数日前になり、今回は参加を見送ることが発表された。
テイラーが、急遽、グラミー賞への出席を取りやめたといわれる理由について、現時点では本人から直接の説明はないが、世間でささやかれている最も有力な説が、彼女が自身の不参加を通じて、グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミー(以下アカデミー)や音楽業界全体の性差別的な体質に異議を唱えたというもの。
グラミー賞授賞式の開催を10日後に控えた1月16日、アカデミーは、同団体のCEOを務めていたデボラ・デューガン氏を「アシスタントを務めていた職員へのパワハラ」を理由に職務停止処分に。
これに対し、デューガン氏は、雇用機会均等委員会(EEOC)も巻き込んでアカデミーを相手取って訴訟を起こし、自らの身の潔白を主張するとともに、アカデミーの不正を告発。
その内容には、グラミー賞のノミネート選考や投票において不正が行なわれていることや、前CEOのニール・ポートナウ氏が女性アーティストをレイプしたこと、さらに自身がアカデミーの顧問弁護士からセクハラを受けたことなどが含まれていた。
<デューガン氏の告発の内容>
● 前任のポートナウ氏は女性アーティストをレイプ。それにもかかわらず、アカデミーはポートナウ氏へのボーナス支給を計画していた。
● グラミー賞のノミネートでは不正が行われている(2019年の最優秀楽曲賞の最終ノミネートの8組に選ばれた曲には、計20曲の候補中、一般投票では下から2番目の18位だった曲も含まれていた/一般投票では選ばれていない30組ものアーティストが、アカデミーの裁量でノミネート候補リストに加えられた/ノミネートされるアーティスト本人がアカデミーのミーティングに出席して、ノミネートへの投票権を持つこともあった)
● アカデミーの顧問弁護士であるジョエル・カッツ氏からセクハラを受けた(ディナーや別荘への旅行に誘われた)
● アカデミー内での男女の賃金格差。女性CEOである自分への報酬が、これまでの男性会長の報酬額を大幅に下回っている
デューガン氏は、2018年のグラミー賞後、女性アーティストが少ないことを指摘されたことに対して「女性はもっと頑張らないといけない」と発言して大きな批判を浴びたポートナウ氏の退任を受け、2019月8月にアカデミー創設以来の初の女性としてCEOに就任した人物。
以前から男性優位な体質が問題視されてきたアカデミーの体質を抜本的に改善しようと尽力する最中に起きたデューガン氏へのパワハラ告発の裏には、彼女をトップの座から引きずり降ろそうとする何らかの力が働いたのではないかと言う見方もある。
女性CEOへの支持を表明?
デューガン氏の告発に関して、アカデミー側は、彼女の主張は「事実無根である」と反論。グラミー賞における不正やセクハラ疑惑についても否定している。
波乱含みで開催された今年のグラミー賞授賞式では、音楽界を激震させているデューガン氏の訴えに対して、参加・受賞アーティストたちがどのような反応を見せるかに注目が集まったが、結局のところ、この件に関してスピーチなどで触れるアーティストはいなかった。
テイラーはノミネートを果たしたすべての部門で受賞を逃したが、テイラーが授賞式への不参加を通じてデューガン氏へのサポートを示し、アカデミーの性差別的体質や不正に対して“無言の反論”をしたと信じる人々は、彼女の決断に喝采を送っている。
ちなみに、テイラーの授賞式参加に関しては、もともと確約されていたものではないが、事前に公開されたリハーサルのスケジュール表や席順表から読み取れる情報から、彼女がサプライズゲストとしてパフォーマンスするようだという説が濃厚に。ステージでは、「全力疾走するのにはもうウンザリ/もし私が男だったら、もっと早くそこに辿りつけるのに」といった歌詞で男性至上主義社会に物申した楽曲「ザ・マン(The Man)」を披露するのではないかとウワサされていた。
デューガン氏の騒動と関連性があるかは分からないが、テイラーのほかにも、今年のグラミー賞にノミネートを果たしながらも、授賞式には不参加だったアーティストは複数。
レディー・ガガは主演映画『アリー/スター誕生』の関連楽曲で3部門にノミネートされたが、5年ぶりに授賞式を欠席。さらに、4部門にノミネートを果たしたビヨンセは、前日に行なわれたレコードレーベル主催のプレパーティーには参加したものの、授賞式自体は不参加。エド・シーランやセレーナ・ゴメス、ポスト・マローン、チャンス・ザ・ラッパーらも授賞式会場には姿を現さなかった。(フロントロウ編集部)