国歌斉唱中に起立せず
米現地時間2月2日(日)、フロリダ州マイアミのハードロック・スタジアムで開催された第54回スーパーボウル。NFC王者に輝いたサンフランシスコ・フォーティナイナーズ(49ers)と、AFC王者を制したカンザスシティ・チーフスが真の王者の座をかけて激突した同試合は、全米だけでなく世界中のNFLファンが注目する一戦となった。
この日、会場には、たくさんのセレブたちも足を運んだが、なかでも、ひときわ周囲の視線を集めたのが、8歳の長女ブルー・アイヴィーちゃんを同伴してVIP席に姿を現したシンガーのビヨンセとラッパーのジェイ・Z夫妻。
しかし、そんな3人がキックオフ前の国家斉唱の最中に起立しなかったことが物議を醸している。
Americans are dragging #Beyonce, #JayZ and their daughter, #BlueIvy for remaining seated while the National Anthem rendition went on at the #SuperBowl pic.twitter.com/D3TjbDmrFG
— ngozi clara (@ngoziclara) February 3, 2020
周囲が起立し、選手たちと一緒に国家『星条旗』を歌唱するなか、3人は静かに着席したまま。じつは、彼らのほかにも、あえて国家斉唱時に“起立しなかった”観客はたくさんいたのだが、注目度の高い夫妻のアクションを収めた動画がSNS上で拡散されると、彼らの行動に対して賛否の意見が飛び交った。
起立を拒否した理由
ビヨンセ&ジェイのこの行動は、2016年に当時サンフランシスコ・フォーティナイナーズのクォーターバックを務めていたコリン・キャパニック選手が始めた「テイク・ア・ニー」という人種差別への抗議運動を受け継ぐものであり、夫妻は確かな意図を持って起立をしなかったと米Peopleは伝えている。
「テイク・ア・ニー(#TakeAKnee)」とは?
コリン・キャパニック選手が主導した、国歌斉唱の際に起立を拒否し、ひざまずくことで、アフリカ系米国人に対する警察の暴力に抗議する人権保護運動。
彼に賛同する選手たちが続々と後に続いたが、ドナルド・トランプ米大統領をはじめとする保守派の反感を買ったことを受け、NFLは選手の抗議活動を禁止に。キャパニック選手は[選手生活を継続することが困難な状態を余儀なくされ、実質的にNFLから追放された。
この件を機にNFLに不信感を抱いたシンガーのリアーナは、2019年のスーパーボウル・ハーフタイムショーの出演オファーを辞退。さらに、数多くのセレブたちもボイコットを表明し、それまで出演希望者が殺到していたハーフタイムショーのパフォーマーがギリギリまで決定しないという異例の事態が発生した。
スーパーボウルに協賛しているのになぜ?
ご存知の方も多いかもしれないが、ジェイは、今回のスーパーボウルに裏方として携わっている。
キャパニック選手の騒動以降、NFLの体制に不満を募らせるアーティストが多いなか、2019年の夏、ジェイが運営するロック・ネイションはNFLとパートナーシップを組むことを発表。
ライブミュージック・エンターテイメント・ストラテジストとしてNFLと契約を結んだ同社は、スーパーボウルのハーフタイムショーをはじめ、エンタメ関連のコンサルティングや、NFLが最近立ち上げた雇用機会の平等を目指すキャンペーンの一環である「インスパイア・チェンジ」にも参加し、今後、NFLの改革を後押していくことが明らかにされた。
当初、アフリカ系アメリカ人であるジェイが、アフリカ系アメリカ人への差別に対する抗議運動を規制したNFLと手を組むことを疑問視する声も。
しかし、米TMZによると、ジェイはNFLとの契約締結に先立ってNFLの重役とともにキャパニック選手と話し合いの場をもうけ、自身が率いるロック・ネイションの参入は、キャパニック選手が始めた人権保護運動を継承し、NFLにさらなるインクルーシヴィティ(包括性)をもたらす目的があると説明したとされている。
ステージでは社会問題に鋭く斬り込む演出も
ロック・ネイションは、シンガーのジェニファー・ロペスとシャキーラという2大歌姫が共演を果たした今回のスーパーボウル・ハーフタイムショーの実現にもひと役買った。
ジェニファーのパフォーマンスでは、「檻に入った子供たち」を登場させ、昨今アメリカで問題となっている不法移民やその子供たちへの不当な扱いに焦点を当てるという社会風刺的な演出も。
J-Lo gave us such a big political statement during the #SuperBowl putting latin kids inside a cage singing "Born in The USA" Congrats JLo and Shaki for the AMAZING #HalftimeShow #Jlosuperbowl pic.twitter.com/aVR1uWYQXr
— Jennifer Lopez BR (@jlobrasil) February 3, 2020
フットボールは非常に多くのアメリカ国民が感心を持つ国技の1つ。ジェイは、NFLの懐に入り込むことで、人種差別問題や移民問題といった深刻な問題にスポットライトを当て、たくさんの人がそれらの問題について知る機会を作ろうとしているよう。
ロックネイションとNFLの契約締結のニュースが伝えられた際、一部から批判が湧きあがったことについて、ジェイはこんな風にコメントしていた。
「傷ついたり、軽視されたり、家族を失っている人がいる限り、(彼らを救うためなら)自分がネガティブな報道をされたって構わない」—米New York Timesに語って
妻ビヨンセと娘ブルー・アイヴィ―ちゃんとの国歌斉唱中の“起立拒否”の裏にも、自分たちの行動が議論を巻き起こすことを予測したうえで、再び人種差別問題に脚光を浴びせようというジェイなりの思惑が秘められていたものとみられる。
追記:その後、国歌斉唱中に起立しなかった理由について米TMZから直撃されたジェイは、自身とビヨンセが何らかのメッセージを送ろうとしたという世間の見解を否定。「残念ながら違うんだ」と、実際にはデミ・ロヴァートのパフォーマンスに圧倒され、ビヨンセとともにアーティストの観点からショーを観察していたところ、夢中になり、起立を忘れたと説明した。しかし、ジェイは、自分たちの抗議に関しては否定したものの、「多様性に富んだパフォーマーたちによるショーこそ、最も偉大な抗議だ」とコメントしている。
(フロントロウ編集部)